767:5thナイトメア4thデイZ-1
別キャラ視点です
「「「ーーーーー!!」」」
「ん……何の音?」
夜中、私は遠くの方から聞こえてきた音に目を覚ました。
時刻はゲーム内時間で四日目が開始してから二時間ほど経った頃。
もう一度寝てもいい時間だが、なんだか胸騒ぎのような物がしたので、私は起きる事にした。
「んー……」
私は寝床から起き上がると、体の調子を確かめていく。
『CNP』を始めてから結構経つが、呪限無の中で寝起きした経験はあまりないので、柔軟にしろ装備の確認しろ入念にしていく。
寝床にしていた拠点の内外にはいつものメンバーだけでなく、付き合いのないプレイヤーたちが何百人と居て、その内の幾らかが寝ずの番や交代での見張りをしているから、安全性と言う観点では相当のもののはずだが、何が起きてもおかしくないのが呪限無と言う場所だと思うからだ。
「ふわぁ、ザリアさん?」
「起こしちゃったわね。ごめんなさい、シロホワ」
「いえ。えーと、まだ見張りの交代をする時間ではないですよね」
「ええ。ただ、少し胸騒ぎがしたから、外を見て来るわ」
「分かりました。私も準備していきます」
「別に一人でも……」
「念のためです。後、兄が近くに居ない気がするんですよね」
「……」
と、私が柔軟体操している音でシロホワを起こしてしまったらしい。
シロホワは眠そうに一度目を擦ると、直ぐに準備を整える。
それにしてもブラクロが近くに居ない気がする、か。
ブラクロは普段の言動が言動なので、イマイチ信頼や信用をされていないし、私としてもしづらいのだけど、実力については文句なしのトッププレイヤーの一人。
そして実力以上に特定の場面における勘や動きが鋭く、大きく事態が動く時はだいたい真っ先に動いている。
妹と言う関係性ゆえにか、そのブラクロ限定でなら、シロホワもまた鋭い面がある。
そうなると……やはり何かが起きているかもしれない。
「とりあえず周囲の状況を確認しましょうか」
「そうですね」
私とシロホワは拠点の外に出る。
なお、これは余談だが、プレイヤーの数が多い事もあって、私たちが今居る拠点の建物内については夜間は女性プレイヤー専用となっていて、男性は屋外に居るようになっている。
なので、拠点から出れば直ぐに入り口近くで見張りをしている女性プレイヤーと、その女性プレイヤーから信頼されている男性プレイヤーたちの姿が見える。
「あれ?」
「これは?」
はずだった。
拠点の外には数人の深く寝入っているプレイヤーがいるだけで、殆どのプレイヤーの姿はなかった。
「誰も……」
「「「ーーーーー!!」」」
「!?」
「な、あんだぁ!?」
「ふあっ!?」
そして、その数人もたった今叩き起こされることになった。
周囲一帯に響き渡るような何かしらの生物の咆哮によって。
私とシロホワは直ぐに音の出所の方を向く。
「アレは……」
「あの位置は……」
音の出所は昨日、黒い卵が出現した場所。
『ユーマバッグ帝国』の皇帝、ザッハークが居たとされる場所の方からだった。
しかし、そこには既に卵はなく、呪詛の霧によって照らし出されたのは三つ首の竜と思しき巨大な生物のシルエットだった。
「アオオオオオオオオォォォォォォン!!」
「あー、兄はもう向こうに居るみたいですね。後、ロックオさんやカゼノマさんも」
「そうみたいね。この分だとクカタチやスクナさんももう向こうかしら」
ブラクロの咆哮が響き渡り、私たちにバフがかかる。
どうやら既にブラクロはあの竜と戦い始めているようだ。
そして、周囲に居るプレイヤーの数からして、起きていたプレイヤーの大半は既に竜に向かっており、私たちはどちらかと言えば出遅れた方になるようだ。
「急ぎましょうか。ザリアさん」
「そうね。このままだと私たちの取り分が少なくなるわ」
私たちは一度拠点の中を確認、既に他のプレイヤーたちが目を覚ましている事を確かめると、戦闘の場に向かいつつ状況の推察をする。
恐らくだが、私が目を覚ます切っ掛けとなった音、アレの出所もあの三つ首の竜であり、あの音が発せられたタイミングが丁度戦闘開始ぐらいだったのだろう。
それなり以上に戦闘が長引いているなら、寝ている他のプレイヤーを起こして戦力の増強を図るはずだから、これは間違っていないはず。
「掲示板には特に情報は無し、と」
「でもあれって元ザッハークですよね。たぶん」
「たぶんじゃなくて確定でいいと思うわ」
あの三つ首の竜の正体がザッハークなのは確定でいい。
私含めて上位陣はザッハークが色々と盛られてカース化するのは割と想定内だったし、そのザッハークが居た場所に生じた黒い卵からあの竜が出てきたのなら、元が何だったのかは考えるまでもない。
そして問題はそこではない。
「問題は強さがどのくらいか、ね。レベル40前後かつ単体なら『虹霓鏡宮の呪界』で散々戦ってる竜呪たちと同格かそれ以下。ボス補正のような物を込みで考えても、何とかはなると思うけど……」
「邪火太夫みたいなのが来たら、タルさん以外ではどうしようもなくなりそうですよねぇ」
「でも竜呪未満だったら、牛陽の竜呪と同じくらいの大きさしかなさそうだし、よほど妙な能力を持っていない限りはもう終わっていそうな気がするのよね」
今一番気にするべきは、私たちの実力で倒せるか否か、この点だ。
「遠くから暫く様子を窺ってみます?」
「そこは状況を見てからで。ブラクロたちが頑張っているのに、私たちが怠けるわけにはいかないから」
やがて私たちは戦場全体が見渡せる位置に着き、戦いの状況を確認し始めた。