763:5thナイトメア3rdデイ-11
「来たわね。タル」
「来たわよ。ザリア」
「来たでチュよー」
今回のイベント中に回収したフード付きのマントを身に着けた状態で、私はザリアたちが集まっている場所に姿を現した。
なお、具体的な位置としては、『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の影響下にある森のすぐ横の開けた場所である。
私の姿がNPCに見られかねないのが不安なところだが……まあ、ちゃんと隠しているし、呪詛の霧による視認性の悪化も含めれば、事故は起きないだろう。
「さて、これでだいたいのプレイヤーは集まったかしら?」
「はい、集まったと思います。ザリア様」
「まあ、話し合いに応じるつもりがあるプレイヤーについては、と言うところだけどな」
「それで十分じゃないか? 協力する気がない奴が一緒に居ても、足を引っ張るだけだしな」
さて、この場に集まっているプレイヤーだが……私の知り合いだと、ザリアたち、マントデアたち『ガルフピッゲン』の面々、ストラスさんに陰険ドロイドと言った検証班の面々、ザリア分隊のモヒカン隊長も居るし、『光華団』、『エギアズ』、クカタチたちも居るか。
そして、私の知り合い以上に覚えのないプレイヤーが多い。
「では話し合いを始めましょうか」
「と言っても、この場で話し合う事なんてそう多くはないけどな」
ライトローズさんの言葉で全員が一度黙る。
で、エギアズ・1の指差しで以って、全員の視線が卵のように見える物体へと向けられる。
「あの卵を割るか、無視するか。それと『幸福な造命呪』及び人形増殖手段の打倒まで協力するかしないか。それぐらいだろう」
「そうね。具体的にどう協力し合うかはその場でそれぞれが話し合って決めた方がいいでしょうし、足並みを過度に揃えようとするのは、それこそ揉め事の種になるだろうから」
まあ、やはりそういう話になるか。
ただ、そういう話になるなら、少し確認と言うか、伝えておきたいことがある。
「少しいいかしら?」
「何かしら、タル」
と言う訳で挙手して注目を集める。
「その辺りの件について、私は掲示板に二つほど書き込みをしたんだけど、それを見た人はどれぐらい居る?」
「どれぐらいって……」
「タルの書き込みか……」
「えーと……」
反応は……見てない人が多そうか。
「じゃあ、この場で改めて伝えておきましょうか。まず一つ、あの卵についてはゼンゼと言うプレイヤーなら何か知っているはずよ。爆心地に居たはずだから」
「ゼンゼ、九尾の狐の美女のような姿のプレイヤー、だったか」
「確か前回のイベントでタル様と組んでいたプレイヤーでしたね」
「つまり今回の元凶の一人か……」
「彼女なら色んなプレイヤーが探しているわ。彼女がザッハークのテントに入ってから暫くして、あの爆発が起きたと言う証言は色んな所から得られているし、関与しているかはともかく、何か知っているのは確実だもの」
ゼンゼについてはやはり多くのプレイヤーが探しているか。
とは言え探す相手がゼンゼだからなぁ……自前の呪術とステルスシステムの組み合わせ、それに本人の性格やら技術やらを考えると探し出せる確率はそう高くはないだろう。
「そう。探しているならいいわ。じゃあその上で一つ。あの卵はかなり濃い呪詛を纏っている。割れば、当然その呪詛も広がるでしょうね。そして、中身が既に外で生存可能な状態になっている可能性がある事は考えておいて欲しいわ」
「なるほど。つまり、あの卵を割る気なら、相応の高濃度呪詛対策と戦闘準備をしておくように、と言う事ね」
「そういう事ね」
なので、探し出せない前提で釘を刺しておく。
まあ、ゼンゼが探し出せて、素直に吐いてくれれば、必要のない釘なのだけど。
「後は宝物庫の方だけど、あそこのソロ攻略は無理だから、しようなんてと考えない方がいいわ」
では宝物庫の方の話をしよう。
と言っても、主に話をするのは庭園で戦ったと言うか、一方的に殴られた筋肉像についてだが。
アレについては知らないと対処が出来なくなる。
「タルが一方的にボコられる……」
「こわっ、宝物庫こわっ!」
「こりゃあ、今現在宝物庫に潜入中の連中がどうなったのかは想像に難くないな」
「ナイスバルクゥ……」
「と言うか他の人形たちのオリジナルも居るんだよな。その庭園」
「こりゃあ、庭園に踏み込む時は戦争をするつもりで行く必要があるな……」
反応は上々か。
うん、私の犠牲を無駄にせず、しっかりと対策をしてから挑んでいただきたい。
さもないとナイスバルクされます。
「でもよ、その筋肉像って本当にそんなにヤバいのか?」
「どういう意味だよ?」
おっと反論か?
いや、表情からしてきちんと議論をする気っぽいな。
「いやさ、注意を逸らすと瞬間移動染みた移動からの攻撃をされたり、的確に呪術を潰すのは確かにヤバいとは思うけど、話を聞いた限りタルとの相性が桁違いに悪いのも確かだろ? 複数人で挑めば普通に倒せるんじゃね?」
「そうね。筋肉像一体に対して6人か7人くらいで挑むなら、特に問題なく戦えると思うわ」
妥当な反応なので、私は素直に頷く。
そして、私の言葉に少なくない数のプレイヤーが安堵の表情を浮かべ、視線を逸らしたり、気を抜いたりする。
「ただね」
「「「!?」」」
なので、そんな油断を見せたプレイヤー全員の眼前に呪詛の剣を生成し、切っ先を向ける。
「今のレベルでの注意逸らしでも筋肉像は反応してきたわ。だから本当に気を付けないと、あっという間に全員殴り飛ばされるわよ」
「「「……」」」
私の言葉に多くのプレイヤーが息をのむ。
「地味にタルが人間離れしたことをしているわね……」
「タル様の行動、前兆がまるでなかったですね……」
「たるうぃ、今回のイベントはアイテム確保じゃなくて修行に使っているでチュからねぇ」
ザリアたちの言葉は無視するとしてだ。
「そういう事だから、挑むなら筋肉像の相手をするプレイヤーは筋肉像だけに注意を向けられるようにしておきなさい。これは経験者からの忠告よ」
その後、卵についてはゼンゼが見つかるか、変化があるまで放置する事で決定。
宝物庫については、幾つかのPTは協力体制を結ぶことにしたらしい。
「で、タルは宝物庫についてはどうするの?」
「私は……まあ、上手くやるわ。最終手段は考えてあるし」
「そ、そう……」
「絶対碌でもない手段でチュ」
「宝物庫ごと、とかでしょうか……」
なお、私については変わらずである。
最後の手段の事を考えると誰かと協力体制にあるのはあまり良くないからだ。
まあ、最善なのはそんな手段を使わずに済む事だが。
そうしてこの場での話し合いは終わり、私は森の中に戻っていった。
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