712:タルウィチャム・3・リプリペア-4
「ふぅ、流石に疲れたわね」
「お疲れ様でチュ。たるうぃ」
本日は金曜日。
瘴熱の洋琵琶を使って暗梟の竜呪を倒し、その素材で瘴熱の洋琵琶の強化を行った私は、他の眼宮にも挑み、おおよそ順調に瘴熱の洋琵琶の強化を終えた。
こんなに早く促成強化を済ませられるとは、私も成長したものである。
「でも、おかげで楽器についてはいい物が出来たわね」
なお、それぞれの眼宮での戦闘の詳細を挑んだ順に並べるならばだ。
恐怖の眼宮、UI消失状態そのものは楽器の天敵とも言えたが、『抗体の呪い』でUI消失状態への耐性を付けたら、後は攻撃を避けつつ演奏するだけだった。
毒の眼宮、無限リポップと演奏の性質のせいで切り所がなく、最終的には自分から演奏を切り上げ、各種邪眼術を駆使して離脱。
気絶の眼宮、『抗体の呪い』を利用してのお祈り演奏会、何度も噛み殺されそうになった。
灼熱の眼宮、ただひたすらに長い、最強武器地面はやはり偉大だった。
沈黙の眼宮、音を出したらペナルティなので、そもそも行けなかった。
なお、毒、気絶、灼熱の眼宮に入った時には、沈黙の眼宮と暗闇の眼宮に入った時と同じようなチリチリとした感覚を覚えた。
それと兎黙の竜呪が無理なのはザリチュに話し、諦めて貰った。
「そうでチュね。これならいいゴーレムになると思うでチュ」
だが、そうして竜呪を倒したことで、瘴熱の洋琵琶は大きく強化された。
木材部分は牛陽の竜呪の枝葉を利用したものにすることで頑丈かつ火炎属性の力を増した。
弦の調整をする部分に、鼠毒の竜呪の尾と虎絶の竜呪の角から作り出されたパーツを使う事によって、演奏中でも自由自在に動くようになると共に、各種強化も施した。
弦そのものも恐羊の竜呪の毛を利用する事で大幅に性能上昇。
そして、暗梟の竜呪の油塊をニスのように用いる事で音の響きが素人でも分かるほどに向上した。
で、鑑定結果はこうなった。
△△△△△
竜狩る瘴熱の洋琵琶
レベル:40
耐久度:100/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:19
『虹霓竜瞳の不老不死呪』タルが作成した、各種竜呪の素材が用いられた素晴らしい弦楽器。
弾けば奏者が望むものへ向けて、大量の熱、呪詛、毒を与え、心身魂を蝕み、刻み付ける。
だがそれは惑いから目覚めて、目を啓かせる音でもある。
演奏効果:奏者が指定した対象に向けて、以下の効果から指定したものを5秒ごとに与える。
選択できる効果:火炎属性ダメージ(中)+灼熱(周囲の呪詛濃度)、呪詛属性ダメージ(中)+暗闇(周囲の呪詛濃度)、毒(周囲の呪詛濃度)、気絶(1)、恐怖(周囲の呪詛濃度)、精神系状態異常回復(周囲の呪詛濃度×2)
周囲の呪詛、エネルギーの一部を吸収する事で耐久度が回復する。
注意:装備者のレベルが39以下の場合、5秒演奏する度に魅了(1)を受ける。
注意:装備者のレベルが39以下の場合、5秒演奏する度に最大HPの5%分のダメージを受ける。
注意:装備者が称号『竜狩りの呪人』を持たない場合、演奏効果と対象の選択が不可能になる。
注意:対応する弓を用いなければ演奏は出来ない。
▽▽▽▽▽
「と言うかよくカース化しなかったでチュよねぇ……」
「そこはまあ、カースになるなと言う念だけはずっと送り続けていたから」
まあ、使っている素材に相応しい性能にはなっただろう。
ただ、ザリチュの作るゴーレムに組み込むために、カース化させないのが一番大変な作業だったかもしれない。
「それでゴーレムの方は?」
「こんな感じでチュね」
さて、そうして出来上がった竜狩る瘴熱の洋琵琶は先述の通り、ザリチュの作ったゴーレムの原型に組み込まれ、竜狩る瘴熱の洋琵琶ごと新たなゴーレムになる。
では、その肝心なゴーレムがどんなものかと言えば……簡単に言えば、大きなポッドを背負った蜘蛛、と言うところだろうか。
背中部分に楽器を収めるポッドがあり、ポッドの中には様々な楽器を扱うための小さな手や口が幾つもある。
どうやら、竜狩る瘴熱の洋琵琶を使う事を基本にしつつも、他の楽器も使う事が可能な構造になっているようだ。
で、八本の脚でゆっくりと動き回りつつ、頭で吸気し、腹部で空気を貯めて人と同じように放出する仕掛けになっている、と。
「とにかく楽器を扱う事を優先させた関係上、耐久については割と残念なことになっているでチュ。これはゴーレムにしても、変わらないと思うでチュ。よって、ほぼ後方支援のみ。遠くに飛ばすのも『竜息の呪い』の射出方法1を使うべきでチュね」
「分かったわ。覚えておく」
まあ、何体も出せそうな堅い後方支援役は許されなくて当然だし、拡張性も考えたら十分だろう。
「じゃあ、竜狩る瘴熱の洋琵琶をセットして」
「洋琵琶ごと呪うでチュ」
「砂の準備も完了」
「じゃあ、頼むでチュよ」
呪怨台で呪うのも問題なく成功。
では、各種竜呪の骨を砕いて砂にしたものの上に乗せてっと。
「『取り込みの砂』」
『取り込みの砂』が発動。
ゴーレムの型が砂に飲み込まれて行き、姿が見えなくなった。
「チュー……チュー……データを取り込み中ー……チュー……チュー……可動域の設定中ー……チュー……チュー……能力の設定中ー……チュー……チュー……進行度1%でチュー……」
「あっ」
と、此処で気付く。
次のイベントが日曜日に迫っている事、『魅了の邪眼・3』の習得に伴って開放されるであろう魅了の眼宮の探索がある事を考えると、今日の挑戦で邪火太夫に勝っておきたいと思っていた。
だが、ゴーレムの型を取り込むのにかかる時間がある事を忘れていた、と。
「チュー……チュー……データを取り込み中ー……チュー……チュー……可動域の設定中ー……チュー……チュー……能力の設定中ー……チュー……チュー……進行度1%でチュー……」
「あー……これは……今日挑むのは無理ね」
竜狩りの瘴熱の洋琵琶を演奏できるゴーレムを洋琵琶の能力ごと取り込む。
それにかかる時間はいったいどれほどのものになるだろうか?
最低でも出来上がるゴーレムはカースであろうし、仕掛けの繊細さ、複雑さと言った物も加味して考えると、『噴毒の華塔呪』よりも確実に時間はかかるに違いない。
現在のリアルの時刻が夜8時頃である事を考えると、早くても明日の朝になるはずだ。
「掲示板に今日はないって書き込んでおくべきね」
そんなわけで掲示板に今日の邪火太夫チャレンジがない事を書き込むと、幾つかのアイテムを作ってから私はログアウトするのだった。