737:5thナイトメア2ndデイ-2
「じゃあ、ダンジョンに突入するわよ」
「分かったでチュ」
拠点を出て暫く。
私たちは昨日とは違うポイントからダンジョンへと突入する事にした。
「……」
さて、今回のイベントのダンジョン『宝物庫の悪夢-外縁』へ突入する際の転移については昨夜の内に検証班がおおよそを解明してくれている。
そちらのまとめによればだ。
・転移のタイミングはダンジョンの領域に10秒以上留まると転移開始。
・転移の際には、最初にダンジョンの領域に入ったものから10メートル以内に存在するものを一緒に転移させる。
・転移先についてはほぼ完全なランダム。
となっている。
なお、転移先がほぼ完全なランダムと言われているのは根拠がある。
検証班が調べた限りではあるが、
・一緒に転移しなかったプレイヤーが10メートル以内に居た事例が存在しない。
・次のエリアである呪限無が直ぐ近くに存在している事例が存在しない。
・直前まで戦闘が行われていた痕跡が転移場所にある事例が存在しない。
・他のプレイヤーが長時間その場に効果が残るバフを用いた場所に転移した事例が存在しない。
と言った事から、これらの事例に該当するような場所は転移先に選ばれないのではと思われている。
うん、私もこの辺については選ばれないようになっているのではないかと思う。
転移直後に不意打ちを受けて死に戻りと言うのは、流石に理不尽だと思うし。
「転移でチュね」
「そうね」
さて、そんな事を考えている間に転移が行われる。
今日の目標は呪限無に到達する事。
ハルワとの約束もあるし、『幸福な造命呪』が何処に居るか、どういう思想を持っているかについては早めに把握しておいた方がいいからだ。
勿論道中では回収出来るアイテムは回収しておくし、『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の制御訓練も並行して行っていくが。
「到着でチュ……っ!?」
「条件はギリギリ大丈夫なんでしょうね……」
転移が終わった。
私の背後には化身ゴーレムと小部屋に繋がるであろう扉がある。
私の正面には奇麗な白い壁がある。
私の右手……12メートルほど先からは昨日戦ったPKたちが突っ込んできている。
私の左手……14メートルほど先からは金属質の肌を持ったプレイヤーたち、『エギアズ』の面々が突っ込んできており、突っ込んでくるプレイヤーの背後からは総金属製の槍が何十本と放たれ始めている。
うん、誰がどう見ても、これからPKvsPKKの集団戦が発生する現場のど真ん中に降り立ってしまった。
転移条件的にはギリギリセーフなのだろうけど、此処まで酷い転移場所もそうはないだろう。
「タル!?」
「タルだと!?」
「何て間の悪い……」
「構うな! 突っ込め!」
「すまん、運が悪かったと諦めてくれ」
「折角だ! 昨日の怨み、此処で晴らしてやるよ!」
はい、PKたちは当然のこと、『エギアズ』側にも私に配慮する気持ちはない模様。
うん、仕方がないね。
私だってこの状況なら突然現れた誰かなんて気にせず仕掛ける。
そもそも『エギアズ』の側は既に攻撃を放ってしまっているのだから、止めたくても止められない。
すまなさそうな顔をしているだけでも、この場が終われば流していい案件だ。
「とりあえずそぉい!」
「「「!?」」」
が、それはそれ、これはこれ。
私だって抵抗せずに殺されるつもりはない。
と言う訳で、とりあえず『気絶の邪眼・3』を突っ込んでくる両陣営の前衛に照射。
効果があるものも居れば、何かしらの手段で無効化したものも居たが、いずれにせよ足並みは乱れ、ほんの僅かだが衝突が始まるまでの時間が伸びた。
「開けたでチュ!」
「ナイスよザリチュ!」
続けて後方に跳び、化身ゴーレムが開けた扉の先へと一緒に移動。
そして直ぐに閉め、『噴毒の華塔呪』を重石代わりに扉の前に置く。
直後、扉の向こうでは両陣営が放った遠距離攻撃が直撃、炸裂したらしく、爆音、破砕音、悲鳴、雷鳴、破裂音、液体の飛び散る音、鬨の声、等々が響き渡り、扉も開きそうになると共に大きく軋んで嫌な音を立てる。
「いやぁ、間一髪だったわね……」
「まったくでチュねぇ……」
うんまあ、とりあえず急場は凌いだと見ていいだろう。
私は大きく息を吐く。
「扉に近づいたら毒と乾燥を喰らったんだが!?」
「と言うか扉が開かねぇ!?」
「タルだ! タルの奴が何か呼び出して扉を塞いで、ギャアアアァァァァァ!?」
「タアアアァァァル! 無差別攻撃は止めろオオォォ!」
なお、扉の向こうが中々に凄惨な事になっている気もするが、今回の件については私は胸を張れるレベルで悪くないと思うので、気にしないでおくとしよう。
「で、これからどうするでチュ?」
「んー、戦闘がある程度落ち着くまで待つのは確定にしても、どうしようかしら」
戦闘の結果、PKたちが勝ったなら、ほぼ間違いなく私は全力で逃走をする必要に駆られる。
『エギアズ』が居る側が勝ったなら、交渉と言うかやり取り次第だろうか。
いや、今回のイベントの内容を考えると、『エギアズ』が相手でも無警戒で居るわけにはいかないか。
『エギアズ』が自分たちでアイテムを集めず、PKたちにアイテムを回収させ、それを奪い取る方針で動いているなら、PKたちを倒した後に私の側に来る可能性は低くてもあり得るわけだし。
「……」
とりあえずこの部屋に置かれているアイテムの確認をしてみよう。
話はそれからでいいはずだ。
「宝珠が一つに普通の槍が二本、それから普通のフード付きの全身を覆えるマントが一つ、ね」
と言う訳で、私は外の喧騒を敢えて無視しつつ、部屋の中を探り、幾つかのアイテムを見つけたのだった。