713:タルウィチャム・3・リプリペア-5
「チュー……チュー……問題を確認中ー……チュー……チュー……問題を確認中ー……チュー……チュー……名称登録中ー……チュー……チュー……登録完了でチュ」
「今回は随分と掛かったわねぇ……内容を考えたら当然なんだけど」
土曜日の朝。
私がログインし、いつもの作業を終えて『ダマーヴァンド』のセーフティーエリアに戻ってきたタイミングでザリチュの読み込みは終わったようだった。
ゲーム内とリアルの時間差を考えると、取り込み開始から丸一日以上かかったことになるか。
「その分期待はしてもらっていいでチュよ」
「分かったわ」
では、ザリチュが新たに得た渇砂操作術の詳細を確認しよう。
△△△△△
『瘴弦の奏基呪』
レベル:40
干渉力:135
CT:60s-120s
トリガー:[詠唱キー]
効果:周囲の砂を操ってカース『瘴弦の奏基呪』を一体作成する。
カース化したゴーレム『瘴弦の奏基呪』を作成する。
ゴーレムの性能の一部は着用者のステータスに依存する。
背中のポッドにセットされた楽器を演奏する。
演奏効果:ザリチュが指定した対象に向けて、以下の効果から指定したものを5秒ごとに与える。
選択できる効果:火炎属性ダメージ(中)+灼熱(周囲の呪詛濃度)、呪詛属性ダメージ(中)+暗闇(周囲の呪詛濃度)、毒(周囲の呪詛濃度)、気絶(1)、恐怖(周囲の呪詛濃度)、精神系状態異常回復(周囲の呪詛濃度×2)、5秒持続する呪詛濃度過多の無効化(10)
背中のポッドにセットされている楽器は、ゴーレム作成後に楽器を渡す事で換装が可能。
注意:CTはザリチュが処理するが、トリガーは着用者が引く必要がある。
注意:使用する度に着用者に最大HP低下(100)、最大満腹度低下(10)、干渉力低下(1)が付与される。
注意:このゴーレムは『竜鱗渇鼠の騎帽呪』ザリチュの命令しか聞きません。
注意:このゴーレムは14体以上同時に存在できない。
注意:このゴーレムは呪詛濃度19以下の空間には存在できない。
注意:ポッドにセットされている楽器はゴーレムが破壊された時に一緒に破壊される。
▽▽▽▽▽
「……。ザリチュ」
「なんでチュか? たるうぃ」
「呪詛濃度過多の無効化は何処から来たと思う?」
「さあ? ざりちゅには分からないでチュよ」
詳細説明からして、今書かれている演奏効果は竜狩る瘴熱の洋琵琶を基にしたものと考えていいだろう。
それなのに何故か呪詛濃度過多の無効化と言う私にとってはほぼ役に立たない演奏効果が追加されているが……まあいいか。
幅が広がるのは悪い事ではないし。
「とりあえず一体出すでチュよ。たるうぃ」
「そうね。『瘴弦の奏基呪』」
では、作り出してみよう。
私は砂を準備すると、詠唱キーを引き、『瘴弦の奏基呪』を発動。
砂が集まっていき、背中にポッドのような物体を乗せた蜘蛛に似た姿のゴーレムが出来上がる。
「問題なく出来たでチュね」
「ええ、問題はなさそうね」
出来上がった『瘴弦の奏基呪』はこちらに顔を向けた状態で停止しているが、少しずつ空気を吸い込んで、腹を膨らませている。
では、一応鑑定。
△△△△△
『瘴弦の奏基呪』 レベル41
HP:4,200/4,200
有効:沈黙、UI消失
耐性:毒、灼熱、悪臭、気絶、出血、小人、巨人、恐怖、乾燥、暗闇、魅了、石化
▽▽▽▽▽
「ふむふむ……」
「そう言えば『竜活の呪い』を発動中にゴーレムを作成すると強化されたりとかってあるんでチュかね?」
「あるかもだけど、効果時間終了後が怖いからそれはなしよ」
「でチュよねー」
性能的には問題はなさそう。
ただ、『噴毒の華塔呪』と違い、体が堅い甲殻に守られているわけではないし、ポッドの楽器が破壊されたら実質的に何も出来なくなることを考えると、やはり後方支援に専念させるべきだろう。
「あ、試しに演奏させるでチュよ」
「分かったわ」
『瘴弦の奏基呪』が背中のポッド内にある手を動かす事で、演奏を始める。
その響きは正確で、機械的なものだが、それ故に安定しているとも感じた。
なお、今選んでいる演奏効果は精神系状態異常の回復と呪詛濃度過多の無効化である。
「それでたるうぃ、あの楽器の山はなんでチュか?」
「ザリチュが昨日読み込みを始めてから、余ってた竜呪素材で作った楽器。色々とあるわよ。効果はどれも似たり寄ったりだけど」
「みたいでチュねぇ……まあ、演奏の幅が広がった方が演奏効果は上がるでチュか」
と、ここでようやくザリチュがセーフティーエリアの隅に積んでおいた大量の楽器に言及した。
そこにあるのは、フルートやトランペットのような管楽器や、木琴や太鼓のような打楽器、ハープやギターのような弦楽器など、私が思いつき、再現あるいは壊れかけの楽器からの修復ができそうだと思ったものが一通り置いてある。
とは言え、どれも素人作成の楽器であり、ゲームの補正と素材の性能のおかげで音こそ出せるが、出来そのものはそこまで良い物では無かったりするが。
「さ、準備をしましょうか。ザリチュが一緒に挑むなら、先に一通りは用意しておくべきよ」
「分かったでチュ。ざりちゅは調律をするでチュから、詠唱キーは任せるでチュよ」
では、邪火太夫と戦うための準備として、とりあえず『瘴弦の奏基呪』と『噴毒の華塔呪』を13体ずつ作成するとしよう。