754:5thナイトメア3rdデイ-2
「二時間待機する事になったわね」
「当然の結論でチュねぇ」
掲示板への動画投稿後、森について考えつつ掲示板を覗いていたら、私たちは2時間ほど待機するようになった。
まあ、森について考える時間が欲しかったし、時間についても自分で言った時間なので、問題はない。
「で、本当どうするんでチュ?」
「どうしようかしらねぇ……」
まずはセーフティーエリアから拠点へと移動する。
だが拠点は既に大きく変貌していた。
どうやら拠点全体が巨大な木に飲み込まれて、洞の中に拠点としてのスペースが広がっているような状態になってしまったようだ。
おかげで、外から拠点に入るには、1メートルほどの段差を登らないといけなくなっている。
後、呪詛の霧の色がいつもの赤、黒、紫だけでなく、微妙に虹色が混ざっているように見える。
「まあ、まずは考察ね」
「考察でチュか」
今回の件の発端はNPCが私を見て発狂死した事である。
そして、その死骸に当たるであろう無数の目玉から木が生え、その木によって砂が生成され、木と砂が増殖を繰り返した。
で、現在の状況に至っている。
「発狂死についてはもう仕方がないとして」
「アレは完全に事故だったでチュからねぇ……」
発狂死については特に疑問の余地を抱くところはない。
聖女ハルワからの警告もあったし、NPCが異形度26を見たら、死ぬのについては当然だと言える。
その死に様がああ言うのだったのは……恐らく『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の影響だろう。
「この光景が『泡沫の大穴』で見かけたのによく似ているのは……生成のプロセスが同じあるいは似通っているからでしょうね」
「『泡沫の大穴』は入ったものの各種情報の影響を受けて生成されるダンジョン。だったでチュか」
「ええそうよ」
そして、死に様に影響を及ぼしたように、毒々しい色合いの木々、黒く尖った砂、熱気に毒気、これらもまた『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の影響と捉えていいだろう。
で、森から持ち出した枝や砂が別のものになってしまうのは、『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の範囲外に出たからであると考えればいい。
なお、『泡沫の大穴』の時との差は、あの時はまだ『呪圏・薬壊れ毒と化す』だったからで流しておく。
ただ、イベント終了後にまた『泡沫の大穴』に挑む必要はあるとも思う。
この感じなら、『泡沫の大穴』を深く潜れば、呪憲周りで何かを得られるかもしれない。
「あ、ザリアが森の中に入ったわね」
「は? なんで分かるんでチュか?」
「え? なんでって……あー……」
はい、この森が『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の影響を受けている証拠追加。
ザリア、ブラクロ、ロックオ、シロホワ、ストラスさん、ゼンゼ、他数名が森へ何処から入って、何処を進んでいるかが、何故か手に取るように分かる。
また、意識をしてみれば、森の各所を私の思い通り……とまではいかなくても、ある程度は操作できるようだ。
試しに拠点を囲う木を弄ってみれば、階段やテラス、机に椅子などを木から直接生やす形で生成できてしまった。
だが、私の制御を完全に受け付けるわけではないので、森の拡大、木の成長、砂からの被害、普通の生物が活動するに適さない空気の改善などは出来ないようだ。
「うーん、ここが一応でも悪夢の中なのも影響があるのかしら?」
「いやもう、ざりちゅには分からないでチュよ」
現在の状況が恒常的な物かを考えてみる。
だが直ぐにそうではないだろうと思った。
『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』は最近得た呪いではあるが、昨日今日得たほどではない。
『ダマーヴァンド』の地上部分に出ても今のような事にはなっていないし、私たちが今居るのは現実との境界が薄くなっているとはいえ、それでも悪夢の中だ。
恐らくだが、その差で以って、『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の影響が外に出やすくなっているのではないだろうか?
