720:タルウィロウ-1
「反省会はこれぐらいでチュかね」
「そうねー……」
掲示板での反省会は終わった。
と言う訳で私は全身を脱力させて、楽な体勢になる。
うん、分かってはいたが、恒常的な1レベル低下に加えて、干渉力低下(41)、恐怖(123)、呪詛操作不可(82)が一時間スタック値が減らない状態で付与されると言うのは、中々にキツイものがある。
全身がだるくて重く、震え、普段は手足のように扱えているものが一切使えないので、当然の感覚でもあるが。
「じゃあ、報酬支払の代行。お願いするわ」
「分かったでチュ」
こんな状態では人前に出るどころか、この場から動く事も難しい。
なので先ほど掲示板で提案した邪火太夫との戦いに参加してくれてありがとうの報酬はザリチュに見繕ってもらい、運んで行ってもらう。
なお、検証班は必要ないと言っていたが……悩ましい。
検証班としては私からこれまでに得た情報の対価の支払い代わりとして、今回の件を無報酬にしたいところだとは思うが……その意思を尊重するべきなのか、無視するべきなのか、実に悩ましい。
うん、適当な機会と理由を見つけて、上手く渡す事を考えよう。
「で、邪火太夫に勝つための糸口は本当に掴んだんでチュか?」
「本音を言うなら、掴んではいないわ。見つけただけ」
「掲示板では大口を叩いたわけでチュねぇ……」
「まあ、見つけただけだとちょっとと思ったのよね……」
では、個人的な反省会だ。
と言っても、一にも二にも考えるべきは、戦いの最後の方で見出しはしたけれど、結局何も出来なかった、『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』と『確立者』についてだ。
「ざりちゅが何か手伝うことは出来るでチュか? たるうぃ」
「んー……この件についてはこれまで以上に感覚的なものと言うか、言語化が難しい気がするし、外部からの手出しも難しいと思うのよね。必要になったら手は借りるから、そのつもりでいて」
「分かったでチュ」
私の言葉を受けてザリチュは、一緒に闘技場から戻ってきたらしい『噴毒の華塔呪』や『瘴弦の奏基呪』の整理と調整を始める。
彼らに大した傷は付いていないので、次回の戦闘でも持ち込んで使うことは出来るだろう。
「……」
私は時間を確認。
明日のイベントも考えると、今日出来るのは、『竜活の呪い』のデメリット解除を待ちつつ、考察を深め、その考察結果に合わせて少し素材を回収するぐらいか。
では考察だが、『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』の効果は……考えなくてもいい。
今回重要なのは原理の方だ。
「ルールの強制。それも相手がそう言うクラスでなければ、相手の如何なる能力をも無視しての、と言う事よね」
『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』は私自身と私の周囲に様々な影響を及ぼす呪いであり、この効果は掲示板で探った限りでは、同種の能力でも阻害は出来ない。
真反対の能力ならば打ち消しも出来るが、それも1-1=0と言う感じで、結果的に打ち消されているように見えるだけで、どちらも効果そのものは遺憾なく発揮されているそうだ。
だから、妙な感覚の類を覚える事もないようだ。
そう、これ以上は進めず、弾かれているという感覚をだ。
「ふうん」
なお、私は掲示板で調べるまで知らなかったが、邪火太夫との戦いには呪圏持ちも数人だけ参加していたらしい。
しかし、この呪圏持ちたちの書き込みを見る限り、私が感じたような感覚は覚えなかったようだ。
たぶん、これは圏と憲の差であり、『確立者』を有するものとそうでないものの差なのだろう。
「……」
糸口は少しだけ掴めた気がする。
恐らくだが、邪火太夫にしろ屋敷巨人にしろ、外部からの攻撃によって自分はダメージを受けないと言うルールを周囲に敷いているのだと思う。
つまり、このルールを打ち破らなければ、絶対に倒せない相手になっているのだろう。
竜骨塔にこのルールが無いのは、単純な能力不足だとして……私もそうなのだろうか?
まあいい、問題はどうやってこのルールを打ち破るのかだ。
「んー、訓練は必須として……」
呪詛支配によって私の『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』を制御し、自分のルールを堅守しつつ、相手のルールを侵食し、打ち破る。
これがたぶん真正面から挑む場合の話。
だがしかし、これはほぼ確実に間違った方法だろう。
相手が屋敷巨人であっても、彼我の実力差から考えて、力押しでどうにか出来るとは思えない。
「どうやって相手の裏をかくと言うか、ルールの隙間を見つけて、そこを起点に食い破るかよねぇ……」
「発言が不穏でチュよ。たるうぃ……」
「そりゃあ不穏でしょうねー」
だから何かしらの裏を見つける必要がある。
『CNP』と言うゲームの基本ルールとして、メリットを得るためには何かしらのデメリットを被る、あるいはコストを支払う必要がある。
ならば自分を守護するルールを維持するために、屋敷巨人にも相応のデメリットとコストはあるはずだ。
それを見つけ出し、そこを起点に『呪憲・瘴熱満ちる宇宙』を攻撃的に展開し、打ち破る。
うん、これがたぶん正道だ。
「いずれにせよ、呪憲への理解度がまだまだ足りないし、呪憲そのものの改良も必要。思った以上に先は長そうね……」
方針は決まった。
しかし、先は長い。
明日からのイベント期間中、イベントを無視して自分の拠点内で訓練し続けるのもありだろうか?
いや、流石にそれは止めておこう。
イベント限定での未知があるかもしれないし。
「……。とりあえず沈黙の眼宮に行ってみるべきね」
そうこうしている内に、私がかかっている状態異常のスタック値は減り始めた。
11/07誤字訂正