751:5thナイトメア3rdデイ・タルウィハング・3-5
「「「ディルアアアァァァッ!」」」
「よっと……」
ミイラ壺と霧骨巨人の攻撃に対し、私は『熱波の呪い』によって当たり判定を持った呪詛の鎖を出し、それを自分の体に巻き付け、素早く巻き上げる事によって攻撃を回避する。
と同時に、私は霧骨巨人が足を地面に叩きつける姿と、叩きつけられた足をすり抜けて飛んでいくミイラ壺の姿を見た。
「当たり判定がない? いえ、そう考えるのは早計でしょうね」
普通のゲームで考えれば、霧骨巨人には当たり判定の類が存在しておらず、今の霧骨巨人の行動はただの威圧行動でしかない、そう判断していいだろう。
だが、FFが存在する『CNP』で、しかも霧骨巨人の思考能力を含む各種スペックを考えたら、霧骨巨人に当たり判定がないのではなく、何かしらの理由でミイラ壺がすり抜けたと考えた方が安全だろう。
「チュアッハァ!」
「「「ディドラァ!?」」」
「ミイラ壺には普通に攻撃が通るようになったみたいね」
と、体当たりの勢いが落ちたタイミングでミイラ壺にザリチュが切りかかる。
刃は普通にミイラ壺の顔に食い込み、ミイラ壺は今までに上げた事の無いような悲鳴を上げ、壺の口から真っ赤な液体が零れだす。
どうやら今のミイラ壺には攻撃が通るようで、あの液体を霧骨巨人が取り込む事こそがダメージを誤魔化していた仕組みであったのだろう。
「「「ディルアッ!!」」」
「こっちに来るでチュか」
霧骨巨人がザリチュ……化身ゴーレムの体に殴りかかる。
リーチ、スピード、正確さを併せ持つ霧骨巨人の攻撃は、私の呪詛の鎖のような緊急回避手段を持たない化身ゴーレムでは避け切れないだろう。
だから化身ゴーレムは多少の傷は負っても、一撃では壊されないように構えている。
「チュア?」
「「「ディラ!?」」」
「ふうん……」
が、霧骨巨人の攻撃は化身ゴーレムに一切のダメージを与えられなかったようだった。
ザリチュもだが、ミイラ壺も唖然とした様子を見せている。
うん、この時点で私は霧骨巨人の攻撃の性質を理解した。
恐らくだが霧骨巨人の攻撃は相手の水分を奪うものであり、普通の生物や物体なら霧骨巨人の一撃で全ての水分を奪われて砂と化してしまうのだろう。
が、化身ゴーレムは人間そっくりの姿を持っていても、その実態は乾いた砂の集合体でしかなく、水分など含んではいない。
だから霧骨巨人の攻撃は通らなかったのだろう。
また、ミイラ壺に霧骨巨人の攻撃が通らなかった理由についても同様だろう。
「ezeerf『灼熱の邪眼・3』。ザリチュ、ミイラ壺をとっとと落とすわよ」
「「「ディルアアアァァァッ!?」」」
「分かったでチュ!」
はい、考察終了。
と言う訳で、私は霧骨巨人を無視してミイラ壺に攻撃を仕掛ける事にした。
これは憶測でしかないが、霧骨巨人とミイラ壺、そのどちらを先に倒すべきかと言われたら、倒された霧骨巨人を復活させる可能性が高そうなミイラ壺からの方が妥当なはずだ。
「「「ディルアッ!」」」
「おっと、危ないでチュねぇ……」
「やっぱり正確ね……」
だが、ミイラ壺と霧骨巨人もただやられるだけではない。
ミイラ壺は無数の手と口でザリチュの体を削り取ろうとするだけでなく、掴みかかる事で抑え込もうとしている。
霧骨巨人もザリチュに攻撃が通用しない以上は私へ攻撃を仕掛けるしかないからだろう、残された腕と脚、それに尾を使って、私の事を叩き潰そうとしてくる。
「ただ……」
「「「ディドラァ!?」」」
「チュッチュッチュー!」
ザリチュは回避主体の立ち回りで立ち回っているから問題はない。
そして私は呪詛の鎖で緩急つけて避けるだけでなく、呪詛の剣や槍を霧骨巨人の攻撃の軌道上に置いている。
すると霧骨巨人は先程の腕を斬られた状況を思い出すのだろう。
明らかに呪詛の刃を避ける、あるいは躊躇う動きを見せ、動きが鈍る。
「トドメでチュ!」
「「「ディド……ラ……」」」
「まずはこれで片方」
そうこうしている内に私とザリチュから何度も攻撃され、体力が削られていたミイラ壺の体にザリチュの剣が深く突き刺さり、浜に打ち上げられた海月のようにふやけ潰れ、その動きを完全に止めた。
だが、まだ戦闘は終わっていない。
まだ霧骨巨人が残っている。
「で、こうなったらイチかバチかと言う事かしらね」
「みたいでチュね」
ミイラ壺が倒された事で後がなくなったからだろう、霧骨巨人は大きな咆哮を上げるようなポーズを取った後、私の事を睨みつける。
そして、霧骨巨人の全身の色が少しずつ薄まっていき、それに反比例するように霧骨巨人の口に深緑色の球体が生じていく。
恐らくだがブレスの類だろう。
「たるうぃ」
「先んじて潰すなんてつまらない真似をする気はないわよ。最後の一撃まできちんと知ってこその私だもの。今回の相方はザリチュだしね」
「はぁ……まあ、そうでチュよねー。ざりちゅは離れておくでチュよ。あれはざりちゅにも通ると思うでチュから」
霧骨巨人の姿はもうほとんど見えない。
ドラゴン型の頭蓋骨が朧げに見えるだけだ。
代わりに深緑色の球体は誰の目にも明らかに見えると共に、その圧を高めていく。
「!」
「ちっ」
そして霧骨巨人からブレスが放たれる瞬間、私は一気に動く。
『気絶の邪眼・3』によって霧骨巨人の行動を一瞬遅らせ、『噴毒の華塔呪』をドゴストから出して遮蔽物とした。
で、霧骨巨人が完全に私を見失ったタイミングで、私は複数の巻き上げ点を作った呪詛の鎖によって、体を一気に移動させる。
結果。
「……」
「残念だったわね」
霧骨巨人の口から放たれたレーザービームのようなブレス、あるいは超高圧のウォーターカッターは『噴毒の華塔呪』を貫き、その後ろの地面も抉り、闘技場の壁までの間にあった物全てを吹き飛ばした。
もしも、直撃を受けていたらどうなっていたかなど考えるまでもないだろう。
しかし、私は着弾点から大きく離れた場所でそれを見ていた。
「これでトドメよ。ytilitref『飢渇の邪眼・2』」
「……」
そして反撃として今にも消え去りそうな霧骨巨人に向かって『飢渇の邪眼・2』を放ち、それを受けた霧骨巨人は静かに消え去り……戦いは終わった。