707:タルウィチャム・3-4
「防ぎま……っう!?」
ゴーストストラスさんの攻撃を私専任の護衛が盾で防ごうとする。
だが、ゴーストストラスさんの槍は翼持ちのプレイヤーの盾をすり抜け、その体に深く突き刺さっている。
どうやら、ゴースト化によって、今のストラスさんは一部の物体をすり抜ける事が出来るようになったらしい。
「チュラァ!」
「アガァッ!?」
「回復します!」
「うぐっ……」
いや、一部の物体と言うか、呪いが薄い物体をすり抜けることが出来ると言う感じか?
その証拠にザリチュ操る化身ゴーレムが振るったズワムロンソが持つ呪詛の刃はゴーストストラスさんの体を切り裂き、吹き飛ばす。
そして、攻撃も相手の肉体を傷つけるものではないようで、ゴーストストラスさんの槍が抜けた後に傷跡の類は見えない。
「トドメェ!」
「せいやぁ!」
「アアアァァァ!」
と、ここで、ゴーストストラスさんへ他のプレイヤーからの炎や雷による攻撃が行われ、ザリチュの攻撃によって千切れかけた体をくっつけようとしていたゴーストストラスさんの体は完全に霧散する。
「よし、流石にここから復活はなさそうだな!」
「フラグじゃないからな! ちゃんと安全確認はしているからな!」
「不安になるから止めて!」
さてこれでゴーストストラスさんの問題は処理できた。
だが、大本である邪火太夫には未だにマトモな攻撃が出来ていない。
「この体だと、確かにこれ以上の復活は無理ですね。でも、私の為に踊る人はまだまだ沢山居ますヨ?」
「「「……」」」
で、その邪火太夫だが、私がストラスさんに対処している間に、また何人か魅了していて、しかも二人ほどはゾンビ化している。
どうやら、前衛がダメージを与えずに抑え込むのに失敗して、倒してしまったらしい。
いや、そもそも現状だとまだ魅了にかかっていないプレイヤーや、スタック値が少ないプレイヤーを助けるのが後衛の精一杯であり、強い魅了にかかってしまったプレイヤーまでは手が回らない感じか。
後、流石に四回目の復活は勘弁してください。
ゴーストですらない何かとか、対処出来る気がしません。
「くそっ、どうすればいいんだこれ……」
「勝てる気がしねぇ……」
「触られたら魅了、声や匂いが届いても時々魅了、魅了を倒したら復活……」
魅了されていないプレイヤーの間で悲観的な空気が漂い始める。
私もどうすればいいか、中々考えが思いつかない。
だから、お互いに武器を構えていても、私たちの側からは攻撃が出来なくなってしまっている。
「うーん、誰も仕掛けてこないのはつまらないですネ」
「っ!?」
そんな中で邪火太夫がつまらなさそうに呟く。
拙い、極めて拙い。
『悪創の偽神呪』もそうだが、このレベルの存在のつまらないを放置するのは致命傷になる。
「『熱波の呪い』!」
なので私は『熱波の呪い』を発動した上で、呪詛を操作。
呪詛の槍を出現させる。
それも私の手元や周囲ではなく、邪火太夫の直ぐ近くの空間に、邪火太夫の体を穂先で貫くようにだ。
回避不可能攻撃は威力が大きく落ちる性質があるが、今は邪火太夫に暇を与えないのが重要であるために放った攻撃だった。
「あら、楼主様候補はキャッチボールをお望みデ?」
「んなっ!?」
「チュアッ!?」
そして、私とザリチュは目の前に広がった光景に唖然とした。
きっと、その光景の意味を正しく理解したのは、この場では私、ザリチュ、邪火太夫、『悪創の偽神呪』だけだっただろう。
私は呪詛の槍を狙い通りに出現させ、伸ばした。
呪詛の槍は邪火太夫の体に触れた。
だが、刺さりはしなかった。
それどころか、邪火太夫に触れた部分から、呪詛の槍は崩れ去っていった。
それが私の前で起きた事だった。
「ふふふ、そういう事なら私もお付き合いしましょうカ」
「呪詛支配能力が……」
何が起きた?
私が支配していた呪詛が、邪火太夫の体に触れた途端に支配権を奪われたのだ。
いや、奪われたなどと言う生易しい物ではなく、まるで最初からそうだったのにと言うか、万有引力のような世界の基本的ルールがそうであるかのように、邪火太夫のものにされてしまったのだ。
もはや呪詛支配能力に差があると言う次元ではなく、もっと根本的な部分で差があるようだった。
「では、お返しヲ」
「なぼっ!?」
「たるうぃ!?」
「「「!?」」」
そこまで私の考えが及んだところで、私の全身が燃え盛る炎の槍によって貫かれていた。
槍の出元は私の腹の中。
私は体の内側から伸びて来た槍によって、頭、両手両足、腹に胸、全身のあらゆる場所が貫かれ、空中に固定されていた。
「あ……ご……な……」
HPバーが急速に減っていき、『死退灰帰』が発動し、また減っていく。
早く脱出して、傷を癒さなければと思う。
しかしそれ以上に私の頭の中は何が起きたのかを必死に考えていた。
呪詛支配をされたのは間違いない。
だが、相手の体内の呪詛を支配し、そこから相手の全身を貫くような形で呪詛の刃を生じさせる?
無理だ、不可能だ。
こういう攻撃をされる危険性を考えて、私の支配圏の呪詛には常に神経を尖らせていた。
少なくとも私が知る法則に従うのであれば、『悪創の偽神呪』にだって何の準備もなく出来ることではない。
「くそっ! こうなれば破れかぶれだ!」
「少しでも多くの情報を持ち帰るぞ!」
「ま、タルさんならまだ……キャアッ!?」
つまり何かあるのだ。
こんな出鱈目な攻撃を簡単に成立させるような何かが。
そして、その何かこそが邪火太夫の最も厄介な部分であり、恐らくはそれを明らかにしない限りは、邪火太夫の討伐は出来ない。
今、他のプレイヤーたちがしているような突撃では、情報を持ち帰るかも怪しいぐらいだ。
「はぁ、諦めちゃうのは駄目ですヨ」
「「「!?」」」
そんな私の懸念を示すように突撃を仕掛けたプレイヤーたちは悉く魅了され……
「あ、これは無理でチュね」
「この数はちょっと……」
「アハハハハ……」
串刺しにされた私と、その救助をしようとしたプレイヤーたちを狙って大量の武器を投擲。
私たちは殺到する武器によって押し潰されて死んだ。
「ふふふ、またの遊戯を楽しみにしていますね、楼主様候補。願わくば、次はもっと楽しいものになる事を望みまス」
死に戻りする中、私の頭の中に邪火太夫の声が響いた。