732:5thナイトメア1stデイ-6
「……」
では、まずは小手調べ。
私の居る位置から前方は通路の角を少し過ぎたくらいまでの範囲を、後方は10メートル少しの範囲を対象として、改めて呪詛を支配。
そして、範囲内の呪詛濃度を26まで上昇させる。
「へぇ……」
「おいおい、何だこの呪詛の濃さ。妙なのが寄ってきてるのか? まあいい、だったら早い所仕留めて、ずらからせてもらうか」
変化はない。
どうやら先ほどの黒タイツと違って、呪詛濃度26の空間にもきちんと対応出来ているようだ。
先ほど聞こえたのと同じ男の声が聞こえてくるが、こちらに接近してくる感じがない事からして、わざとだろう。
となると……うん、相手はプレイヤーっぽさそうだ。
相手から仕掛けてきている時点で、交渉の類をしようとは思わないが。
「凍れ!」
『たるうぃ!』
「っ!?」
動きがあった。
私の後方、十字路と白煙がない方で、柱の陰から銀髪の少女が飛び出し、その手に持った小さな弓から冷気を纏った矢が飛んでくる。
あの目立つ見た目の少女を見逃した覚えはない。
つまり、何かしらの方法で私の目を誤魔化して後方に回り込み、仲間の男が声によって前方にこちらの気を惹き、奇襲を仕掛けてきたと言う事だ。
「っう!?」
そんな事を考えつつ、私は咄嗟に身を捩りつつネツミテを振るって迎撃をしようとする。
が、流石に完全には防ぎきれず、冷気を纏った矢は私の翅の一つに突き刺さり、氷結属性のダメージと凍結の状態異常を与え、私の動きを鈍らせて来る。
いや、動きが鈍るだけでなく、翅が凍ったことで天井近くにあった私の体が落ち始めている。
「『熱波の呪い』……」
「よくやったぁ!」
足音。
白煙の方から三人か四人、こちらの方へ駆けてくる。
銀髪の少女は柱の陰に向かって跳びつつも、既に次の矢を弓につがえ始めている。
「『抗体の呪い』」
情報整理。
相手は六人以上と想定、うち四人が私に接近戦を仕掛けるために走ってきている。
銀髪の少女は射程10メートル前後であろう短弓使いであり、奇襲能力も持っているが、PK専門と考えれば氷結だけでなく一通り使えると思う。
で、慣れたPKならば保険や後方支援も用意していて当然だと思うので、白煙の中に最低でも一人は残していると考えておくべきだろう。
「さあ、ジャイアントキリングだ」
「一気に仕留める」
「ひひひひひ」
「やってやるよぉ!」
前衛四人が私の視界内に入ってくる。
手にしている武器はそれぞれ異なるが、いずれも冷気を纏っている。
その目に油断はなく、無駄な会話の類をしようと言う意思もない。
うん、これは完全に相手が私であると理解した上で仕掛けてきているな。
「ふんっ!」
「!?」
私も躊躇わずに動く。
前衛四人が現れたタイミングで呪詛の種を仕込んだ呪詛の剣を飛ばし、動作キーで『毒の邪眼・3』を撃ち込む。
すると直ぐに『呪法・感染蔓』が効果を発するが……。
「効くかよ!」
「舐めるな!」
「ま、持ってるわよね」
何かしらの状態異常無効化手段によって無効化され、伸びていった蔓も同じように弾かれる。
まあ、予定通りであるし、剥がすのが目的だったので問題はない。
「死ねぇ!」
「ソニックスラッシュ!」
「ソニックピアース!」
「ソニックスマッシュ!」
「っう!?」
直後、前衛四人が私を包囲するように動きつつ、通常攻撃を一発、何かしらの速度補正を得た攻撃を三発、私の体に叩きこむ。
『熱波の呪い』による壁を用意し、ネツミテによるガードも行ったが、それでもなおダメージは大きい。
だが、凍結は受けなかった。
これならばまだ何とかなるかもしれない。
「くそっ、後衛の耐久じゃねえぞ!」
「今ので死なないのかよ!」
「ねらっ……っう!?」
「だからこその……」
「ふんっ!」
私はネツミテの持ち手を手の甲で一度叩いてから、呪詛の鎖による移動で包囲から離脱。
短弓を放とうとした銀髪の少女に『気絶の邪眼・3』を撃ち込んで動きを止めつつ、ネツミテを近接攻撃用であろう呪術を放とうとした男に向かって振るう。
「ゴボッ!?」
「「「!?」」」
するとネツミテの先端から『噴毒の華塔呪』が投擲され、男の腹に突き刺さる。
なお、理屈については、動作キーで『竜息の呪い』の射出方法2を発動しただけであるが、それでも唐突に大型のゴーレムが出現し、正面からぶつかってくると言う想像外であろう光景に思わずPKたちの動きが止まる。
「せいっ!」
「ピギュ!?」
「ぼおげるなぁ!」
「「「っ!?」」」
その隙を狙って銀髪の少女にネツミテを振り下ろし、追加効果によって動きを止めつつ、呪詛の鎖で引っ張って、他のPKたちにぶつける。
だが、この動作の間に他のPKたちはリーダーであろう男が声を上げて落ち着きを取り戻させ、白煙に隠れていたPKが回復を始め、他の三人が私の方へと向かってくる。
HPは……だいぶ回復してきたし、足りるか。
「ふふふふふ」
「これ以上時間与えるな!」
「何が飛んでくるか分かった物じゃないからな!」
「仕留める!」
三人突っ込んでくる。
私も前に出る。
「此処だ!」
「ふふふふふ……」
そして同時に飛び退いた。
直後、私が居た場所は床から尖った岩の柱が何本も突き出て、私はドゴストから『噴毒の華塔呪』を取り出して壁にした。
「楽しいわぁ……実に楽しい」
「ぐっ……そう上手くはいかないか……」
白煙の向こうには回復役とは別のPKの姿が見えた。
やはり遠距離呪術攻撃専門のPKも居たか。
これで七人。
さて、ここからどう攻めて行こうか。