696:タルウィセーレ・3-5
唐突ですが本日のみ二話更新となります。
こちらは一話目です。
「さて、準備はいいわね」
「……。問題ない。選ばれるかは不明だが」
「そこは考慮してくれることを信じましょう。タル様、レライエ様」
「流石に大丈夫だと思うでチュよ」
話し合いと準備を進めていれば、2時間などあっという間だった。
と言う訳で、各種デスペナが解除され、動作キーの設定などの試練の準備を終え、呪術『沈黙の邪眼・3』の刃を再作成した私は、その刃の切っ先を自分に向ける。
「では、始めましょうか」
「……。分かった」
そして、私の鎖骨の間にある目に刃を突き刺し、私とレライエは試練の場に誘われる。
「二度目だからな。早速始めるとしよう」
「「……」」
いつもの闘技場に移動した私たちに『悪創の偽神呪』は直ぐに声を掛け、呪詛の塊から兎ドラゴンを作り出す。
それを見た私たちは無言で戦闘の準備を始める。
「ーーー」
兎ドラゴンが曇った赤い目を私たちの方に向け、殺意を放つ。
戦闘開始だ。
「「「……」」」
だが、私も、レライエも、兎ドラゴンも直ぐには動き出さない。
私とレライエは音を出してはいけないと言う制限があるため、兎ドラゴンは私たちの位置をまだ正確には把握しておらず、こちらが音を出すのを待っているからだ。
「……」
レライエが構え終わった。
弓に矢をつがえ、限界まで引き絞った上に、何かしらの呪術も用いている。
私も呪詛の槍を作り出したし、他の準備も終えた。
では、作戦通りいこう。
「……」
レライエの弓から大きな風切り音と共に矢が放たれる。
その音は私の耳に届き、兎ドラゴンの耳にも届く。
レライエの矢は音よりは遅く、兎ドラゴンの反応速度なら、矢が放たれた音を聞いてから矢を避けてレライエの首を刎ねる事も可能だろう。
「……」
「ー!?」
だから、レライエの矢の音が届くよりも一瞬早く、目一つ分の『気絶の邪眼・3』を右手で動作キーを引く事によって兎ドラゴンに撃ち込み、一瞬の気絶によって動きを強制停止。
「ーーーーー!?」
そして、私たちの目論見通り、特徴的な電撃のエフェクトと共に動きが止まった兎ドラゴンにレライエの矢が直撃、頭を貫く。
だが、それで倒せたとは思っていない。
だから畳みかける。
「「……」」
「!?」
レライエの矢を受けて反撃に出ようとした兎ドラゴンに左手で動作キーを引いた目一つ分の『気絶の邪眼・3』が入って動きを止める。
呪詛の槍を射出。
右手で動作キーを引いて、行動停止状態をさらに延長。
続けて左手でドゴストの側面を叩き、これを動作キーとした射出方法1番で『竜息の呪い』を発動。
轟音と共にドゴストから兎ドラゴンに向けて検証班謹製の竜呪素材で作られた槍のような矢が放たれる。
そして、左手でもう一度『気絶の邪眼・3』を発動して、兎ドラゴンの動きをまだ止める。
ここだ。
「ysion『沈黙の邪眼・2』!」
「ー!?」
ドゴストから放たれる矢が届くよりも早く、呪詛の槍が兎ドラゴンに重なったタイミングで各種呪法を乗せた目8つ分の『沈黙の邪眼・2』が兎ドラゴンに突き刺さり、沈黙の状態異常を与える。
新たな音の発生に兎ドラゴンは私の方に向かおうとする。
だがそれよりも早くドゴストから放たれた矢が突き刺さり、素早く矢をつがえていたレライエの第二矢が突き刺さり、右手で動作キーを引く事で発動した五度目の『気絶の邪眼・3』が兎ドラゴンの足を止め、意識を飛ばし、その僅かな時間に私は翅を使って静かに移動し、レライエもすり足で静かに移動して、位置をずらす。
「ーーーーー!!」
「!?」
「……」
そうして三度の大きな攻撃、沈黙の状態異常、度重なる行動阻害から解放された兎ドラゴンが、体に三本の巨大な矢が突き刺さったまま動き出す。
両腕から刃を出現させ、周囲を一度切り裂き、矢の邪魔な部分を切り裂くと、橙色の煙幕を放出しようとする。
