701:セーレパレス-3
「それでタル。その格好はどうしたの?」
「格好?」
「装備よ、装備。ほぼ大事な場所しか隠れてないじゃない……」
「ああ、その事。ジタツニを色々な素材でアップグレードしたら、どうしてかこうなったのよね」
沈黙の眼宮を脱出したところで、ザリアが上着をインベントリから取り出しつつ近づいてくる。
そして直ぐに私へ上着を押し付けてきたが……。
「でも別に問題はないでしょ。隠さないといけない部分はちゃんと隠れているし」
「確かに隠れているけども、そういう問題じゃないから!」
「ほら、水着のような物だと思えば問題はないわよ」
「くっ、どうすれば友人を説得できるかが分からない……性能面はどう考えても一級品でしょうし……」
私は上着を返す。
まあ、ザリアの言いたいことは分からないでもない。
私自身、ジタツニに対して痴女装備と言う印象を抱いてはいるのだし。
でも、ちゃんと隠すべき場所は隠れているのだから、問題はないだろう。
と言うか、少なくともシステム上は問題ないのだから、下手に恥じらわず、堂々としている方が余計なトラブルを招く事もないはずだ。
なので、私はとにかく堂々とさせてもらう。
「それよりも今はまず兎黙の竜呪の素材について確認をしましょう」
「……。分かったわ。確認をしましょうか」
では、周囲がざわつき始めてもいるし、話を切り上げて、やるべき事をやるとしよう。
「ではタル様」
「ええ、解体をさせてもらうわ」
それでは解体からしていこう。
とは言え、いつも通りにサクッと解体をして、鑑定をしていくだけなのだが。
で、手に入ったのは、肉、骨、角耳、血、毛皮、尻尾、翼、刃の八種類。
性能としては他の竜呪のものとそう変わらず、ペナルティや適性が沈黙に偏っているぐらいか。
そんな中で鑑定結果が個人的に気になったのは角耳、尻尾、刃の三つだ。
△△△△△
兎黙の竜呪の角耳
レベル:40
耐久度:95/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:20
兎黙の竜呪の頭部から生える、角あるいは刃のようにも見える耳。
柔らかくしなりもするが、堅くもあり、傷つける事は容易ではない。
この世ならざる存在である竜の角は、ただ在るだけでも威厳に溢れる。
注意:異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、沈黙(100)を与える。
注意:周囲の呪詛濃度が15以下の空間では存在できない。
▽▽▽▽▽
△△△△△
兎黙の竜呪の尻尾
レベル:40
耐久度:82/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:20
兎黙の竜呪が持つ、美しい鱗が生え揃った蜥蜴のような尻尾。
命を一撃で奪い取る力に対する強い抵抗力を有している。
この世ならざる存在である竜の尾は、見るものの多くを魅了する。
注意:異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、沈黙(100)を与える。
注意:周囲の呪詛濃度が15以下の空間では存在できない。
▽▽▽▽▽
△△△△△
兎黙の竜呪の刃
レベル:42
耐久度:95/100
干渉力:140
浸食率:100/100
異形度:20
兎黙の竜呪の腕から生える、鋭く、美しい刃。
首を斬る事、命を奪い取る事に特化しており、持ち手を付ければ直ぐにでも妖刀として用いることが出来るだろう。
この世ならざる存在である竜の刃は、安易に扱ってはいけない。
与ダメージ時:戦闘不能付与(極低)
この刃による首への攻撃が成功した場合、与ダメージ、クリティカル率、戦闘不能付与確率が大幅に上昇する。
注意:異形度19以下のプレイヤーが鑑定すると、沈黙(100)を与える。
注意:周囲の呪詛濃度が18以下の空間では存在できない。
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「角耳は他にはない感じだな」
「そうだな。加工のしがいがあると言うものだ」
「尻尾は即死防御アイテムになりそうだな」
「これがあれば苔竜呪の即死付与も防げるようになるのかね?」
「で、刃は……完全に危険物だな。首狩り専門武器だぞ、これ」
「素の状態でも名刀、妖刀か。正しく加工すれば、更に切れ味が増すのだろうな」
ちなみにだが、兎黙の竜呪の刃は、刃を出している状態の兎黙の竜呪を撃破する事でしか手に入らないようで、刃を出していない兎黙の竜呪の腕を解体してみても、骨と肉と毛皮しか手に入らなかった。
つまりはある種の特殊ドロップと言う事になるのだろうが……兎黙の竜呪の刃の切れ味は言うまでもなく、それを振るう兎黙の竜呪の身体能力も同様。
スクナやブラクロのように対処出来るプレイヤーならばともかく、他のプレイヤーが入手するのは、相当きつそうだ。
「……。タル。折角だからこっちも鑑定してもらっていいか?」
「ん? いいけど……」
と、ここでレライエが一本の兎黙の竜呪の刃を渡してきた。
なので鑑定をしてみたが……驚かされた。
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兎黙の竜呪の純白刃
レベル:55
耐久度:100/100
干渉力:150
浸食率:100/100
異形度:25
アルビノの兎黙の竜呪の腕から生える、鋭く、美しい、新雪のように白い刃。
首を斬る事、命を奪い取る事に特化しており、竜の鱗も骨も容易に断ち切って、無に帰す。
アルビノの兎黙の竜呪……赤い眼、白い毛皮を持つ、かの竜の呪いと知恵が詰め込まれた刃は、安易に扱ってはいけない。
扱いを間違えれば、刃を振るったものは必ず破滅するだろう。
与ダメージ時:戦闘不能付与(中)
この刃による首への攻撃が成功した場合、与ダメージ、クリティカル率、戦闘不能付与確率が大幅に上昇する。
注意:異形度25以下のプレイヤーが鑑定すると、沈黙(1,000)、戦闘不能(極低)を与える。
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「あの試練の個体の奴ね……」
「そうだ。俺自身では鑑定出来なかったから頼んだ。だがこれは……想像以上に酷いな」
「ひえっ」
「なんだこれ……」
「こわっ……」
「私が受け取ったのとは段違いですね」
「俺のと比べてもそうだな」
どうやら、『沈黙の邪眼・3』の試練で戦った個体の刃だったようだ。
通常個体のものとはスペックがまるで違う。
それにしても……何だろうか、単純なスペック以外にも差を感じると言うか何と言うか……とりあえずこれ以上持っているのは怖いので、レライエに返しておこう。
後、いつの間にかやって来たライトリとマントデアの反応からして、試練個体と言うだけでは説明が付かない程に強力なようだ。
「じゃ、解体はこれで終わりね。ライトリとマントデアたちはこれから頑張ってね」
「頑張ります」
「おう」
では、今日の所はこれぐらいで切り上げておくとしよう。