765:5thナイトメア3rdデイ-13
「おっと、おとと、危ないなぁ」
「む、やはり避けられるでチュか」
ザリチュの攻撃をゼンゼは的確に避けていく。
ゼンゼの使う鎌と言う武器は相手の攻撃を受け止めるのには適していないので、避けるの自体は当然と言えるが、ゼンゼの避け方はズワムロンソの化身ゴーレムの顔の向きに応じて刃が伸びる事を理解した上での動きとなっており、隙は無い。
「こっちからも行くで!」
「チュお、チュアっと」
ゼンゼの反撃をザリチュは基本的には避け、時には盾で受け流す。
鎌の攻撃の軌道は独特なものであり、受けるのは難しいはずなのだが、そこはザリチュと言うべきか、きちんと凌いでいるようだ。
「『熱波の呪い』」
「っう!? 攻撃が……激しい……!」
「いいでチュよ! たるうぃ!」
私は『熱波の呪い』によって操る呪詛に攻撃判定を持たせると、呪詛の剣を十数本出現させてゼンゼに向かって飛ばす。
対するゼンゼは九本の尻尾を巧みに動かす事で、呪詛の剣を弾いているようだ。
だが、ただの尻尾で熱と呪詛の塊を弾くなんて振る舞いが出来るわけがない。
となると、何かしらの装備か呪術によって、弾けるようにするための能力を持たせていると言う事だろう。
「『淀縛の邪眼・2』」
「チュアッハァ!」
「くっ、本当に容赦ないなぁ!」
続けて『淀縛の邪眼・2』による干渉力低下の付与を試みる。
ただし、放つのは目一つ分だけ。
乗せられるだけの呪法は乗せておくが、それだけだ。
結果、私が『淀縛の邪眼・2』を放つと同時に、ザリチュと切り結んでいるゼンゼの周囲に半透明の球体のような物が出現し、私の邪眼術を弾く姿が見えた。
やはり状態異常対策の準備は万全だったか。
「ザリチュ!」
「言われなくても分かってるでチュよ!」
「また的確な連射やなぁ!」
そして、ゼンゼほどのプレイヤーが対私用として用意したであろう対策が、一度防いだだけで終わりになるような物とは思えない。
だから半透明の球体が出現してから3秒ほど経過して、球体が消え去るのを確認してから、再び目一つ分の『淀縛の邪眼・2』を動作キーで発動。
その攻撃もやはり半透明の球体によって防がれるが……。
「さあゼンゼ、貴方の用意している状態異常対策は何回分なのかしらね?」
「さて……何回分……やろうな!?」
それで何も問題はない。
特定のプレイヤーからの攻撃を無限に防ぐ手段など仕様上有り得ないのだから、何処かで防ぐ限界がやって来て通るようになる。
それまでは最低限の発動条件だけ満たすように邪眼術を撃ち込み続ければいい。
「ふんっ!」
「チュア!?」
「おっと……」
と、此処でゼンゼが尻尾の一つを器用に動かし、小さな鎌をザリチュの顔の横を通りつつ私の顔面に突き刺さるように投げてくる。
それをザリチュは多少大きく動いて、私は最低限の動作で避ける。
そして、私たちの回避行動中にゼンゼは数歩分遠ざかるように移動しているように見える。
うん、見えるだけだ。
「見えていないとでも?」
「ごふっ!?」
私が操る呪詛の星がゼンゼの腹に叩きこまれ、吹き飛んでいく。
ザリチュを避けつつ、私への直接攻撃を狙える位置へと素早く移動していたゼンゼに対してだ。
呪術かアイテムかは不明だが、効果としては自分の幻影を出現、移動させて、囮にすると言うところだろうか。
この森の外でならば引っかかっていただろうが、残念ながらこの森の中で私相手に誤魔化しは通用しない。
「この……森の力は反則的過ぎるやろ! いったい何処のボスや!」
「実際、『ダマーヴァンド』のボスよ。私は」
「でチュねぇ」
体勢を立て直そうとするゼンゼに私の邪眼術が放たれては防がれ、ザリチュの攻撃が行われては凌がれる。
うん、私の事を反則的だなんだと言っているが、守りに専念しているとはいえ、私とザリチュの波状攻撃を凌ぎ続けている時点でゼンゼの戦闘能力も十分反則的な部類ではないだろうか?
とは言えそろそろか。
「改めて宣言させてもらうわよ。ゼンゼ、貴方を拘束させてもらうわ」
「出来ると思うてるん? 長時間の拘束が出来ない言ったのはタルはん自身やで」
「本当に出来ないのかと言う検証も兼ねて試すのよ。ゼンゼ。『淀縛の邪眼・2』」
「っ!?」
もう数度目になる『淀縛の邪眼・2』がゼンゼに放たれる。
だが、今度はゼンゼを守る半透明の球体は出現せず、干渉力低下(26)の状態異常が入った。
どうやら状態異常防御は品切れのようだ。
「raelc『淀縛の邪眼・2』」
「ぐっ!?」
この機を見逃さず私はゼンゼに接近。
呪詛の剣でゼンゼの四肢を切りつけつつ、剣がゼンゼの体に触れたタイミングで『淀縛の邪眼・2』を発動。
四肢の動きに限定した干渉力低下によって、ゼンゼの四肢から力が抜け、その場にへたれこみ始める。
「まだ……」
「尻尾ぐらいなら刈り取っても死なないんじゃないでチュかね?」
「でしょうね」
「っうう!?」
だがゼンゼにはまだ九本の尻尾が残っている。
だから呪詛の鎖で尻尾を絡め取り、伸ばさせ、その根元をザリチュに斬らせて、一時的にだが切り落とす。
「こ……」
「『沈黙の邪眼・3』」
続けて呪詛の剣をゼンゼの喉に突き刺しつつ『沈黙の邪眼・3』を発動して、沈黙を付与。
これで詠唱キーによる呪術の発動も、動作キーによる呪術の発動も、よほど特殊なキー設定にしていない限りは不可能になったはずだ。
「これで後は自殺出来ないように周囲の木々で拘束と檻を……」
ゼンゼを捕えた。
そう判断した私は周囲の木々に干渉する事でゼンゼを捕えておくための檻を作り出そうとした。
「……!」
「なっ!?」
「たるうぃ!?」
だが、私の行動が実際に行われるよりも早くゼンゼの頭部から光が漏れ始め、次の瞬間には爆発した。
「ゼンゼ……予め奥歯に爆薬でも仕込んでいたわね……」
「みたいでチュねぇ……」
砂煙が晴れた後、私の視界に映ったのは首から上がなくなったゼンゼの死体が風化して消え失せていく姿だった。
まさか自爆するとは……いや、ゼンゼのこれまでの行動を考えれば、万が一を考えてこれぐらいの備えはしていて当然なのかもしれないが、まさかここでされるとは思わなかった。
とりあえず、風化中の死体には嫌がらせで足元の砂を蹴り飛ばしてかけておこう。
「森の中には居ないんでチュよね?」
「居ないわね。死に戻り場所はちゃんと外に確保してあったみたい」
そうしてゼンゼの死体は消えた。
ゼンゼが何所に向かったかは完全に不明。
私が今から追う事は不可能だ。
一方的に情報を取られたような状態だが、使用回数に限りがある物は何も使っていないし、いいとするか。
ゼンゼの追跡を諦めると、私は森の中の拠点に戻って寝る事にした。