760:5thナイトメア3rdデイ-8
「んー、戦況は微妙なところみたいねぇ」
「でチュねぇ……」
デスペナと『化身』のコストとして付与された状態異常の回復は終わった。
そして、新しい化身ゴーレムを普通の砂で作成した。
で、これらの作業をしている間に掲示板への書き込みと掲示板からの情報収集も終わらせた。
「まあ、『幸福な造命呪』が前線に出てきた上に、破壊できない壁を巧みに利用しているから当然の流れではあるんじゃないでチュか?」
「そうね。妥当性について言えば、妥当と言う他ないと思うわ」
その掲示板からの情報によれば、ザッハーク率いる帝国軍はプレイヤーを加えたことによってその戦力を大きく増し、宮殿から出て来る人形やフィギュアたちを返り討ちにしながら進んだ。
彼らは宮殿の入り口目前にまで、一部のプレイヤーに至っては宮殿の中へ侵入する事にも成功したらしい。
が、そこで『幸福な造命呪』が現れて、戦線は宮殿の入り口から少し離れた場所にまで下げられてしまったようだ。
どうやらプレイヤー側が操っていたゴーレムやアンデッドが奪われた上に、『幸福な造命呪』の出現に合わせて他の敵も強化された事で戦力比が覆り、押し返されたようだ。
また、戦線から離れて、宮殿の探索を単独あるいは1PT程度で始めたプレイヤーたちは……まあ、私と同じように撃退されたらしい。
どうやら私を倒した筋肉像のような上位人形とでも呼ぶべき個体が何体も居るようだ。
「おっ、直接見えたわね」
「見えちゃったでチュねぇ……」
さて、現在の私たちは、そんな前線からは離れた場所……私の『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の影響によって生じた森の中に居る。
もっと具体的に言えば、森の木々の中でも一際大きく高く育って、高さ100メートル近い巨大な樹の先端近く、何かしらの飛行能力がなければたどり着けないであろう場所に、いつの間にか出来上がっていたトラペゾヘドロン型の展望台のような場所に居る。
「えーと……出来たわね」
「何をやっているんでチュか?」
「ちょっとした呪憲の応用。空気の光の屈折率とかを弄って、望遠鏡みたいにしているのよ」
「うわぁ、でチュねぇ……」
この森と宮殿の間には結構な距離がある。
しかし、この高さと、呪憲の応用で視界の望遠をしていれば、詳細まで確認ができる。
と言う訳で、私の目の一つには、マントデアと殴り合っている『幸福な造命呪』の姿が見えていた。
「と言うか、そんな事をして大丈夫なんでチュか? たるうぃ」
「この望遠状態を利用して攻撃を仕掛けたら色々と削れたり、ペナルティがありそうな気がするけど、ただ見ているだけなら大丈夫みたい。むしろ、普段の防御や攻撃よりも性に合っているのかしら? 違和感とか削れている感じが一切しないわね」
「ああ、納得は出来るでチュねぇ……」
マントデアと『幸福な造命呪』の戦闘は激しい。
マントデアが三本の腕で殴り掛かる度に雷鳴が轟き、『幸福な造命呪』が爪を伸ばして振るう度に閃光が煌めく。
そしてマントデア側はプレイヤーが、『幸福な造命呪』側は人形たちが、様々な支援を行っており、目立つところでは大量の爆発と回復のエフェクトが、目立たないところでは氷の槍や黒い呪詛の塊、浄化の光が乱れ飛んでいる。
うん、正に戦争と言う感じだ。
「それにしても……人形の複製は『幸福な造命呪』がやっているわけじゃないのね」
「そう言えばそうみたいでチュねぇ……」
「となるとやっぱり何処かで上手く忍び込んで、相手の戦力の出元を削る必要がありそうね」
ただこの戦争、あそこまで押し返された時点で、此処からプレイヤー側が再び宮殿まで押し返すのは、今日の所はもう無理だろう。
なにせ帝国軍とプレイヤー側は少しずつ負傷者を出して人数が減っているのに対して、宝物庫側は今も新しい人形たちが出現して、こちらに襲い掛かってくるのだから。
既に押し返されている状態で相手の戦力が増しているのでは、やられるだけだ。
とりあえず出元をどうにかしないとどうしようもないと言う話は掲示板に流しておくとしよう。
「まあ、それは明日以降にしましょうか。私たちは安全圏に居るし、今のうちに確かめるべき事を確かめるべきね」
「そうでチュねー」
ちなみにだが、帝国軍とプレイヤーたちは私たちが居るこの森を完全に無視しているが、宝物庫側もこの森は既に無視する対象になっている。
と言うのも、呪憲による何かしらの妨害が働いているらしく、何かしらの呪いによって複製された人形たちがこの森に踏み込むと、途端に動きを止めた上に近くの木の根に絡め取られて消滅。
その後、木が根の辺りから株分けされて、森が広がるようで……うん、無視されていると言うか、あからさまに避けられている。
一体なぜこんな森になったのか、私は不思議でならない。
「では、『灼熱の邪眼・3』」
まあ、それはそれとして仕掛けていこう。
私は呪憲による望遠を止めると、敢えて目一つ分の『灼熱の邪眼・3』を『幸福な造命呪』に向かって放った。
その瞬間、『幸福な造命呪』の周囲に半透明の赤い膜のような物が出現。
「おっと」
「チュアッ!?」
『灼熱の邪眼・3』を放った目の周囲……左手全体が炎に包まれた。
「たる……」
「なるほど。『幸福な造命呪』は狙撃に対する反射能力持ちなのね。レライエが仕掛けない筈ね」
私はザリチュが驚きの声を上げる中、周囲の樹を動かして火をもみ消し、それから体を再生する。
そしてザリチュがどうしてか呆然としている中で、私はあの反射能力に穴がないかを考える事にした。




