734:5thナイトメア1stデイ-8
「やっと合流でチュね」
「そうね」
PKから逃れた私はいつの間にかダンジョンの外に出てしまっていた。
そして、今後の事を考えてダンジョンの外で化身ゴーレムと合流し、ダンジョンに突入してしまう範囲から少し離れた。
「おいアレって……」
「タルだ……間違いなくタルだ」
「変な真似をするなよ。敵対したと思われたら大惨事だ」
「言われなくても分かってるっての」
「いきなり現れたのはステルスシステムの影響か」
で、この時点でイベント開始から……4時間ちょっとくらいか?
もっと経っているかと思っていたが、案外経っていない。
なお、私と化身ゴーレムはPKを避けるために、敢えて目立つ場所でじっとしている。
ステルスシステムの効果で接近するまで見えていないからか、他のプレイヤーたちは突然現れる私の姿にだいたいが驚くが、こちらが敵意がない事を示せば、現状では全てのプレイヤーが私たちの事をそれ以上気にすることなく移動していく。
「で、再突入するでチュか?」
「んー、他のプレイヤーたちが既に辿り着き始めているし、またあのPKたちに襲われる可能性もある。私たちが突入するのは明日に回した方がいいかもしれないわね」
「分かったでチュ」
掲示板を確認。
現状では『宝物庫の悪夢-外縁』を突破して、その内側に入れたと言う話はない。
今から再突入しても一番乗りとはならないだろうし、恐らくだがPvP含めて激しい戦闘も起きるだろう。
そこに消耗した状態で挑むのは……流石にリスクが高すぎるだろう。
「さて、まずはダンジョン近辺に拠点がないかを確認して、アイテムの入手を確定させると共に、色々と補給しましょうか」
「壊れたゴーレムの再作成に、ドゴストの中身の取り出し、考えてみたら、色々とやる事があるんでチュよね。たるうぃって」
「そうそう」
と言う訳で今日のダンジョンアタックは諦めて、宿を探す事にする。
今回のイベントは私にとっては『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の練習がメインであるのだし、その他にやるべき事だって他のプレイヤーが失敗したらの話。
うん、初日くらいは適当に過ごしても問題ないだろう。
「んー、ここも廃村……いえ、廃屋みたいね」
「でチュねぇ」
そうして周辺の探索をする事一時間ほど。
寂れてはいるが、元は大きめの屋敷だったように見える家屋を見つけた。
「此処が拠点ね」
「でチュね」
拠点扱いになっているのは廃屋の中心部の一部屋。
壁には結界扉と入手確定用の機械が設置されている。
「これでよし」
「入手確定でチュね」
私はドゴストからジョウロを取り出すと、機械の読み取り部分をかざした。
すると半透明のウィンドウが出現し、ジョウロの入手が確定した旨のメッセージが流れた。
これで一安心だ。
「えーと、ジョウロとドゴストの中身をセーフティーエリアの中に入れておいて……」
「ギチギチになっているでチュね」
「後は適当な砂場か削るのに良さそうな岩が周囲にないか探しましょうか」
「いい砂があるといいんでチュけどねぇ」
では、拠点内部の本格的な探索を開始。
寂れ具合からして、人が居なくなってから月単位で時間は経っていそうだが、他のプレイヤーの姿含めて何かはあるかもしれないので、きちんと探索する。
主の部屋と思しき場所、客間、食堂、馬小屋らしき場所、庭園と探していき、庭園には立派な岩があったので、腕ゴーレムで削って砂に変える事にした。
「此処は……倉庫みたいね」
「でチュね」
やがて私たちは倉庫のように見える場所にやってきた。
倉庫は大部分は拠点の内側だが、端の方は微妙に拠点の外側扱いになっていると言う立地だ。
何か悪用出来そうな立地ではあるが……まあ、気にしないでおこう。
「何かあるかしらねー」
「何かないでチュかねー」
倉庫の中はほぼほぼ空っぽであり、残されているものの大半はガラクタ以下の様だった。
これまでに見て来たものを考えると、この廃屋の主は商家だったようだし、この倉庫には商品が並んでいたはず。
だから少しだけ期待もしたが、何もないなら仕方がないか。
「あら?」
「どうしたでチュ? たるうぃ」
と、思っていたら、微かにだが呪いを纏っている壺を見つけた。
なので手に取ってみる。
中身は……液体ではないが、重量からして何かしらは入っているようだ。
では、鑑定をしてみるか。
「ふうん。固形化の壺ねぇ」
「液体を入れると、成分を損ねることなく、乾燥や冷凍によって固形化させる効果があるみたいでチュね。面白いでチュ」
鑑定結果は固形化の壺。
どうやら前回のイベントでプレイヤーの誰かが作り、納品したアイテムのようだ。
見た目が微妙で、効果も評価されなかったから、この廃屋の元主に下賜されたとかだろうか?
そんな感じでダンジョンの外でも低価値のアイテムなら見つかっているとは聞いているので、大きく間違ってはいないと思う。
うん、使い道はあるだろうし、入手処理をしておこう。
「で、中身はなんでチュ?」
「中身は……『ダマーヴァンド』の毒液ね」
「……。なんでこんなところにあるんでチュか……」
「私が聞きたいわよ……」
で、そんな固形化の壺だが……何故か中に乾燥した『ダマーヴァンド』の毒液が入っていた。
毒液自体は前回のイベントで私が使った余りだと思うのだが、一体何がどうなれば、別プレイヤーの作成物に入っているのか、謎である。
「まあ、どっちも回収はしておきましょう」
「そうでチュねー」
とりあえず回収はしておいた。
使い道はきっとあると思っておこう。
その後、ゴーレムの再作成を終え、私は一日目を終えた。