702:タルウィチャム・3・プリペア
「今日は『魅了の邪眼・1』の強化でチュか?」
日付が変わって水曜日。
私は『CNP』にログインすると、いつも通りの作業を済ませる。
そして本題だ。
「いいえ、まだ前段階よ」
『魅了の邪眼・1』を強化するべく、色々な物を入れて鍋で煮続けていた液体だが、大量の灰汁が出ている。
なのでまずは灰汁を丁寧に除去していく。
香りは……現段階でも中々に蠱惑的な物であり、油断したら折角の鍋の中身を飲み干してしまいそうだ。
が、そこは我慢する。
「まだ前段階。と言う事は、今日一日はまだ煮る感じでチュか」
「そうなるわね。具材は投入していくけど」
我慢して、私は誘閉の狼呪の肉、相性の良さそうな『ダマーヴァンド』産の作物、収奪の苔竜呪の花弁を適切にカットして投入していく。
また、味や香りの調整をするために、スパイスや偶像ライムも投入。
これで後一日、灰汁を取りつつ煮て、呪怨台で呪えば、『魅了の邪眼・1』を強化するための何かが完成するだろう。
「さて次ね」
では次。
昨日食べ損ねていた兎黙の竜呪の肉を適度に炙ってから口に運ぶ。
「モグモグ。鶏肉みたいな感じね」
「暗梟の竜呪と同じ感じでチュか?」
「んー……暗梟の竜呪と比べると、ワイルドさと言うか野生味と言うか、とにかくそんな感じが強いわね」
≪呪い『劣竜式呪詛構造体』がアップデートされました≫
なお、味は言うまでもなく絶品である。
何と言うか、高級フランス料理とかに使われそうなのが暗梟の竜呪の肉で、高級ジビエとかに出てきそうなのが兎黙の竜呪の肉と言う感じである。
何を言っているんだと思われるかもしれないが。
なお、『劣竜式呪詛構造体』の強化には、たぶんだが、後三種類の肉を食べる必要があるので、地道に目指すとしよう。
「おっと灰汁取り灰汁取り」
「結構手間暇がかかるでチュねぇ」
私が兎黙の竜呪の肉を食べている間に、鍋の方ではまた灰汁が出て来ていた。
と言う訳で丁寧に取っていく。
「こんなに手間を必要とするなら、どこか遠くに行くとかは出来なさそうでチュねぇ」
「それは別に構わないわ。灰汁取りをしつつ、魅了対策を作っていく予定だったし」
灰汁取りを終えた私は偶像ライムを新たに回収してきて、そちらを利用して魅了回復アイテムを作っていく。
なお効果としては、使用した場所を中心として、周囲数メートル以内に居るものの魅了を回復するものとなる。
「んー? どうして範囲回復なんでチュか?」
「ザリチュ。私はね、今回の『魅了の邪眼・1』強化の試練ではゲストが複数人呼ばれると思っているのよ」
「複数人でチュか?」
「強力な魅了持ちの定番と言えば、複数人を同時に魅了して、魅了出来なかった相手をタコ殴りだもの。それなのにゲスト一人だけ、あるいは私だけ魅了してお終いだなんて、美味しくないわ」
「あー、それはそうでチュねぇ」
ちなみに私もゲストも全員が魅了されると言うパターンについては敢えて言及しない。
そうなった時点で全滅が確定し、試練失敗も確定するからだ。
と言うか、私自身が魅了を防げなかった場合はほぼ試練失敗なので、試練開始前に魅了を対象にした『抗体の呪い』を使っておくのは必須だろう。
「そうでなくとも、私の苦手を突くと言う意味では、多人数にするのが有効なのよね。『呪法・感染蔓』での拡散や、目一つ分の邪眼をばら撒くにしても、複数人が相手だと一人当たりの効果は大きく落ちるもの」
「まあ、一対一よりは苦手でチュよね」
話を戻すが、魅了の性質と私の苦手分野を考えた場合、やはりゲストを複数人にした方が、難易度はその分だけ上がると思うのだ。
だから、『悪創の偽神呪』の性格まで考えると、『魅了の邪眼・1』を強化する時のゲストは複数人になると思うのだ。
「ところで当たり前のようにゲストの話が出てきたでチュが、2で止まるとは思わないんでチュか?」
「レベハラをする二体の素材、呪いが詰め込まれた竜の遺骨、特殊な環境で出現する誘閉の狼呪、これらが組み合わさって、これだけの手間暇をかけて、私が全力で呪って弐の位階に収まると思う?」
「思わないでチュねぇ……」
なお、素材の都合上、『魅了の邪眼・1』の強化が2に上がるだけで済むとは思っていない。
伏呪を付けようとも思っていないので、そうなれば素材の持つ力が全て強化に回されるはずであり、これで2になった方がむしろ恐ろしいというものである。
「むしろ問題はゲストが何人、誰が来るかなのよねぇ」
「誰がともかく、人数は予想が付くんじゃないでチュか?」
「一応はね。『CNP』だとだいたい1PTとして扱われるのは6人、7人、10人辺りだから、私を加えてその辺の人数になるようにすると思うのよ」
「妥当っぽいでチュねぇ」
おっと、また灰汁が出て来た。
取らねば。
「で、そうしてやって来たのがちゃんと協力できる相手ならいいけど……」
「ああ、協力できなかった場合はそういう方向での対処も考えるべきなんでチュね」
「考えるべきでしょ。性格は問題なくても、回復しきれないほどの魅了を受けて、どうしようもない状態になる可能性だってあるはずだし」
と、そんな感じで今日は一日、灰汁取りと魅了回復アイテムの作成に専念するのだった。
さて、出来れば今回は一発で強化したいものである。
10/23、収奪の苔竜呪の花弁を追加使用。




