750:5thナイトメア3rdデイ・タルウィハング・3-4
「たるうぃ……幾ら何でもおかしくないでチュか?」
「そうね。流石におかしいと思うわ」
「「「ディルアアッ!!」」」
戦闘開始からおよそ十分。
この間、ザリチュは霧骨巨人とミイラ壺の隙を突き、ミイラ壺を積極的に切りつけ、その内の何度かはクリーンヒットと言っていいレベルで入っている。
私も私で、『熱波の呪い』による攻撃をミイラ壺に行いつつ、『灼熱の邪眼・3』による攻撃をミイラ壺、霧骨巨人、どちらにも仕掛けており、決して少なくないダメージを与えているはずだ。
だがしかし、ミイラ壺の攻撃のペースは一向に衰えず、その点から考えて霧骨巨人が弱っていない事も分かるし、どちらも怯んだ様子も疲れた様子も見せていない。
「全然削れている気がしないんでチュよねぇ……」
「……」
「「「ディルルルルルルルゥ!!」」」
今もまたヨーヨーのようにミイラ壺が投じられ、地面近くで乱回転し、周囲を爪と牙で削り取ると、姿の見えない霧骨巨人の手の中に向かって戻っていく。
そして手の中に戻ると、ミイラ壺は宙を水平に移動し始める。
もしかしなくても、次の攻撃のための動きだろう。
「ダメージが入っているように見えない原因は……可能性でいいなら幾つか考えられるわ」
「聞くでチュ」
「「「ディルアアッ!!」」」
私は飛んでくるミイラ壺を避けつつ、自分の考えを話す事にする。
「一つ目は単純に相手の体力が呆れるほどに高い可能性。牛陽の竜呪のようにね」
「いや、そんなレベルじゃないと思うでチュよ。少しの怯みも見せないでチュから」
「二つ目はこちらが与えるダメージ以上のスピードで回復している」
「たるうぃが入れた灼熱の状態異常は残っているでチュし、異常な勢いで減ったりもしてないでチュねぇ」
「三つめは何かしらの手段でのダメージの誤魔化し」
「ある種の無敵状態と言う事でチュか」
まあ、ザリチュの否定したとおり、一つ目と二つ目はたぶん違う。
ただ、怯まないのはミイラ壺と霧骨巨人がある種のアンデッドであり、そもそも怯む要素がない可能性があるし、灼熱の状態異常をすり抜けて、実質的にHPを回復させる手段が存在している可能性は否定できない。
なので、頭の隅には留めておく。
で、本命となるのはダメージの誤魔化しなわけだが……。
「「「ディルアアッ!!」」」
「まあ、実質的に『ユーマバッグ帝国』の人間を材料に使っているようなカースな訳だし、ダメージの押し付けぐらいは出来てもおかしくないのよね」
「ああ、そう言えばヒトテシャ相手にそんな事をやっていたでチュねぇ」
一番あり得るのはダメージの押し付けだろう。
材料的にも無縁ではない筈なので、何処にダメージを押し付けているのかと言う疑問に目を瞑れば、そこまでおかしな発想ではないはずだ。
そして、重要なのはミイラ壺と霧骨巨人が実際にどうやってダメージを誤魔化しているかではなく、どうやって誤魔化しを打ち破って打ち倒すかである。
「「「ディルウウウゥゥドラアアアァァァイ!!」」」
「っ!?」
「チュアッ!?」
と、ここで霧骨巨人は可能な限り体勢を低くして、闘技場全体をミイラ壺で薙ぎ払う行動を選んだようだ。
闘技場の中心から螺旋を描くようにミイラ壺が飛び回り、闘技場の地面を削り、あるいはブレスによって吹き飛ばしながら、迫ってくる。
この攻撃を避けるのは……まあ、見えている範囲だけで考えれば、そんなに難しくはない。
ミイラ壺と闘技場の中心の間にあるであろう霧骨巨人の体に触れた時にどうなるかが問題なだけだ。
また、私がしようとしている事……誤魔化しの解除方法の第一候補となりそうな、霧骨巨人とミイラ壺の分断を考えた場合、これはチャンスでもあった。
「ザリチュ! 相手の動きが激しくなる可能性があると言っておくわ!」
「わ、分かったでチュ!」
「『毒の邪眼・3』」
「「「ディルゴボアッ!?」」」
まず私はミイラ壺に目一つ分の『毒の邪眼・3』を撃ち込む。
その効果によってミイラ壺に毒が入ると共に、水分を得た事で霧骨巨人の姿が露わになる。
これは分断後のとある可能性に備えてだ。
で、霧骨巨人はこちらの予想通り、闘技場の中心で可能な限り体勢を低くしつつ、ミイラ壺を振り回していたらしい。
「「「ディルアッ!」」」
私の目の前をミイラ壺が通り過ぎていく。
そのタイミングで私は霧骨巨人に向かって少し進む。
そして、私の背後を薙ぎ払うような軌道でミイラ壺が飛ぶ中、私は霧骨巨人の腕の半ばが通り抜ける場所に呪詛の剣を立てる。
勿論、その刃を霧骨巨人の腕に向けながらだ。
「ytilitref『飢渇の邪眼・2』」
「「「ディビョッ!?」」」
霧骨巨人の腕と呪詛の剣が重なったタイミングで『飢渇の邪眼・2』を発動。
体が空気中の水分で構築されている骨巨人にとって、この状態の呪詛の剣は自分の体を容易く切り裂く鋭い刃と同等である。
なにせ、こちらの剣は局所的にとは言え、霧骨巨人の体を構築する水分を消し飛ばすのだから。
「おおっ、切ったでチュ!」
「……」
「「「ディルルルルルルウウウウウアアアアアアアアアアアァァァッ!?」」」
結果、霧骨巨人の腕は切断され、ミイラ壺はあらぬ方向にすっ飛んでいきつつ断末魔の叫びのような咆哮を上げ、霧骨巨人もまた声こそがないが悲鳴を上げるような姿を見せた。
「たるうぃ?」
「ザリチュ、構えなさい。どうにもこいつらは分離すればお終いのタイプではないみたいよ」
「「「ディル……ディルル……ルルイイィィア……」」」
さて、これで終わってくれれば楽だったのだが、どうやらそう簡単にはいかないらしい。
ミイラ壺は腕を巧みに使う事でふらつきながらも起き上がり、私の方を睨みつけている。
霧骨巨人は切られた腕をもう片方の腕で抑えつつ、やはり私の方を睨みつけている。
ミイラ壺は大量の空気を吸い込んでいる。
霧骨巨人の体と接してる地面はあっという間に水分を失い、粉塵を立ち上らせ始めている。
うん、この手のコンビ系は分断したら終わりなのと、分断したらむしろ凶悪化するタイプが居るのだが、ミイラ壺と霧骨巨人は後者に近かったようだ。
「「「ディルアアアァァァッ!」」」
そしてミイラ壺はブレスを吐く反動を生かす事で高速の体当たりを敢行し、霧骨巨人は私の事を踏みつぶすべく大きく足を振り上げた。