742:5thナイトメア2ndデイ-6
「アイテム確保に成功っと」
『これで一度だけでチュが、振り直しが出来るでチュね』
「そうね」
私が見つけた拠点はスラム街のような場所の一角に設置されているものだった。
人目に付きづらいどころか、周囲に生きている人が居ないこの場を見つけられたのは、私にとっては中々に都合がいい。
「槍二本とマントは……今は拠点に置いておきましょうか。戦闘する時になったら、槍についてはドゴストに入れてもいいかもだけど」
『物見櫓から射出方法1で撃ち込んだら、エグい事が出来そうでチュねぇ……』
アイテムの整理も完了っと。
ちなみにだが、このスラム街には本当に人が居ない。
と言うのも、宝物庫側に対抗するためなのか、連れ出せる人間は全員スラムから連れ出されており、残された人間は食料が供給されていなかったのか、悉く餓死病死あるいは呪詛濃度過多によって死んだらしく、僅かな残滓が残されているだけだったのだ。
なお、残滓については強い呪いを帯びていたので、安全のためにも一応回収しておいた。
鑑定結果はこんな感じ。
△△△△△
餓死者の骨
レベル:5
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:5
餓死した人間の骨。
彼あるいは彼女が死の直前まで抱いていた想いが凝集しており、手にしたものにすがろうとする。
知識がないものが手にした場合、非常に危険だろう。
注意:異形度5以下あるいはレベル5以下のものが触れると、1秒ごとに満腹度が1減り、乾燥(1)が付与される。
▽▽▽▽▽
『で、どうするんでチュ? その残滓は』
「どうしようかしらね? 骨、皮、毛、爪……部位ごとの効果差はないけど、内臓以外は一通り揃っている感じなのよね。嫌な事に」
『本当に嫌な話でチュねぇ……』
まあ、放置は出来なかった。
たぶんだけど、一般人が触ったら、その一般人も餓死者の仲間入りをする事になりそうだったし。
使い道は……一つ思いつかなくもないが、ちょっと考えてからにしよう。
「ん?」
『チュッ?』
そうして考えていると、遠くの方から何か音のような物が聞こえた。
なので私は拠点の外に出ると、一番近くの物見櫓……長期間放置されて、外部は半ば、内部は完全に崩れ落ちかけているそれの頂上まで飛び上がって、状況を確認する。
「ああなるほど。ザッハークたち帝国軍が宝物庫に挑み始めたのね」
『みたいでチュねぇ』
見えたのは、派手かつ強力そうな装備を身に着けた一団が、最低限の装備だけ持った異形の軍団を引き連れる形で宮殿の方へと向かって行く姿。
それと同時に、宮殿の方では人型の、けれど動きの不自然さから生きているものではない集団が現れて、帝国軍の突撃に応じる構えを見せた。
「ふうん、なるほどねぇ……」
戦闘は直ぐに始まった。
帝国軍は突撃の勢いそのままに宮殿にぶつかり、それぞれが手に持つ得物で暴れ回る。
あるいは矢や呪術を放って、宮殿そのものを叩き潰すような勢いで攻撃を仕掛ける。
対する宝物庫側は帝国軍の動きをあろうことかその身一つで止めると、腕を振るい、脚を振るい、あるいは頭を叩きつけ、傷を負いつつも、近くに居るものから順に叩き伏せていく。
帝国軍は傷ついた味方を後方へと引き摺り上げ、代わりに元気なものが宝物庫側に襲い掛かる。
宝物庫側は少しずつダメージが重なっていき、最後には力尽きて動けなくなるが、その穴を埋めるように直ぐに次の人型が現れて暴れる。
それは正に戦争と言っていい様相だった。
『久しぶりの物が出てきたでチュね。何か気になる事があったんでチュか?』
「ええ、ちょっとね」
私は蜻蛉呪の望遠鏡を久しぶりに使って、向こうの状況を詳細に確認してみる。
まず全体の戦力比だが、底のある帝国軍と違って、宝物庫側は無尽蔵と言ってもいいようだ。
倒しても倒しても次が現れている。
そして、兵の質で言っても、帝国軍の一部を除き、宝物庫側の方が質は高く、宝物庫側を一体仕留めるまでに、おおよそ5人から10人ちょっとの人員が死亡または重傷で戦線離脱となっている。
うん、これだけでも、帝国軍に勝ち目はないように感じる。
私の望遠鏡に気を取られて何人か倒れた事とは関係なしにだ。
で、これは私が気になったことではない。
「ああやっぱりね」
『何がやっぱりでチュか?』
「宝物庫側は人形を使役しているようだけど、人形の使役者だけでなく、複製能力持ちもたぶん居るわ」
『ほうほうでチュ』
気になった点一つ目は宝物庫側の戦力の正体。
どうやら宝物庫側は、宝物庫に収められたアイテムの中から人形やフィギュアを対象に複製能力を発動。
そうして複製された人形やフィギュアを操る事で、戦力としているようだった。
その証拠に戦場には同じ顔が幾つか見えるし、以前の私と同じ姿をしているものをサイズ違い含めて数体確認出来た。
複製元の能力もある程度は受け継いでいるようだし、帝国軍が今の状態から勝つのは厳しそうだ。
「で、帝国側も帝国側で面白い技術を使ってるわね」
『そうなんでチュか?』
「恒常変化系であるはず呪詛薬を一時服用するみたいなことになっているわね」
『それは……不思議でチュね』
気になった点二つ目は帝国軍の戦力の正体。
帝国軍の内、装備が立派な連中に関しては、プレイヤーが前回のイベントで作った品々を身に着けた正規軍と見ていいだろう。
では異形の姿をした者たちはと言われれば……まあ、徴兵されたスラムや街の住民であり、異形度を上げる事によって戦力にすると同時に呪詛濃度過多が起きないように対応しているのだろう。
だが面白いのはそこではない。
面白いのは、帝国軍の戦力が倒れ、死亡すると、人間の死体がその場に残されると同時に、その人間が身に着けていたであろう装備品や、服用したであろう呪詛薬や料理が、光る球体に保護される形でその場に出現し、帝国軍の陣地に戻っていく姿だ。
実に不思議であると同時に……プレイヤーが帝国軍の人間を攻撃するいい口実になりそうな光景だった。
『さてどうするでチュ?』
「戦争そのものへの介入は無しだけど、それでもまずは情報収集ね。私たち自身は化身ゴーレムの再作成もあるからこの場に居るとして、それぞれの陣営に鼠ゴーレムを忍び込ませてみましょうか」
『分かったでチュ』
では、もう少し情報を集めてみるとしよう。
ちょうど時間潰しにも良さそうな案件があるので、待つのも苦にならないはずだ。




