700:セーレパレス-2
「さ、詠唱キーは使わずにガンガン攻めていきましょう」
「……。そうだな」
「そうですね。攻めましょう」
「ーーーーー!?」
私が恐怖させた兎ドラゴンへと検証班からの攻撃が殺到していく。
と同時に、他の兎ドラゴンは仲間の危機にどう出るかも確認。
見た限りだと……助けに来る気はなさそうだ。
それどころか個体によっては逃げ出しているものも居る。
「鑑定しました。レベル40、兎黙の竜呪だそうです」
「「「……」」」
ストラスさんの報告に全員が頷く。
なるほど、兎ドラゴンの正式名称は兎黙の竜呪と言うのか。
それと掲示板には鑑定結果の詳細が載せられている。
音を発するとデバフがかかる特殊フィールドについては変わらずなので、口で伝える情報は最小限にするのが適切であるため納得である。
「ふんっ!」
「ーーー……」
そうして、検証班の攻撃によって兎黙の竜呪はトドメを刺された。
戦闘自体は恐怖によってマトモに身動きが取れなくなっている上に、数の暴力が行われたため、一方的なもので終わってしまった。
で、私は戦闘終了とともに再度周囲を警戒。
だが、これでも他の兎黙の竜呪たちには動くつもりがないらしい。
攻撃されるか、詠唱キーを発しない限りは、ノンアクティブを持続させると言う事だろうか。
「それにしてもタルって首が飛ぶ事自体は大丈夫なんだな……」
「まあ、そういう呪い持ちだしな。腕とか平然とくっつけるし」
なお、私の刎ねられた頭は既に回収して、元通りにくっつけてある。
減ったHPについても直に回復する事だろう。
「おーっす。来たぞー。と、これでもデバフが来るのか」
「会話は最低限に。と言う事ね」
「あ、詠唱キーは止めた方がいいわよ。襲われるから。詳しくは掲示板でね」
「分かりました。気を付けます」
「一部の呪術使いは死滅しそうだなぁ。此処」
と、ザリアたちとスクナたちがやって来た。
声を上げた事で早速デバフがかかっているが、まあ、ちょっと話した程度なら、少し待っていれば直ぐに治るので問題はない。
そしてザリアたちは掲示板を確認し……ブラクロが笑った?
「ちょっと試してみるわ。ミスったら、いつも通り笑ってくれ」
「ブラクロ?」
ブラクロは両手に持った武器を構えると、私たちから少しだけ距離を取る。
一体何をする気だろうか?
そんな事を思いつつ私たちはブラクロを見守り、当人は息を吸い込む。
「まさか……」
「アオ……」
私がブラクロがしようとしている事に思い至った瞬間。
ブラクロは自分の持つ呪術を発動させるべく、遠吠えをしようとした。
すると当然のように近くの草むらから兎黙の竜呪が顔を出し、ブラクロに向かって跳び、その首を断つように腕から刃を伸ばして……
「はい知ってたぁ!!」
「ー!?」
その刃がブラクロの首に触れるよりも早く、跳んだ兎黙の竜呪はブラクロによって蹴り上げられ、宙に浮かんだ。
「「「!?」」」
「ああ、その手があったか」
「なるほど」
「あ、効率が良さそう」
うん、まあ、何をしたのかは分かる。
兎黙の竜呪が詠唱キーに反応して、詠唱キーを発したプレイヤーの首を狩りに来ると言うのだから、それへカウンターを仕掛けると言うのは、考えて当然の戦術だ。
そして、この考え方自体は応用も効きやすいので、非常に有用な物とも言える。
だがしかしだ。
「はははっ! 防御関係にしかデバフが来ないなら、攻撃を受けなければいいってなぁ!!」
「!?」
「違いないな。私も試すとしよう。あのアルビノ相手ならともかく、こいつら相手なら問題なく出来そうだ」
「あ、それじゃあ僕もやってみます」
「んー、受け止める部分を工夫すれば私も出来るかな?」
ブラクロがしたように単独で準備なく試み、迎撃を成功させる。
スクナやマナブがしているように、飛び込んできた兎黙の竜呪へ先に攻撃を当てて切り捨てる。
と言うのは、誰でも出来る行為では決してないだろう。
クカタチがしているような、柔らかく粘性のある体で受け止めて捕えるならまだ……いや、ただ捕えるだけじゃなくて、受け止める瞬間に相手の刃を絡め取り、捻り上げ、自分の安全を確保しつつ、兎黙の竜呪の脚力でも逃げられないようにしているのか、うん、四人とも一般人には真似できないと言うか、真似してはいけない奴だった。
『部分的には応用可能なのが酷い。具体的には、盾役の陰で囮が詠唱キーを言えば、相手の動きを制限しつつ呪術の発動と釣り出しが出来る』
『これだから最前線組でもPSがヤバい連中は……』
『実際有効だから、正しい戦術ではあるんだよな、これ』
『ブラクロが有用な戦術を発見したせいなのか、どうしてか不安感がぬぐえない自分が居るんですが……』
まあ、掲示板でも言われている通り、部分的には真似できる部分もあるし、今はブラクロたちが釣り出した兎黙の竜呪たちを周囲の他のプレイヤーたちが落としていけばいいか。
どうにも一般の兎黙の竜呪たちは攻撃能力とステルス能力に振られている分だけ耐久能力は低めのようだし、とにかく今は素材集めに集中するとしよう。
「ボオオォォナスステエエェェジ! 此処は天ゴキュ!?」
と、そんな事を思いつつ作業に邁進していたら、ひたすらに詠唱キーを中途半端に発しつつ、兎黙の竜呪の迎撃をし続けていたブラクロの動きが急に鈍った。
そして、その隙を見逃す兎黙の竜呪たちではなく、ブラクロは股間を前から突き刺され、左胸を背中側から刺され、脳天から串刺しを喰らい、四肢を切り飛ばされ、最後に首を刎ねられるという中々に壮絶な死に様を私たちに晒した。
「あ」
「ナームー」
「デスヨネー」
「兄ぇ……」
「調子に乗るなと言う事ですね。分かります」
「うんまあ、こうなる予感自体はあった」
「俺らの期待を裏切らない男ブラクロ。そこに痺れない憧れない」
「おっと、なら私たちも気を付けないと」
「累積音量で攻撃や回避面へのデバフもかかる。と言うところでしょうか」
「それはまた検証が面倒そうなやつだな」
「ありがとうブラクロ。君の大して尊くない犠牲のおかげで、攻略上重要な情報が明らかになった」
「なんにせよ切りがいいから、今居る奴らを倒したら一度撤退ね」
「「「異議なし」」」
で、ブラクロを始末した兎黙の竜呪たちは私たちにも襲い掛かってきたが……まあ、色々と有用な情報を得た後の戦闘で、こちらの数も揃っているので、特に問題なく終わり、私たちは沈黙の眼宮を後にするのだった。