「えーと、鑑定は……駄目か」
「たるうぃがやっても文字化けでチュか」
私は目の前の空間や周りの木、黒い砂などを鑑定してみる。
だがいずれも鑑定結果は文字化けしており、内容は読み取れない。
まるで仮称裁定の偽神呪の対応範囲外だと言わんばかりである。
あの仮称裁定の偽神呪の能力からして、対応範囲外、と言う事にしておこうと言う裁定を下しただけとも思うが。
「でも、こういうものは作れるのよね」
「うわ、何でチュか、その禍々しい凶器は……」
私は近くの木の床を成長させ、剣に似た物体を取り出す。
そして、刃に当たる部分に黒い砂を集めて固定する。
見た目としては黒いギザギザの刃を持った木製の剣と言う感じであり、見た目の割に軽く、しかし武器としてはそれなり以上の切れ味と危険性を有するだろう。
確か……マカナやマクアウィトルと呼ばれた剣に近い形のものがあったとは思う。
とは言え、呪怨台で呪わずこのまま外に出せば、他の物体と同じように消失するだろうけど。
「折角だし呪っておきましょうか」
「え、止めておいた方がいいんじゃないでチュか? 何もするなって言われたでチュよねぇ……」
「これも検証よ」
と言う訳で呪怨台で呪っておく。
私の呪憲の範囲外に出ても存在していられるようにとだけ念を込めて呪った。
結果、こうなった。
△△△△△
瘴熱の黒砂毒木剣
レベル:1
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
マクアウィトルと呼ばれる剣に似た見た目を持つ剣のようなナニカ。
触れたものを根本から捻じ曲げ、汚染し、否定する。
外天呪の領域に近づくものよ、夢の中と言えども、作っていい物と悪い物の区別は付けておいた方がいい。
与ダメージ時:相手の耐性を無視して、毒(周囲の呪詛濃度)、灼熱(周囲の呪詛濃度×3)、乾燥(周囲の呪詛濃度)を与える。この効果で与えた状態異常は自然回復しない。
呪憲を有さないものは、この武器による攻撃を防げない。
注意:『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の影響下外にある場合、接触した気体は毒気と熱気を纏い、液体は煮えたぎるヘドロと化し、固体は形容しがたい色合いの結晶に変化する。
注意:『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の影響下外にある時に、呪憲を有さない異形度19以下のものが認識した場合、見たものの精神に影響を及ぼし、一定のプロセスを経た後、死亡する。
注意:呪憲を有さないものが接触した場合、1秒ごとに毒(10)、灼熱(100)、乾燥(10)を受け、低確率でランダムに呪いを一つ得て、恒常的に異形度が1上昇する。
注意:呪憲を有さないものが鑑定を行った場合、ランダムな呪いを得て、恒常的に異形度が1上昇する。この効果を自我を失う、あるいは『不老不死』の呪いを失うまで繰り返す。
注意:呪憲を有さないものによって与ダメージ効果が発揮された時、与ダメージ者はランダムな呪いを得て、恒常的に異形度が1上昇する。
▽▽▽▽▽
「しょうきゃあああぁぁぁく!! しょうめえええええぇぇぇぇぇつ!!」
「燃やすでチュよ! いや、無に帰すでチュよ!! たるうぃ!!」
即座に燃やし、灰も呪怨台に乗せて不可能な呪いを願う事で消滅させた。
外天呪と言う気になるワードはあったが、そんなものを気にしている場合ではなかった。
呪憲を持っている私は大丈夫だが、持っていないものには危険すぎる物体だった。
と言うかこんなものをプレイヤーに作らせるんじゃない!
何を考えているんだ運営は!?
いや、放置したら運営が取りに来て、私ごと処分してくれるのかもしれないけど、それまでに夥しい数の犠牲者が出るわ!
万が一使われたら、ただ振るうだけでも、この剣の刃が砂粒ごとに分かれているせいで、一振りごとに数十回ダメージを与え、異形度1からでもカースになるような代物なんですけど!?
地獄絵図で済まないような光景が目に見えているんですけど!?
「はぁはぁ……」
「本当に……本当に気を付けるでチュよ。たるうぃ」
「ええ、本当に気を付けるわ……」
いやでも、もしかしたら、この武器を使いこなしてこそ、呪憲を使いこなしたと言えるのかもしれない。
そして、あの力を利用しなければ、偽神呪が居るような領域の相手には勝てないかもしれない。
でも、うん、今の私には扱えない力だ。
惜しいとすら思わない。
私は大人しくザリアたちを待つことにした。
12/11誤字訂正
12/12誤字訂正