が、煙幕は出現しない。
どうやら検証班が気が付いた通り、あれが兎ドラゴンのブレスであったらしく、沈黙の状態異常によって防げるようだ。
だが兎ドラゴンは煙幕を出せないことなど些末事だと言わんばかりに跳躍。
一度目の跳躍はあらぬ方向へと勢いよく跳んでいく。
二度目の跳躍は先程までレライエが居た場所を通過、あの場に留まっていれば首があったであろう場所ではしっかり刃も振られていた。
三度目の跳躍では私が居た場所を通過、しかも移動していなかったなら、私の全身がみじん切りにされそうな刃の振るい方をしながらだ。
「……」
実に……実に恐ろしい。
この兎ドラゴンはギミックがあるから強いのではない。
ギミックがないと手が付けられない程に強いから、ギミックが付けられているタイプの敵だ。
今の三度の跳躍は正にそう言う動きだった。
なにせ、三度の跳躍にかかった時間は、長く見積もっても4秒あるかないか程度であり、一度の跳躍で100メートル以上は確実に跳んでいて、こちらの位置は音が鳴った場所については極めて正確に把握していたのだから。
うん、トドメを刺すまでは、一瞬の油断も許されない。
私はそれを改めて理解した。
理解した上で、次の攻撃の為の準備を始める。
レライエも最後まで油断できないのを理解したのだろう。
少しだけ身を強張らせつつ、次の矢をつがえ始めている。
「ーーー」
対する兎ドラゴンは……両手から刃を伸ばし、縮めると言う動作を一度した後、私たちが居る方へとゆっくり振り返る。
その目は……閉じられている。
そう言えば何故兎ドラゴンは目を開けていたのだろうか?
あの曇り気味の赤目が光を映していないのは、初見でも気が付いていたが、検証班が動画を精査する事によって確定している。
なのに目を開けていたのは……
「!!」
「「!?」」
私の思考が吹っ飛んだ。
兎ドラゴンが閉じていた目を開くと同時に、両手の刃を伸ばし、全身に濃密な呪詛を纏い、最初の威圧が可愛く見えるような威圧が呪詛の奔流と共に放たれる。
攻撃の意図はない。
あくまでも威嚇だ。
こちらの姿は見えていないし、位置も分かっていない。
だが思わず息を呑みそうになり、歯の根が合わなくなりそうになり、手足が震えそうになって、冷や汗が流れ落ちそうになって、心臓が高鳴り出す。
そして、その全てがこちらの位置を相手に教える音源になるのだと気付いた時、私は呼吸を止め、心臓の高鳴りを呪詛操作によって無理やり抑え込んでいた。
『遍在する内臓』が無ければ、死にかねない振る舞いだが、とにかく音は抑えた。
「……」
呼吸を整える事も許されない。
今の兎ドラゴンの感知範囲で大きく息を吐き出す行為は自殺行為に他ならない。
呼吸を制御し、冷静さを以って、私は勇気ある沈黙を体現しつつ、次の攻撃の為の準備を進める。
レライエも……装備が静音性に優れる暗梟の竜呪製であったこともあり、どうにか耐えきったらしい。
弓に矢をつがえた状態で、留まっている。
「ーーー……」
そんな私たちの事を知ってか知らずか、兎ドラゴンは何時でも刃を振れる体勢を維持しつつ、両足と尾に力を蓄え漲らせている。
私はその姿を見て、反射的に全身の力を抜き、その場に倒れ込んだ。
レライエも殆ど反射のような速さで横倒しになって、横に転がり始める。
「ーーー!」
直後、倒れた私の眼前を兎ドラゴンの刃が切り裂いていく。
兎ドラゴンの刃は長さ10メートル以上に伸長しており、私とレライエの首があったであろう高さを地面と水平に駆け抜けて行っていた。
「ーーー……」
そして刃を振るい終わった兎ドラゴンは刃を収納する事は出来ても、着地はままならず、ボールのように何度か跳ねてから、姿勢を正した。
「……」
どうやら此処から先は攻撃の準備すら安易にはさせてくれないらしい。
私は音を立てないように注意しつつ、ゆっくりと立ち上がった。
10/16誤字訂正




