756:5thナイトメア3rdデイ-4
「「「ーーーーー!」」」
「始まったでチュね」
「そうね」
ザッハーク率いる帝国軍と宮殿を根城とする宝物庫側の激突は、私が森の外に出た直後のタイミングで始まった。
帝国軍の動きはゼンゼに貰った配置図の通り、宝物庫側の動きは……細かいところは違うが、おおよそは昨日見た時から変わらずか。
「流石に今日は帝国軍側のが優位になっているわね」
「みたいでチュねぇ」
帝国軍に属するNPCたちの動きは昨日と変わらない。
突撃を仕掛け、それぞれが手に持つ得物で暴れ回ったり、矢や呪術による攻撃を仕掛けると言うものだ。
そして先述の通り宝物庫側の動きも変わらず。
なのに昨日とは結果が違うのは、帝国軍に味方するプレイヤーの数がかなり増えているからだ。
「おっと」
「流れ弾には気を付けるでチュよ。たるうぃ」
プレイヤーが帝国軍に味方する理由は様々だ。
単純に宝物庫に入るのに帝国軍に味方した方が早いと判断したから、期待はほぼ持てないがザッハークからの褒美を期待しているから、帝国軍NPCの被害を抑えたいと思ったから、あるいは足を引っ張る事で帝国軍NPCを死なせて彼らの所有物服用物を奪いたいから、まあ人それぞれだ。
ザリアたちは……帝国軍NPCの中でも元一般住民っぽい人間を助けたいから、支援しに行くと言っていたような気がする。
対して宝物庫側に味方するプレイヤーが見られないのは、協力したくても宝物庫を守る複製された人形やフィギュアたちとの交渉が出来ず、戦闘にしかならないからだろう。
「さて、宮殿の下にまでは来たわね。ザリチュ」
「分かってるでチュよ。先に行って始末してくるでチュ」
それと、私が両者からの攻撃の流れ弾に注意しつつ、ステルスシステムを活用する事で、人目に付かないように宮殿を囲む壁の下にまでやってきている事と同じように、密かに動いているプレイヤーも居るだろう。
帝国軍と宝物庫側がぶつかり合う事で、そちらに注意が向く事を利用するプレイヤーが私だけなどありえないからだ。
「うおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」
「流石にマントデアは派手ねぇ……」
『でチュねぇ……あ、始末終わったでチュよ。後、此処からは基本的に化身ゴーレムは黙らせるでチュ』
マントデアの咆哮と共に雷で出来た柱が戦場に出現する。
ブラクロの咆哮と思しき声も何度か聞こえているし、マナブを背に乗せているっぽい巨大な狼姿のクカタチも見える。
私たちが侵入しようとしている辺りに居た敵は化身ゴーレムが始末したが、そうでない場所の敵が突然倒れる姿を見せている辺り、レライエも仕事をしているようだ。
宝物庫側は次々に新しい敵を出しているが、少しずつ押し込まれてきている。
このままだと、私が潜入する隙がなくなりそうだし、急ぐとしよう。
「よっと」
『こっちでチュよ。たるうぃ』
私は壁を登り、宮殿内部へと突入する。
なお、化身ゴーレムが片付けた敵については、複製されたものであるためか、既に消滅している。
「ザリチュ。フォーメーションは大丈夫?」
『勿論大丈夫でチュ』
先日の鼠ゴーレムによる偵察の結果、宮殿内部には無数の複製された人形やフィギュアの敵が居る。
これらの敵はゴーレムの一種であるためか、宮殿内部に入ってきたのがゴーレムであれば、排除する対象であると認識できないという欠点がある。
なので、今の私は化身ゴーレムを露払いとし、私の進行方向に居る敵は背後からの強襲によって何もさせずに仕留めている。
だが、宮殿内部にはゴーレムの操作を乗っ取る能力を持った何かがある、あるいは居る事が分かっている。
その力によって化身ゴーレムの操作が奪い取られれば、大惨事になる事は間違いない。
だから私たちは先行する化身ゴーレムの居る場所よりも更に先へ鼠ゴーレムたちを配し、操作の乗っ取りが来ているかを調べている。
確実に探知できるとは限らないが、やらないよりはいいはずだ。
『ところでたるうぃ。フォーメーションを気にするのはいいでチュが、帰り道については大丈夫なんでチュか?』
「ああ、そっちについては問題ないわ」
私たちは宮殿内部を素早く、呪詛が少しでも濃い方向に向かって移動をしていく。
なので、既に何度も分岐を経ており、目印なしでは脱出はままならないであろう位置まで来ている。
「こんな感じに目印は作ってるから」
『……。平然と頭のおかしい事をしているでチュ……』
「お生憎様、ただの呪憲の応用みたいなものよ」
勿論帰り道の為の目印は準備している。
分岐に差し掛かる度に、天井の方に『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の範囲を伸ばし、その表面を少しだけ浸蝕、いつもの反応によって破壊する事で、傷跡を残しているのだ。
その傷跡が何故かよく見ると虹色に輝く呪詛を放出していたりするが……まあ、よく見なければ分からないので、問題はないだろう。
『っ! ノイズが来たでチュよ。たるうぃ』
「分かったわ。化身ゴーレムを戻して」
そうして宮殿内部を素早く移動すること暫く。
鼠ゴーレムにノイズが走ったようだ。
なので鼠ゴーレムたちはそのままに、化身ゴーレムだけを私たちの近くにまで戻し、手近な場所にあった扉を開け、中に敵が居ない事を確かめると、部屋の中に入る。
で、部屋の外に眼球ゴーレム一つだけを置き、扉を閉め、外の様子を見守る事にした。
『鼠ゴーレムが奪われたでチュ。でも眼球ゴーレムと化身ゴーレムにノイズはないでチュ』
「そう」
鼠ゴーレムの操作権が奪われたらしい。
どうやら相手はこちらに近づいてきているようだ。
それと、やはり操作権の奪取は距離依存と言うか、ザリチュと相手のどちらがゴーレムに近いかのようだ。
「アレがそうみたいね」
『でチュね』
やがて部屋の外に置いた眼球ゴーレムの視界にそれが……身長10メートルほどの巨大な人形の姿が映った。
私たちが作った時とは多少違う姿になっているが、それは間違いなく『幸福な造命呪』だった。
12/13誤字訂正