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『Curse Nightmare Party』-邪眼妖精が征くVRMMO  作者: 栗木下
11章:『盗賊恐れる宝物庫の悪夢』
743/1000

743:5thナイトメア2ndデイ-7

「『化身(ザリチュアバタ)』」

「チュアー! うーん、使っている砂があり合わせでチュから、何か微妙な感じでチュね」

「他のゴーレムはともかく、今回のイベント中に化身ゴーレムが破壊されることは想定していなかったから仕方がないわね」

 さて、まずは化身ゴーレムの再作成は完了した。

 とは言え、その辺の土や岩を削って乾かし、砂にしたものを材料としているので、壊される前の竜呪骨の邪毒砂製の化身ゴーレムと比較すると、性能はどうしても落ちるだろう。


「やっぱりザリチュも呪憲を使えるようにするべきかしら。ゴーレムの身を守れるようになるだけでもだいぶ違うと思うのよね」

「無茶を言わないで欲しいでチュよ。たるうぃ」

 まあ、今回の化身ゴーレムが壊れた原因は、自身を守護する呪憲無しでは確定でロストする空間に予期せず突っ込んだからであり、回避の仕様がない事でもあったので、性能低下については諦めるとしよう。

 イベント終了後に作り直せばいい。


「鼠ゴーレムの方は……いい感じね」

「でチュね」

 次の話。

 情報収集のために放った鼠ゴーレムたちだが、宮殿の方は内部に入るのにもう暫くかかりそうだが、帝国軍の方にはもう潜り込んだようだ。

 で、聞こえてきた話をまとめると……まあ、やはり下の方と言うか、異形度が高い面々の士気は高くない。

 帝都以外からも掻き集められた上に、無理やり化け物に変えさせられ、マトモな装備、食事、医療の類もなく戦えと言われているのだから当然だが。

 上の方の連中は……二分されている。

 比較的マトモな連中はどうやってこの場を生き残るかと共に、どうすれば逃げ出せるかも考えているようで、食事もしっかりと噛み締めながらと言う感じだ。

 ザッハーク含めて頭がヤバい連中は、この期に及んでもまだ飽食に及び、贅を尽くす事を止められないらしく、宴会のような様子を見せている。


「あ、ゼンゼが居たでチュね」

「スルーしましょう」

 なお、ザッハークの近くにゼンゼが居たが、お互いに見て見ぬふりをしておいた。

 ゼンゼがザッハークの料理に色々と盛っているのは見えたが、それを止める義理は私にはないので、当然のことである。

 私は花魁のような衣装を着た狐耳の美女なんて知らないと言う事で通すのだ。


「宮殿の方はまだかかるわね」

「でチュね。もう暫く待つでチュ」

 では、宮殿への潜入はもうしばらくかかるので、呪憲の訓練を開始するとしよう。


「えーと、餓死者の体のパーツを集めて、竜骨塔ってこんな感じだったわよね」

「まあ、そんな感じだったでチュね。今、ざりちゅの目の前で組み上げられているものよりも、もっと健全な見た目だったでチュけど」

「それは材料が材料だから仕方がないわ」

 まず、何も弾かないように意識しつつ、呪憲の範囲を地中も含めたスラム全体に広げる。

 なお、この際に他のプレイヤーや生存者、動くものなどが居ない事を確認すると共に、スラムの外に居る者たちに気づかれないよう、呪詛濃度には注意を払う。

 それと同時に、私はスラムで大量入手した餓死者の体のパーツを使って、ちょっとした塚あるいは盃のようなシルエットを持った物体を組み上げて、地面に置く。

 私にとっても悍ましい見た目はしているが、その点については素材の問題なので、目を瞑る。


「で、何をするんでチュ?」

「特定の呪いを弾く訓練よ。でも、ただ弾くんじゃなくて、特定の場所に集める形で弾くの」

「チュア?」

 ザリチュの質問に答えつつ、私は目の前の物体だけを私の呪憲の範囲から除外する。


「では開始」

「!?」

 そして、呪憲内に漂う呪いの中から、私を構築するのに不必要な呪い、もっと厳密に言えば、このスラム全体に漂っている餓死者たちが死ぬ直前にまで抱いていた飢えと渇きに由来する強烈な想いを弾く。

