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『Curse Nightmare Party』-邪眼妖精が征くVRMMO  作者: 栗木下
10章:『虹霓鏡宮の呪界』
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687:ベインアファト-2

「まずは鑑定っと……」

 私は毛並みに桃色混じりの狼たちから距離を取りつつ、『鑑定のルーペ』を向ける。



△△△△△

誘閉の狼呪 レベル38

HP:52,812/52,812

有効:毒

耐性:魅了、恐怖、沈黙

▽▽▽▽▽



「こう、何と言うか、普通ねぇ……」

「見えるステータス的にはそうでチュねぇ……」

 桃色狼の正式名称は誘閉の狼呪。

 ステータス的には特筆すべき点は見られない。

 時折だが、口から桃色の息を漏れ出ているのと、名称に誘うと言う文字が入っている事、魅了の耐性を持つ事を考えると、魅了の状態異常を使える可能性は考えておいてもよさそうか。

 で、彼らは私の視界に入る限りでは十数匹存在し、丈の短い草原になっている範囲を横一列になって駆けている。

 そして彼らが駆けた後では草の丈が長くなっている。

 『兎狼が徒に労する草原』の鑑定結果を鑑みるならば、アレが後ろを進む狼であり、世界を閉ざす狼でもあるはずで、そうなるとやはり丈の長い草の部分には世界がない……言い方を変えれば、即死エリアになっている可能性が高そうだ。


「でもアレに追いつかれたら終わりっぽいのよね」

「あれ? 攻撃しないんでチュか?」

「しないわ。兎の方も確認しないと、今回に限っては危ない気がするのよ」

 私たちは更に誘閉の狼呪から離れていく。

 そうしているとやがて、横一列に丈の長い草が消えて、丈の短い草に変わっていく場所が見え始める。

 そこに居たのはオレンジ色の毛が混じった兎であり、長い耳をこちらに向けているので、こちらに気づいては居るのだろうが、それ以上に目の前の草を齧るのに集中しているらしく、恐ろしい速さで草が刈られ……世界が切り開かれていく。


「こっちも鑑定っと」

 では鑑定。



△△△△△

開黙の兎呪 レベル36

HP:43,335/43,335

有効:魅了

耐性:沈黙、恐怖、干渉力低下、暗闇

▽▽▽▽



「開黙の兎呪ねぇ……」

「こっちもステータス的には普通でチュね」

 開黙……世界を切り拓く点から、開く、の字が使われるのは分かる。

 問題は黙るの方か。

 さっきから確かに物音ひとつ立たずに黙々と草を齧り続けているが、沈黙の状態異常の警戒もしておくべきだろうか?


「……」

「バウバウッ!」

「ん?」

「追い詰められたようでチュねぇ」

 と、ここで私の視界の端の方で奇妙なものが見えた。

 どうやら周囲を丈の長い草で囲まれてしまった、丈の短い草原があるようだ。

 私の微妙に高い視点のおかげで、そこで何が起きているかが見える。

 で、何が起きているかと言えば……。


「ガアアァァッ……」

「……」

 誘閉の狼呪が桃色のブレスを開黙の兎呪に浴びせかける。

 すると開黙の兎呪はフラフラと、明らかに正気ではない動きで誘閉の狼呪に近づいていく。

 そして、追い詰めたからにはと、誘閉の狼呪は開黙の兎呪に齧り付き、食い殺した。

 ああ、だがしかしだ。


「!? ーーーーー!!」

「実に徒労ね」

「いや、徒労どころか、ただの詰みでチュよね。これ」

 世界を切り拓く開黙の兎呪を食べてしまった誘閉の狼呪の周囲は全て閉ざされている。

 もうどこにも行けない。

 それどころか誘閉の狼呪は自身の力に追い詰められ、少しずつ世界が閉ざされ、逃げる場所が失われて行き……あの狼が兎を捕らえるのに要した努力は全て徒労に終わった。

 自身の力で幽閉され、あそこから逃げ出す手段は私であっても皆目見当がつかない。

 やがて誘閉の狼呪が居た場所の草も伸びて、その姿は完全に見えなくなった。


「……」

「何ニヤついているんでチュか?」

「いえ、我ながらそういう事かー、と内心で思っただけ」

 まあ、口には出さない。

 途中部分の気づいたところは完全にダジャレの類であるし、今考えるべきは別の事なのだから。


「さて、面倒なことになったわね。あの狼の末路は私たちの末路である可能性も否定できないわ」

「まあ、立ち回り次第ではあり得るでチュね」

「立ち回りもそうだけど、脱出までの道筋も見えないのよね。今回」

「そう言えばそうでチュねぇ」

 では真面目に考えよう。

 兎が全滅すればやがて世界は閉ざされ、消滅する事になり、それに巻き込まれれば私たちも死に戻りだろう。

 狼が全滅すれば世界は広がり続けるだろうが、此処は泡沫の世界、やがては消滅する世界であり、結末は変わらない……と言うか、世界の負荷的には兎だけ増えたら、それだけで消滅が早まる気がする。

 では、今の状態を保てばいいのか?

 これは絶対に違う。

 先述の通り、此処は泡沫の世界なのだから、現状維持はそれだけで詰みだ。


「どっちの群れの中にも特別な個体は見えないでチュね」

「それも問題なのよねぇ……」

 ではギミックか?

 この場にあるのは私たち以外だと草原と兎と狼だけで、何かしらの仕掛けを担えるようなものは見当たらない。

 ザリチュの言う通り、開黙の兎呪たちの中にも、誘閉の狼呪たちの中にも、特別な役割を担ってそうな個体……要するにボスのようなものは見られない。

 こうなってくると……正解は殲滅か?

 それも世界を広げ過ぎず、閉ざし過ぎない状態を保ちつつだ。


「うーん、少しばかり試してみましょうか。『気絶の邪眼(タルウィスタン)・3(アトラクト)』」

「ガウッ!?」

 いずれにせよ確かめる他ない。

 そう判断した私は誘閉の狼呪の中から一番近くに居た個体に向けて伏呪付きの『気絶の邪眼・3』を撃ち込み、引き寄せた。

10/07誤字訂正

10/08誤字訂正

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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、誘閉と開黙ってそういう……。 >誘閉の狼呪 何というか、「お前狼としてそれでいいの?」感が拭えないですね……w 見た目からして邪眼の強化素材になりそうですし、何とか持ち帰りたいとこ…
[一言] この世界の脱出に兎と狼を鑑定しても分からない、なら鑑定するとしたら、構成要素として存在している草ぐらいなんだが、生えてる状態で鑑定できるか?
[一言] そんな近くの兎にわざわざ魅了ブレスを吐くのか…… なんかこう「狼なのに……」感がすごい
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