726:5thナイトメアプリペア-3
『盛り上がっているかあぁぁ! 化け物共おおおぉぉぉ!!』
「始まったでチュねぇ」
「そうねー……」
「やる気がなさそうね。アンノウン」
いつも通りに『CNP』運営、イベント・広報担当である万捻さんの姿が目の前で浮遊するモニターに浮かび上がる。
なお、私に説明を聞く気が薄いのは、今回のイベントの目的と私が求めるものの間で大きな差があるからである。
『ではでは、今回はゲストも居ませんし、サクサクっとイベントの概要について話していきましょうか』
イベントの概要については、前回のイベントのラストでされた説明と、公式サイトに掲載されている内容、この二つから特に変化はない。
流れとしては、プレイヤーは外周の拠点からスタートし、前回のイベントで得たポイントで各種強化をし、マップ各地に存在しているアイテムを他のプレイヤーやモンスター、カースの妨害を切り抜けつつ回収。
回収したアイテムを拠点にまで持ち帰る事で、入手が確定になると言うものだ。
『なお、幾つか補足事項があります』
「んー……?」
「なんでチュかね?」
なお、補足事項としてだ。
『まず、回収したアイテムは消耗品の類であるか否かに関わらず、拠点に持ち帰って入手処理をするまで使用出来ません。また、一部例外を除いて、今回回収できるアイテムは入手処理をするまで破壊もできません』
「ふうん……」
つまり、何とか手に入れたアイテムを奪われるくらいならと使用して消したり、破壊して台無しにしたりと言ったことは出来ないらしい。
それと入手したアイテムを使って一発逆転と言うのも許されないようだ。
『次に、今回のイベントは何があっても途中で終了するような事にはなりません。必ず五日間行われます』
「「……」」
「何で聖女ハルワもザリチュも私の方を見るのかしらねー……」
「誰かが何かやらかすとしたら、貴方が一番あり得るからよ。アンノウン」
「たるうぃ、これまでを振り返るでチュよ。……チュア? ああ、抓る元気がないんでチュね」
今回のイベントは仮に『ユーマバッグ帝国』皇帝、ザッハークの身に何かが起きても続くと。
いや、それだけじゃないか。
何かしらの手段によって『ユーマバッグ帝国』そのものが消滅したり、プレイヤーが無限リスポンキルされるようになったり、超大型カースが暴れ回って世界が滅亡するような事態になる。
こういった、普通なら中止されるような事態そのものは幾らでも起きえるが、そのいずれが起きようともイベントは続く、そういう事なのだろう。
「ああそうそう。今回の私はこのまま此処で観戦させてもらうわ」
「分かったわ。つまり何かしらの事故で異形度が上がっても、それを直ぐに下げるのは無しって事ねー……」
前回と違い聖女ハルワの協力はなし。
よって、回収したアイテムの効果によって望まない形で異形度が上がっても、救済はないと言う事だ。
私しか知らない情報であるが、地味に重要な情報でもある。
後で掲示板にも流しておこう。
『さてこれで説明は……おっと、追加の質問とそれに対する回答が届きましたね。どれどれ……』
おや、まだあるのか?
万捻さんがカメラがある方向とは違う方向の虚空へ目をやっているように見える。
『はい、質問内容は意図的に特定のプレイヤーを狙って攻撃し続け、妨害した場合にはどうなるのか。だそうです』
「ああその事……」
「そうね。気になる人は気になるでしょう」
「だいたい予想は付くでチュけどね」
『運営の回答としましては、覚悟をしておくように、との事だそうです』
「「「……」」」
うん、知ってた。
お仕置きが来るんですね、分かります。
リベンジシステムだったかな? そういう仕様もあった気はするけれど、悪質ならばそれでひっくり返すよりも早く、ヤバい何かが来るのだろう。
『それではそろそろイベント開始と行きましょうか』
さて、そろそろイベント開始か。
「アンノウン」
「何かしら?」
「貴方の姿が傍目には認識できないように相応の格好をしておくべきだと、今更ながらに忠告しておくわ」
「本当に今更ね。しかも、今言われても手持ちの札で対処するしかないじゃない……」
聖女ハルワの言葉に私はため息を吐く。
だが、言いたいことは分かる。
これから行く場所には、人気の殆どない今回の交流用マップと違って、ちゃんと人が居る。
それも私の姿を認識したらどうなるか分かった物ではない、極々普通の人間がだ。
だから、そういう普通の人間が私の事を認識しないように、何かしらの手を打っておくようにとの事なのだろう。
うん、今言われてももう遅い。
そして、すっかり失念していた事項なので、ドゴストの中も含め、対策になるようなアイテムに心当たりがない。
こうなると……ひたすらに呪詛濃度を上げた上で人目に付かないように行動するぐらいしか打てる手はないだろう。
「まあ、何とかはするわ。『ユーマバッグ帝国』の人間はどうでもいい相手であって、虐殺をしたいわけじゃないから」
「感謝するわ」
『3……2……1……第五回イベント開始です!』
そして私は最初の拠点に飛ばされた。