740:5thナイトメア2ndデイ-4
「「「処刑する」」」
さて、今の状況を一言で表すならば、狭い、これ以外の単語は当てはまらないだろう。
一辺が5メートルほどしかない金属製の檻の中に、あらゆる場所に刃が付いた全身鎧を身に着ける身長3メートルほどの巨人が三人も居ると言う状況ならば当然のことと言えるが。
「ふんっ!」
「セイッ!」
「はあっ!」
「おっと」
巨人たちはタイミングをずらし、お互いの体がぶつかり合わないように注意しつつ、こちらへ指を刃に置き換えたような手を叩きつけてくる。
これで私の側が私だけでなく何人も居たら、それと私が空を飛ぶなどの三次元機動を出来なかったら、為す術もなく攻撃を叩き込まれ続けて死に戻りするのだろう。
が、実際にはそうではないため、私は一人目の攻撃を跳ねて回避、二人目の攻撃を空で羽ばたいて回避、三人目の攻撃を残り二人の位置の都合で物理的に届かない位置に行く事で回避する。
そして、回避に合わせて鑑定も行う。
△△△△△
全刃鎧の処刑人 レベル30
HP:105,322/105,322
有効:灼熱
耐性:気絶、小人、巨人、恐怖、魅了、重力増大、質量増大
▽▽▽▽▽
「何故かしら、ステータスを見ていたら涙が出て来たわ。いえ、侮れない相手だとは思うのだけど」
『なんでチュかね。地上の生物と考えたら弱くはないんでチュが、ここ最近たるうぃが相手をしていた連中を考えると……』
「「「処刑する!」」」
決して弱くはない。
この場との相性も悪くない。
でも、ここ最近は竜呪たちとばかり戦っていたので、巨人たちのステータスはとても控えめなものに思えてしまう。
あ、宝物庫でアイテムを取ると出て来る、黒ずくめの盗賊たちはノーカンである。
そもそも戦闘になっていなかったので。
「まあいいわ。逃げましょう。『淀縛の邪眼・2』、『小人の邪眼・2』」
「「「!?」」」
さて、そうしている間に邪眼術のチャージが出来たので、巨人たちの脚に『淀縛の邪眼・2』を撃ち込んで動きを止め、自分に対しては『小人の邪眼・2』を発動して小人化。
「よっと。はい、脱出成功」
『檻の間に何か仕込んでおくとかはないんでチュねぇ』
「馬鹿な!?」
「あり得ん!?」
「逃げただと!?」
そして、檻と檻の隙間……5センチくらいしかない場所を通って、檻の外に出る。
ギミックブレイク? 小人対策が檻に施されていない時点で正規ルートである。
「この構造。檻の中で行われる処刑を周囲から眺められるとか、そういう趣向かしら?」
『たぶんそうだと思うでチュ』
「「「出せ! 私たちを出すのだ! 私たちの職務を果たさせるのだ!」」」
檻の周囲には、檻を開けるためであろう装置、観覧用っぽい透明な壁と椅子がセットになったもの、部屋の外に出るための扉、檻から流れ出た様々なものを流すためっぽい排水路がある。
で、巨人たちは檻の格子を掴み、自分たちを外に出すように訴えている。
うーん、檻を開けるための装置を動かしている人間が居ない、私が外に出たのに檻が開かない、この二点から考えるに、中で誰かが死なないと檻が開かないとか、そういう呪いでもかかっているのだろうか?
考えてみれば、私の姿を目視しているのに発狂するような様子も見られない点、恐怖や魅了が入らない点からして、巨人たちは正気を失っている可能性が高い。
それなら、安全の為にそういう仕組みを用意しておくのも当然と言えるか。
「まあいいわ、とっとと焼きましょうか。『飢渇の邪眼・2』」
『まあ、始末しないと言う選択肢はないでチュよね』
「「「!?」」」
私は透明な壁の向こう側に移動すると、伏呪付きの『飢渇の邪眼・2』を巨人たちに撃ち込む。
「宣言する。骨の髄まで焼き尽くしてあげるわ。ezeerf『灼熱の邪眼・3』」
「「「ーーーーー!?」」」
それから乗せられるだけの呪法を乗せて、『灼熱の邪眼・3』を発動。
巨人たちを一気に焼き払う。
で、体の内側から全身を焼かれた巨人たちは、干渉力低下で元から立ち上がれない状態だったが、HPが尽きた事で檻から手を放し、その場で崩れ落ち……。
「……」
『うわぁ、でチュよ』
直後に全身が弾け飛んで、破裂音と共に鎧に付いていた刃が周囲に向かって弾丸のように放たれる。
檻の中は言うまでもなく大惨事であり、巨人たちの死体はズタズタに引き裂かれて原型を留めておらず、放たれた刃の幾つかは檻の隙間を通り抜けて、檻の周囲の壁にぶつかり、何度か跳ね返った後に床へと転がった。
『倒さなかったら処刑。倒しても道連れにされるとか酷いでチュねぇ……あ、でも、どう転んでも罪人を殺すなら、当然の仕組みなんでチュかね?』
「そうね。処刑がきちんと行われれば巨人たちは無事だし、誰か一人が死んで爆発しても、自分たちの身は鎧で守られている。『ユーマバッグ帝国』ならこれぐらいはやって当然だし、むしろ普段より優しいくらいかも。趣味の是非は別としてね」
私は元のサイズに戻ると、周囲に転がるアイテムを回収していく。
刃と鎧のパーツは溶かせば、金属資源として使えるだろう。
巨人たちの死体については……どういう理屈か、ちょっとした乾燥を通り越し、完全なミイラと化してしまっている手と頭ぐらいしか持っていけるものはなさそうか。
もはや人なのか猿なのかも分からない感じだし、使い道があるかも不明であるが、それでも一応持っていこう。
「さて、とっとと逃げるわよ」
『でチュねー』
私は扉を開けて、部屋の外に出る。
「む……」
『あ、結構奥にあったんでチュね。ここ』
部屋の外は左右に分岐していた。
左は普通の通路で、右は途中に苔が付いている窓があり、そこからはダンジョンのものよりも濃い呪詛の霧が流れ込んでいた。
どうやら、私は意図せずダンジョンを早く抜けるルートを見つけてしまったようだ。
私は窓から外へ出る事にした。