761:5thナイトメア3rdデイ-9
「えっ、ちょっ、たるうぃの手が燃えて、それを木でもみ消して、もみ消す時に潰れた体を再生して……何をやっているんでチュか!? たるうぃ!?」
「え? それは今はどうでもいい事じゃない?」
「どうでもよくないでチュよ!? さらっとやっていたでチュけど、何を考えているんでチュか!?」
「死ななければ安い。略して死な安って言うじゃない。それよりも、『幸福な造命呪』の対狙撃用っぽい反射能力をどうするかを考える方が先よ」
「いつもの事と言えばいつもの事でチュが……色々と酷いでチュ……」
私から『幸福な造命呪』に対する攻撃は難なく反射された。
ただ、周囲の人形からの呪術による物っぽい支援や、近くに居るプレイヤーからの遠距離攻撃は受け付けている点からして、『幸福な造命呪』の反射能力は超遠距離からの攻撃に限定されるものとみていいだろう。
まあ、あの場の何処かに居るはずのレライエが『幸福な造命呪』への攻撃をしていなかった点から考えて、その手の何かがあるという予測は付いていたし、だからこそ先ほどの『灼熱の邪眼・3』による攻撃は使う目の数を一つにしておいたのだが。
「んー、『幸福な造命呪』が今もこちらの事を気にする様子もなくマントデアと殴り合っている点からして、時間制限や回数制限はなさそうね。『幸福な造命呪』なら今の攻撃の出元が何処の誰かぐらいは分かっているでしょうし」
「……。つまり、距離だけを条件にする事で、永続的に反射能力を展開していると言う事でチュか?」
「そうなるわね」
私は再び呪憲による望遠を開始。
すると丁度『幸福な造命呪』の強烈なアッパーがマントデアの顎に決まり、マントデアがたたらを踏ませられると言う珍しい光景が見えた。
勿論すぐに他のプレイヤーのカバーが入るので、マントデアがそのまま押し切られることはない。
が、やはり少しずつ押されている感じはあるか。
このままだとその内、ザッハークが居るであろう場所にまで宝物庫側の攻撃は及ぶかもしれない。
「能力の出所は何処かしらね?」
「出所でチュか?」
「私は反射能力を得られるような素材を作成時に入れた覚えは……うん、ないわ」
「そこは迷わず言い切って欲しいんでチュが」
「そう言うザリチュは?」
「色々と混ぜたでチュからねぇ……混じっている可能性は否定できないでチュ」
「そこは否定して欲しかったわねぇ……」
まあ、前線が崩壊したところで、最悪でもザッハークが殺されて、帝国軍が壊滅するだけ。
実は私としてはそんなに困らないので、じっくり反射能力について考えよう。
「でもそれを言うなら、ぜんぜとまんとであが仕込んだものにそう言うのが紛れ込んでいてもおかしくないでチュよ。後は周囲の人形たちがそう言うバフを張っている可能性もあるでチュ」
「ついでに言えば、宝物庫にそういうアイテムがあって、他の部品と同じように体内に収納してる可能性もある、か。出所を考えるのは、あまり建設的ではなさそうね」
反射能力の出所は不明。
場合によっては同系統の能力を持ったアイテムを体内に複数仕込んでいる可能性も否定できないか。
うん、完全に超大型ボスと同様に何十人、何百人で戦うべき相手と化しているように思える。
「そう言えば今はタエドとは呼ばないんでチュね」
「私のタエド呼びはちゃんとお前を見ているし、聞いているぞと言う表明みたいなものだもの。本人が目の前に居ないなら、通りがいい方で呼ぶわよ」
「あ、そういう事なんでチュか」
しかし、こうして前線での戦いを見ていても、反射能力が発動することはない。
やはり発動条件は距離、それも数百メートル離れてようやく発動する、私やレライエだけを狙い撃ちにしたような反射のようだ。
じゃあ、一つ実験してみよう。
「そろそろ一度試すわよ」
「そうでチュか」
私は呪憲による望遠を解除。
それから呪詛の槍を生み出し、その中へ呪詛の種を装填。
『幸福な造命呪』の後ろ、僅か数メートルの部分を狙って発射する。
そこに居るのは、『幸福な造命呪』を支援している人形たちの一体だ。
「ytilitref『飢渇の邪眼・3』」
人形に乾燥の状態異常が付与され、その人形を始点として周囲にいる他の人形たちにだけ、透明な呪詛の蔓が伸びていく。
勿論、蔓が伸びていく相手の中には、『幸福な造命呪』も含まれており……。
「よし、入ったみたいね」
「なるほど。距離がトリガーでチュから、『呪法・感染蔓』による巻き込みには対応できないんでチュね」
マントデアに殴られた『幸福の造命呪』の体が派手に燃え上がった。
「で、騒ぎになっているんでチュが?」
「スルーしましょう」
私の放った『飢渇の邪眼・3』が持つ伏呪の効果によって、一部の人形たちの体が攻撃を受けると同時に燃え上がるようになった。
その光景に宝物庫側は淡々と対処しているが、どうしてかプレイヤーたちや帝国軍の方が狼狽えている。
誰がやったのか分からないから驚くのは分かるが、自分たちに不利な変化ではないのだから、そこは攻め続けて欲しかった。
「『幸福な造命呪』が撤退し始めたでチュねぇ」
「私の事を警戒して、かしらね?」
「まあ、たるうぃがやったのは分かっているとは思うでチュよ」
と、ここでマントデアに大量の人形が一斉に襲い掛かって足止めが始まり、その間に『幸福な造命呪』が宮殿の方へと移動を始めた。
どうやら『幸福な造命呪』は次の私からの攻撃が来る前に撤退をする気らしい。
で、他の人形たちは複製である事を利用し、死兵として暴れ続けるつもりのようだ。
「今日は此処までかしらね」
「追撃はしないんでチュか?」
「此処からじゃ間に合わないし、宝物庫内は他のプレイヤーと足並みを揃えないと、またナイスバルクされるわ。ザリチュはされたいの? ナイスバルク」
「アレはざりちゅも嫌でチュねぇ……」
宝物庫側は戦線を宝物庫の内と外の境界にまで下げるつもりであるらしく、他の人形たちの動きがプレイヤーと帝国軍を深追いする気はない物に変わっていく。
それならば、外に出ている人形の殲滅が終わったところで、確実に『幸福な造命呪』を打ち倒すためにも、一度明日以降の打ち合わせをしてもいいかもしれない。
私がそこまで考えた時だった。
「「!?」」
唐突にザッハークが居るであろう皇帝軍の本営が爆発し、火柱が立ち上った。
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