727:5thナイトメア1stデイ-1
「あー、体が一気に楽になったわねぇ……」
「この中は普段のセーフティーエリアと同じ呪詛濃度になっているみたいでチュね」
最初の拠点は木造の小さな掘立小屋の中のようだった。
壁にはセーフティーエリアに繋がる結界扉が設置されると共に、見慣れない機械……コンビニのレジで店員がバーコードにかざすそれに似たものが、大型の機械に繋がれる形で置かれている。
どうやら、このかざす機械がアイテムの入手処理のための機械であり、かざす機械に繋がっている大型の機械の方が、前回イベントで入手したポイントを使う機械のようだ。
で、外に続く扉は一つだけと。
「他のプレイヤーが居ないのは……最初の拠点は個別の空間になっているからみたいね」
「そうでチュね。外から声が聞こえて来るでチュ」
扉の向こうからは複数人の声が聞こえてくる。
会話内容からして、協力するか否か、どちらに向かうのかと言った相談をしているようだ。
検証班も混ざっているらしく、効率的な検証のために他のプレイヤーに話を聞いてもいるようだ。
「まあ、まずはポイントの処理からね」
「でチュか」
私は大型の機械を動かす。
どうやらタッチパネル式のようで、UIに従って動かせば、簡単に動かせる。
そして、私の持つ3,080ポイントをどう割り振るかを考える。
「さて……」
ポイントの割り振り先は6つ。
各種ステータスの強化。
どの方向にアイテムがあるか探れるレーダーシステム。
目的地までの最短距離を教えてくれるナビゲートシステム。
戦闘を避けるのに役立つであろうステルスシステム。
長距離の移動能力を強化するビークルシステム。
アイテム鑑定の強化。
であり、一つの項目に最大で2,000ポイントまで振れる。
イベント中にポイントを得る方法、ポイントを再分配する方法もあるが、特定のアイテムが必要なので、それなりには慎重に割り振るべきだろう。
と言うのが、普通のプレイヤーの話。
「とは言え、私の場合はステータスの強化とステルスだけでだいたい事足りそうではあるのよねぇ」
「たるうぃにはアイテムを回収する気がないでチュからねぇ」
私の場合、アイテムについては、一部の芸術部門に属するアイテムを回収が可能なら回収するくらいの気持ちしかない。
メインは水月の竜骨耳飾りを利用した『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の制御訓練であるため、アイテムがどちらにあるのか、アイテムまでどうやって行けばいいのか、アイテムがどんな物か調べる力を強化する、と言う三つの項目については完全な死に枠だ。
また、ビークルについても、『空中浮遊』の呪いとの兼ね合いを考えると優先度は低い。
「じゃ、ぱぱっと振りましょうか」
「でチュねー」
以上の理由から、とりあえずステルスシステムに2,000ポイント振る。
結果は?
「ザリチュ。どう見える?」
「んー、この距離のせいか、ざりちゅがたるうぃの一部判定を受けているかなのかは分からないでチュが、特に変化は見られないでチュね」
「そう。まあ、ステルス全振りならば誰にも見られません、勘づかれませんは強すぎるから、何かしらの限界はあるんでしょうね」
現状では分からない。
とりあえず、直接切り結ぶような距離……数メートル圏内にまで接近されたら、大した効果はないと思っておこう。
「ステータス強化に1,000ポイント……干渉力を10伸ばせばいいか」
「少なくないでチュか?」
「HPは10ポイントで1、満腹度は20ポイントで1、干渉力は100ポイントで1伸ばせる仕様だから仕方がないわ」
「ああ、なるほどでチュ」
続けてステータス強化に1,000ポイント振って、干渉力を10伸ばす。
ちなみにもっと細かい強化……腕の干渉力だけ伸ばすなら10ポイントで1伸ばしたり、指一本だけ干渉力を伸ばすなら1ポイントで1伸ばすと言うものもあるし、火炎属性や呪詛属性、毒や灼熱と言った特定の属性や状態異常だけを伸ばす事も出来る。
出来るが……そこら辺を細かく細かく突き詰めていくと、数日悩むくらいは普通にあり得そうなので、とりあえず伸ばしても困らない全体の干渉力を強化した。
「残り80ポイント……一応、ビークルを頼んでみましょうか」
「使えなかったらどうするでチュ?」
「その時は使わないだけよ」
最後にビークルへ80ポイント投下。
80ポイントで入手出来て、かつ私でも使えそうなものを探す。
ちなみにビークルは一人用ならばポイントを支払った当人のみ、多人数用ならばポイントを支払った当人と当人から許可をもらったプレイヤーのみが触れて扱える仕様である。
で、肝心のビークルは……まあ、色々とある。
現実でも走っている自動車やバイク、それらの荒れ地仕様版、あるいは少しだけ浮かんで走るSFチックなものや、立派な主砲が付いた戦車まで上の方には存在している。
そして下の方は下の方で、自転車に三輪車、ローラースケートに……スーパーのカートのようにしか見えない物もある。
ぶっちゃけ何でもありだ。
「これでいいかしらね」
「……。まあ、たるうぃでも使えそうでチュね」
そんな中、80ポイントでも回収出来て、私でも使えるビークルは一応あった。
「じゃあ、出発しましょうか」
「……。分かったでチュ」
足の甲を隠さず、足首や指の付け根などで位置を固定しているサンダル……ソールに特殊な呪いがかかっているらしく、どういう場所でも足裏とつま先をあらゆる害から守ってくれる、と言うものである。
「これ、もはやビークルじゃないでチュよね」
「徒歩こそ原点にして最古の輸送手段! と言う事にしておきましょう」
と言う訳で準備を終えた私たちは掘立小屋の外に出た。