741:5thナイトメア2ndデイ-5
「あ、一方通行……いえ、ダンジョン突入時と同じで、ランダム突入かしらね」
『周りの感じからしてそんな感じでチュねぇ』
窓から外へ出ると、そこは剥き出しの地面の道を挟むように、石造りの建物あるいは壁が整然と立ち並ぶ路地だった。
私が通り抜けた窓の向こう側に広がる光景は宝物庫の通路ではなく、極々普通の家屋の中になっている。
どうやらダンジョン突入時と同じように転移し、適当な場所に移動させられたらしい。
「とりあえず鑑定っと」
周囲に人影はなく、こちらに近づいてくる喧騒の類もない。
と言う訳で、此処がどんな場所なのかを探るためにも鑑定をしてみる。
△△△△△
宝物庫の悪夢-内苑
数多の宝物が収められた立派な倉庫。
入ってきたものたちは外縁の宝物だけでは満足できず、土足でより深く踏み入ってきた。
恐れをなした倉庫は宝物の中から守護者を定める事にした。
呪詛濃度:20 呪限無-浅層
[座標コード]
▽▽▽▽▽
「……」
『これはそういう事でチュかねぇ……』
「まあ、そうなるでしょうね」
『宝物庫の悪夢-内苑』と言う名称についてはまあいいとしてだ。
守護者かぁ……それも、宝物の中から定めたのかぁ……『幸福な造命呪』はほぼ間違いなく選ばれているだろうな、うん。
「そして、内苑がどうなっているかの現状は分からずと。とりあえず出来るだけ高い建物にでも上りましょうか」
『でチュねー』
では、現状の詳細を知るためにも行動を開始しよう。
ここの呪詛濃度ならば、私が纏う呪詛の霧もそれほど目立たない筈だし、ステルスシステムも今の状態ならしっかりと機能しているはず。
目立つ建物に移動した程度で誰かに気づかれることはないはずだ。
と言う訳で、とりあえずは直ぐ手近な建物の屋上まで飛び上がる。
「ふうむ……もしかしなくても『ユーマバッグ帝国』の首都とかなのかしら?」
『それっぽい感じではあるでチュねぇ……』
屋上に上ったことで見えたのは、東洋圏の様式が混ざっている建物群に、空き地に立っている遊牧民の建物、それにひと際大きな……宮殿としか称しようのない建物と、その周囲に広がる荒れ地だ。
「でも、街中だと言うなら、あの荒れ具合はおかしいわよね」
『おかしいでチュね。爆発痕とかも見えるでチュし、あの荒れ地だけ、完全に戦場のそれでチュよ』
この街の中心に宮殿があるとするなら、その周囲に戦いの痕跡が見える荒れ地が百数十メートルの幅で広がり、更にその外側に私たちが居る普通の街が幅数キロメートルあり、普通の街を囲むように城壁……のように見えるマップの境界があるようだ。
なお、街並みについては先述の東洋圏の様式が混ざっている建物群、空き地に立っている遊牧民の折り畳み式建物の他、私が今居るような簡素な石造りの建物もあるし、物見櫓のような背の高い建物もあり、場所によっては明らかにスラム街と化している場所も見える。
「あ、軍旗が見えたわね」
『でチュね』
さて、物見櫓の方を見てみると、幾つかの物見櫓には『ユーマバッグ帝国』のものと思しき軍旗が掲げられており、人影のような物も朧げにだが見える。
そして、各軍旗の位置から読み取れる最も守りが厳重そうな場所にも、同様の軍旗が複数本掲げられており、他の場所に比べると少し騒がしい。
対する宮殿の方は、軍旗がないだけでなく、まるで音らしい音がせず、生きている人間が居ないようだった。
うん、今の状況がこれでだいたい分かった。
「現状はこういう事かしらね。前回のイベントで大量の呪物を蓄えた『ユーマバッグ帝国』の宝物庫がカース化。それも呪限無そのものと言うタイプのカースになった」
『ふむふむでチュ』
「そして、カース化の際に『ユーマバッグ帝国』の首都及び住民を飲み込む形で取り込んだため、ザッハーク他『ユーマバッグ帝国』の住民たちは脱出あるいは奪還の為に宝物庫があるであろう宮殿へと軍を向けた」
『細かいところは不明でチュが、確かにそれっぽい感じではあるでチュね』
「でも宝物庫は『幸福な造命呪』などを守護者として使役運用しており、ザッハークたちは返り討ちにあって、今は小康状態」
『まあ、少なくとも勝ってはいないでチュよね。状況的に』
細かい部分はともかく、大筋は間違っていないだろう。
「となると、ここでやってきたプレイヤーには五つぐらいの選択肢があるわね」
『五つでチュか。具体的には?』
「皇帝派、宝物庫派、火事場泥棒派、殲滅派、救済派、こんな所かしらね」
『ああ、何となく分かるでチュねぇ……』
さて、この状況でプレイヤーはどうするか。
『ユーマバッグ帝国』に協力して宝物庫を攻略し、正当な報酬として宝物庫のアイテムを貰うか。
出来るかは分からないが、宝物庫側に協力して『ユーマバッグ帝国』が所有しているアイテムを奪うか。
それぞれの陣営に潜入してアイテムを盗み取るか。
どちらの陣営も敵に回して殲滅し、アイテムを独占するか。
居るかは分からないが、戦いに関係のない住民を外へ連れ出して安全な場所に連れていくと言うのも、一つの手ではあるだろう。
『たるうぃはどうするでチュか?』
「私? 私はそうね……とりあえず拠点を探してアイテムの入手確定と今晩の宿の確保をしましょうか。どう動くにしてもまずはそっちよ」
『まあ、妥当でチュねー』
私は拠点になっているであろう建物に目星を付けると、そちらへと向かい始めた。




