710:タルウィチャム・3・リプリペア-2
「で、対策の方針は決まったわけでチュが、具体的にはどうするんでチュか?」
「そうねぇ……」
私は魅了対策としてザリチュが耐性関係のバフを撒く専門のゴーレムを新たに作る案を挙げる。
私の話を聞いたザリチュは首を傾げ、暫くの間唸り……やがて口を開いた。
「たるうぃの提案は可能か否かで言えば可能でチュ」
「そう、ならよかったわ。じゃあ早速……」
「でも、邪火太夫ほどの相手の魅了を防ぐなら、相応の原型を基にして作らないと、役には立たないと思うでチュ。最悪、邪火太夫の方が強化されるまであり得るでチュね」
「……」
作成そのものは可能。
しかし、相応のゴーレムにしないと、邪火太夫に魅了されて敵に回りかねない、と。
まあ、あの邪火太夫なら、魅了される精神を持たないはずのゴーレムであっても魅了してみせるぐらいは出来てもおかしくないか。
「じゃあどうすればいいの?」
「んー、基本的な形状についてはバフを撒く範囲が広い事もあって、楽器型にするのがいいと思うんでチュね。だから、デンプレロの取り巻きから手に入れた楽器があったでチュよね。アレを使えばいいと思うでチュ」
「デンプレロの取り巻き……ああ、演奏の蠍呪が落とした奴ね。そう言えばそんなものもあったわね」
私は『ダマーヴァンド』の何処かに放置していた演奏の蠍呪の壊れた楽器を持ってくる。
形状は色々とあるが……弦楽器系の物が良さそうか。
ただ、名称の通り壊れているので、ゴーレムにするには修理が必要だろう。
「でも、この楽器だとレベル不足じゃないかしら?」
「レベル不足だと思うでチュよ。まあ、邪火太夫相手だと、竜呪素材でも足りているか悩ましい気もするでチュが」
それ以上に問題なのは演奏の蠍呪の壊れた楽器のレベルが25しかない事か。
このレベルの素材で作ったゴーレムでは、先ほどザリチュの言った邪火太夫に操られる可能性が現実のものになってしまいそうだ。
「だからたるうぃが強化するんでチュよ」
「私が?」
「最終調整はざりちゅがやるでちゅが、その前段階まではたるうぃの他の装備品のように、他の素材を組み合わせていき、強化を進めて、レベルを上げていくんでチュ。ただ、レベルに中身が伴わないと、それはそれで危険だと思うでチュから……」
「つまり、この楽器を修復し、この楽器を用いて敵を倒し、倒した敵の素材を使って楽器を強化しろと言う事ね」
「そういう事でチュ」
何と言うか、此処に来てRPGによくある、おつかいクエストのような物が発生した気がする。
しかしこうなるとだ。
「素体は弦楽器のこれでいいとして、弦は垂れ肉華シダの蔓の繊維と誘閉の狼呪の毛、硬質な部分は誘閉の狼呪の牙、木製部分の補修に牛陽の竜呪の首の枝葉……」
「牛陽の竜呪は楽器で倒してからでないと飲まれると思うでチュ。あ、そもそも楽器で倒すのは打撃武器のように使ってではなく、楽器あるいは呪術の道具として使ってでチュし、倒すべき相手は現状戦える六種の竜呪でチュ。そして、当然ながら、ざりちゅの『取り込みの砂』で取り込めない素材を使うのは無しでチュよ」
「……。じゃあ、まずは熱拍の幼樹呪の木材で補修。それと攻撃に使えるような何かを付け加えるべきね」
どう修理をするかを考えていたら、追加注文をされた。
まあ、達成出来ない注文ではないので、こなすだけだが。
「じゃ、直すわ」
と言う訳で、必要な素材を集めて来て、修理を開始。
まず本体部分の穴埋めを熱拍の幼樹呪の木材を使って行うが、この際に折角なので呪憲・瘴熱満ちる宇宙を発動しておく。
強化になるかは分からないが、物は試しだ。
次に本体の中で硬質な部分に誘閉の狼呪の牙……だけでは大きさや数が足りなかったのでズワムの牙も使って、パーツを作成、換装する。
それから、熱拍の幼樹呪の赤樹脂とズワムの油を使って、仕上げを施していく。
で、弦は垂れ肉華シダの蔓の繊維と誘閉の狼呪の毛をより合わせた物を作って、張り直す。
これで、絶対に持たせたい力である魅了対策については問題なく出来るはずだ。
後は……誘閉の狼呪の尻尾を利用した弓も作っておくとしよう。
たぶんだが、手で弾くよりは楽になると思う。
「むんっ」
そして、『熱波の呪い』を発動しつつ、呪怨台で呪った。
込める念は二種類。
将来的には魅了対策に、現状では武器として使えるようにだ。
「出来上がったでチュね」
「みたいね。では鑑定っと」
呪詛の霧が晴れた後、呪怨台の上には私の腕の長さよりも少し長いくらい弦楽器と対応している弓が乗っていた。
ギターやバイオリンとは少し違う、リュートと呼ばれる楽器に近いだろうか?
なお、素材の影響か、リュートの各所には狼の装飾が施されている。
色が蘇芳色なのは……呪憲・瘴熱満ちる宇宙の影響だろうか?
まあ、何はともあれ、まずは鑑定である。
△△△△△
瘴熱の洋琵琶
レベル:25
耐久度:100/100
干渉力:115
浸食率:100/100
異形度:16
『虹霓竜瞳の不老不死呪』タルが作成した弦楽器。
弾けば周囲に大量の熱、呪詛、毒をばら撒き、奏者以外に音を聞いたもの全ての心身を蝕む。
だがそれは惑いから目覚める音でもある。
演奏効果:奏者以外に火炎属性ダメージ(小)、呪詛属性ダメージ(小)、毒(周囲の呪詛濃度)、精神系状態異常回復(周囲の呪詛濃度)を5秒ごとに与える。
周囲の呪詛、エネルギーの一部を吸収する事で耐久度が回復する。
注意:装備者のレベルが24以下の場合、5秒演奏する度に魅了(1)を受ける。
注意:対応する弓を用いなければ演奏は出来ない。
▽▽▽▽▽
「まあ、使い物にはなるわね」
「このままだと誰にも聞かせられないでチュけどねー。と言うか、たるうぃ」
どうやら5秒演奏するごとに音が届く範囲に居る全ての相手にダメージを与えられるらしい。
ふむふむ、これで常に複数体の敵が存在している眼宮にて、竜呪を倒すのか。
「これ、演奏中は際限なく周囲の敵を引き寄せる危険物でチュけど?」
「対象指定をしなかった私が悪いと思っておくわ」
「ざりちゅは後々の為にゴーレム部分の作成を始めておくでチュよ。巻き込まれたくもないでチュしね」
「分かったわ」
正直かなり厳しいかもしれない。
まあ、竜呪を倒す度に強化も出来るのだから、そこの強化で何とかしていくとしよう。
と言う訳で、私は瘴熱の洋琵琶を手に取ると、『虹霓鏡宮の呪界』へと一人で向かった。
10/29誤字訂正