691:ベインアファト-6
「はい、解体完了」
「サクサクだったでチュねー」
「まあ、竜呪と比べたらね」
開黙の兎呪と誘閉の狼呪の解体は特に問題なく終わった。
まあ、ここ最近、私が解体した物と言えばだいたい竜呪の死体で、それに比べたら出てくる場所や能力こそ特別だが、構造や強度的には普通のカースでしかないこの二体の解体が簡単に感じるのは当然のことと言えるが。
「続けて鑑定っと」
強いて問題点を挙げるなら、数が多かった点だろうか?
『兎狼が徒に労する草原』の脱出方法を探るために殲滅をしたのもあって、どちらのカースの死体も複数個あったのだ。
おかげで、どの素材も無駄遣いしなければ、だいたい何でも作れそうな量はある。
尤も、鑑定した結果として、使い道がありそうなものは限られていたが。
△△△△△
開黙の兎呪の前歯
レベル:36
耐久度:100/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:16
開黙の兎呪が持つ鋭利な前歯。
喉を噛み切るのに適した形状であると同時に、沈黙の呪いを秘めている。
この歯で喉を切られれば、断末魔の声を上げる事も叶わないだろう。
与ダメージ時:沈黙(30)、攻撃した部位が発声に関わる部位であった場合、与える沈黙のスタック値は3倍になる。
▽▽▽▽▽
「開黙の兎呪がずっと喉狙いだった理由はこれでチュか」
「これでしょうねぇ」
使い道は考えるまでもなく『沈黙の邪眼・2』の強化。
上手くいけば部位特効のような物も付けられるだろうし、喉狙いとアレなら相性も悪くないだろう。
なお、他の素材も沈黙に対する適正は攻守ともに高そうだった。
空間を開いていた部位については不明。
順当に行けば前歯か目だと思うのだが、どちらも違ったのだ。
△△△△△
誘閉の狼呪の誘引袋
レベル:38
耐久度:100/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:16
誘閉の狼呪と言う狼型カースの内臓。
嗅いだものの正気を奪い取り、己の下に誘う呪いを秘めた液体が入っている。
ある種のフェロモンとも言える。
注意:内容物の臭いを嗅ぐと、魅了(周囲の呪詛濃度)を受けます。
▽▽▽▽▽
△△△△△
誘閉の狼呪の骨
レベル:38
耐久度:100/100
干渉力:135
浸食率:100/100
異形度:16
誘閉の狼呪と言う狼型カースの骨。
何十時間でも獲物を追いかけ続ける体を支えられるだけの強度を持つ。
その髄は捕え喰らった獲物の呪いを利用し尽くすまで逃さない。
▽▽▽▽▽
「こっちは予定通りとも言えるわね」
「でチュね」
こちらの使い道は『魅了の邪眼・1』の強化だ。
誘引袋を主体にして、他の素材……肉や骨を利用すれば、問題なく強化できるだろう。
なお、魅了効果が特に強いのが誘引袋で、何かを閉ざす能力を有している部位が骨だったが、骨の能力が空間を閉ざす力に関わっているかと言われれば、少し怪しい気もする。
「んー、空間を開く閉ざすは、能力を行使するのが『兎狼が徒に労する草原』と言う特殊な場である事も条件としてあるのかもしれないわね。あるいは……そもそも呪いの主体が違うのかも」
「よく分からない話になってきたでチュねぇ」
「分かり易く言うなら、『兎狼が徒に労する草原』と言う場所そのものが特殊なカースであり、兎も狼もその一部でしかなかったかもしれないと言う事よ。呪限無の中層で一個体ではなく一つの世界、おまけに安定性を無視するともなれば、だいたい何でもありだと思うしね」
「でチュかー」
まあ、空間の自由な開閉は瞬間転移能力に繋がるだろうし、『理法揺凝の呪海』を利用しない転移が安全に行えるものではないのは、第四回イベントで私が作った転移の指輪呪の能力が証明している。
そう考えて行けば、開黙の兎呪と誘閉の狼呪では転移能力を得るためには格が足りないとも言える。
なので、この二種類自体にはその為の力が備わっていないのはそこまで不思議ではないだろう。
「ま、この話はこれぐらいにしておいて、今後の為に必要な素材を集めに行きましょう」
「分かったでチュ」
話は変わって。
私たちは『沈黙の邪眼・2』と『魅了の邪眼・1』を強化するために必要な他の素材を回収しに行く。
と言っても『沈黙の邪眼・2』の強化に後必要なのは喉枯れの縛蔓呪の葉程度なので、こちらは問題ない。
『魅了の邪眼・1』の強化についても、偶像ライムや各種スパイスについては簡単に回収出来るものなので問題はない。
問題はだ。
「……」
「あ、圧が凄まじいでチュ……」
火酒果香の葡萄呪の果実と千支万香の灌木呪の枝葉である。
この二つの素材は『魅了の邪眼・1』の強化に確実に使える素材であり、是非とも回収しておきたい素材である。
だが、今現在私たちの前に居る二体のカースからは、凄まじい圧を感じる事から分かるように、回収には相応の交渉が必要になる。
「珍しいカース二体の肉と骨よ。どう?」
「だ、大丈夫なんでチュか……」
私は開黙の兎呪と誘閉の狼呪の肉と骨を二体のカースが伸ばす枝に乗せる。
枝は直ぐに引き戻され、代わりに目的のアイテムが一つずつ私の手に乗せられる。
どうやら無事に交渉成立したらしい。
「ふぅ、それじゃあ戻りましょうか」
「で、でチュねー」
私は内心で胸を撫で下ろしつつ、その場を後にした。
10/11誤字訂正
10/12誤字訂正