 だが弾く方向はスラムの外ではない。

 私の目の前の物体、餓死者たちの体のパーツを使って組み上げた物体に向けてだ。


「た、たるうぃ!?」

「おー、こういう事になるのね」

 私の呪憲は地中も含め、スラム一帯を覆っている。

 呪いが弾かれた先は全方位を私の呪憲によって塞がれており、次から次へと呪いがやってくるのに行き場がない。

 必然、私の目の前にある物体が帯びる呪いは加速度的に濃く、強く、悍ましい物になっていく。


「ふふっ、ふふふふふ、あははははっ! 面白くなってきたわぁ!」

「いやいやいや、笑っている場合じゃないと思うでチュけどぉ!?」

 通常の呪詛濃度に直せば30? いや、40か? とにかく普通ではあり得ない呪いの濃さと、その場に置かれていたのが呪いの源であった者たちで作られた物だったからだろう。

 私の目の前の空間が異常をきたし始める。


「いいえ! これは笑う場面よ! こんな未知の光景! 見ようと思って見れるものじゃないもの!」

「たるうぃぃいいっ!?」

 まず、その場にあった餓死者たちの残滓が全て溶け落ちてしまった。

 溶け落ちたそれは極自然と球を為し、半透明でありながら虹色の輝きを放つ奇怪な現象となった。

 そう、現象だ。

 これは現象でしかない。

 既にそこに物体はない。

 あまりにも濃い飢餓の呪いによって、物体は全て食い潰されて、昇華してしまったのだ。

 だが悲しいかな。

 これは私が少しでも呪憲を緩めたら、そのまま消失してしまう現象でもあった。


「そうね。最低限の訓練は出来ているのだし、良しとしましょうか」

「えっ、ちょっ、いや本当に何を……」

 うん、勿体ない。

 こうなるのは予定外だったが、可能ならこの成果を生かしたい。

 だから私は私の耳の一部ごと引き千切る事で水月の竜骨耳飾りを素早く外すと、目の前の空間に投じる。


「もう訳が分からないんでチュけどぉ!?」

「ふふふふふ」

 すると流石は竜の遺骨を基にしたピアスと言うべきか、あるいは呪憲のようなものを有しているからか。

 水月の竜骨耳飾りは目の前の現象に食いつぶされる事無く、それどころか逆に食い潰して、その身の内に収めてみせた。


「これはこれでいい感じの素材になったわね」

「チュアアアァァァッ……」

 だが、全くの変化なくとはいかず、水月の竜骨耳飾りは手のひら大の枯れ木……いや、香木のように変化していた。

 うん、一応鑑定しておこう。



△△△△△

飢渇の竜香木

レベル:1

耐久度:100/100

干渉力:150

浸食率:100/100

異形度:1


とても良い香りを放っている不思議な香木。

如何なる原理原則に基づけば、このような嗅ぐもの全てを惑わし、己の手の内に収めたいと思わせるような匂いが生じるのだろうか?

答えは製作者とこの香木自身にしか分からないだろう。

ただ一つ確かなのは、この香木は死を好み、多くの死があった場所であればあるほどに匂いを良くすると言う事だけだ。


注意:特定の呪いを有さないものが臭いを嗅ぐと、1秒ごとに魅了(100)が付与される。

注意:レベル35以下のものが長時間、直接手にしていると、魅了(100)が付与される。

注意:異形度19以下のものが長時間、直接手にしていると、ランダムな呪いを1つ恒常的に得て、異形度が1上昇します。

注意:所有者が一定音量以上の音を発すると、被ダメージ増加、防御力低下、不意打ち耐性低下のいずれかの状態異常を受ける。

▽▽▽▽▽



「うわっ、レベル詐欺を作りやがったでチュ……」

「あ、臭い。臭いが濃すぎて、いい匂いなのに臭い。どれだけ人が死んでるのよ、ここ」

 鑑定が終わると同時に、飢渇の竜香木は凄まじい匂いを放ち始めた。

 なので私は直ぐに飢渇の竜香木の周囲を呪憲で覆い、匂いが漏れないようにする。

 うん、長時間持っていると単純に危険そうだし、早々に処理してしまうとしよう。


「これをどうチュアアアアアァァァァッ!?」

「後、聞こえているわよ。ザリチュ」

 それと、事実でも言っていい事と悪い事があると言う事で、ザリチュは抓っておいた。

11/30誤字訂正

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― 新着の感想 ―
[良い点] 正気を保ちながら狂気に堕ちるとはまた器用なことを。そのうちセーフティエリアの設備要らずになりそうね。もしくは呪いを集めた自前素材で片っ端から設備を魔改造アップグレードしだすとか。 [気にな…
[一言] >「やっぱりザリチュも呪憲を使えるようにするべきかしら。ゴーレムの身を守れるようになるだけでもだいぶ違うと思うのよね」 >「無茶を言わないで欲しいでチュよ。たるうぃ」 タルならそのうち出来そ…
[一言] 異形度を下げる方法の目星が付いた感が…。 まあさすがにまだ自分にはできないでしょうし、できてもやるか分からないですが。
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