724:5thナイトメアプリペア-1
「うごおっ……」
本日は2019年9月22日、日曜日。
『CNP』公式第五回イベント『盗賊恐れる宝物庫の悪夢』の開催日である。
と言う訳で、毎度のように交流用マップが開かれると同時に私はログインしたのだが……。
「なんか、出してはいけない感じの呻き声が出たでチュね。たるうぃ」
「おごごごご……」
「あ、ガチできついんでチュね」
前回……『CNP』公式第四回イベント『空白恐れる宝物庫の悪夢』の時に交流マップで感じた気怠さを遥かに超える気怠さが私を襲った。
全身がきつく縛り上げられ、自重と同じくらいの重石を付けられ、下腹部を中心とした鈍痛を感じ、頭が微妙にぼうっとする感じがある。
原因は分かっている。
称号『七つの大呪に並ぶもの』に記載がある修正前の呪詛濃度が呪詛濃度5以下の空間ではペナルティが発生すると言うものが発生しているのだ。
「あー、ログアウトして、イベント直前にまた入り直すでチュ?」
「此処での情報収集と練習もしたいから、それは断るわー……」
問題は、何故前回よりも遥かにペナルティが重くなっているかだ。
私の異形度や普段の呪いは変わっていない。
前回のイベント後の装備更新や呪術強化はあったが、それがこのような異常をもたらすとも思えない。
うーん、誰かに遠隔で呪われたりでもしたか?
いや、それなら通知の類が来そうだし、呪圏の施行と同時に弾き出せそうな気がする。
そもそも、そんな呪いがあると言う話も聞いた事がないけれど。
「んー、一時的にとは言え、異形度40とかになった反動でチュかねぇ……」
「異形度40……あー、なるほどね……ありそうねぇ……」
ザリチュが挙げたのは、邪火太夫との戦いの際に私が『竜活の呪い』を使用して、異形度を一時的に上昇させたことの副作用が出ているというものだ。
うん、そちらの方なら何かしらの影響が出る事はあり得そうだ。
なにせ異形度20でカースになるのがこの世界のルールであり、その中で一時的にと言えども、基準の倍、異形度40にまで達したのであれば、その後異形度が戻っても何かしらの影響が残る可能性は否定できないだろう。
「異形度40……」
「なんかあり得ない数字が聞こえたんだけど……」
「じょ、上位陣、人間辞めすぎだろ……」
「ああ、例の動画の時のアレか」
「むしろ、あそこまで行って異形度40で済むんだと言う感じだけどな」
「なんにせよタルだから仕方がない」
なお、周囲の状況だが、街並みについては前回と同じ、『ユーマバッグ帝国』の東洋圏の様式が混ざった街並みだ。
で、そこを行き交うプレイヤーが私とザリチュの会話を聞いた様子としては……新人か新人上がりぐらいのプレイヤーについては信じがたいものを見るような目を、中堅以上からセイメサイド装備と思しき装備を身に着けた上位プレイヤーは何だいつもの事かと言う感じの目をしている。
私の知り合いは……見当たらないか。
それと前回はそれなりに見かけたNPCの姿は売店関係に勤める最低限しか見かけない。
「とりあえずざりちゅがたるうぃを連れ歩けばいいんでチュかね?」
「そうねー。それでいいと思うわー……」
ザリチュが私の首のドロシヒを掴んで歩き始める。
首が絞まる?
この程度で呼吸が詰まるような体はしていないので、何の問題もない。
「しかし、あの怠そうな状態……異形度を上げ過ぎると、やっぱり碌な事にならないんだな」
「そもそも、異形度40にしたら、普通はキャラロスト一直線だと思うけどな」
「いや、と言うか、あの運び方だと首が絞まって危ないんじゃ……」
「タルだから問題はない」
「ほんそれ」
さて周囲は……見れないか。
そう言えば交流用マップの低異形度アバターだと、目の数が足りないんだったか。
「ん?」
「どうしたんでチュか? たるうぃ」
「いや、考えてみれば、今の私は低異形度アバターなのに『空中浮遊』が機能しているなと思ったのよ」
「……。そう言えばそうでチュね」
と、此処で気付く。
これまでの低異形度アバターでは『空中浮遊』は削除されていたはず。
だが、今の私はザリチュの化身ゴーレムが私を引きずっているのに抵抗なく歩けている事からも分かるように、『空中浮遊』が機能しており、足元に目を回してみれば、数センチだがきっちり浮いている。
「たるうぃ……」
「どうしたの?」
「無意識みたいでチュが、翅一つと目一つが出て来てるでチュ」
「……。どうにも調整が上手くいってないようね……」
ザリチュに言われて気づいたが、私の足元を見る目は顔や鎖骨の間にある目ではなく、背中から生えた虫の翅の先端に付いている目だった。
どうやら無意識に呪憲を施行して、低異形度アバターを強制するルールを弾き飛ばしてしまったようだ。
「ええっ、何だあれ……」
「ここ、交流用マップなんだけどなぁ……」
「タルだから仕方がないとはいえ、ルールは破らないでいただきたい……」
「何か裏道を見つけたな。タルの奴」
「おい、誰か検証班を呼んで来い。特ダネだぞー」
周囲の反応も唖然……としているのは一部だけか。
大多数のプレイヤーは落ち着いて対処しているようだ。
私が言うのもなんだが、慣れ過ぎではないだろうか?
「たるうぃ」
「なんとか上手く調整するわー……。と言うか、ルール調整が出来るなら、この気怠さを真っ先に飛ばしたいのに……」
「それが出来ないと言う事は、低異形度アバターのルールよりも気怠さ付与のルールの方が強度が強いって事なんでチュかねぇ」
「かもしれないわねぇ……」
なお、この会話は他のプレイヤーに聞こえないように小声でしている。
そして私たちは何かしらのイベントがないかと街中を彷徨い始めた。
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