683:アップグレード-3
「んー……竜骨塔と収奪の苔竜呪の復活まで、早くて二日遅ければ六日と言う感じかしら」
「随分と幅が広いでチュねぇ……もうちょっと正確には分からないんでチュか?」
「無理。恐怖の眼宮の使用状況の影響を受けているようだから、これ以上正確には分からないわ」
新しい呪術の試運転は、収奪の苔竜呪が居た場所がどうなっているかの確認も兼ねて、恐怖の眼宮でやる事にした。
と言う訳でまずは収奪の苔竜呪の確認をしたのだが、どうやら復活にはもう少し時間がかかるようだ。
まあ、収奪の苔竜呪の戦闘能力と、得られる素材のスペックを考えたら、復活まで数日かかるのは妥当なところだろう。
「ま、いいわ。それじゃあ一つずつ確認していきましょう」
「でチュね」
では本題。
まずはジタツニが覚えた『砂漠の呪い』と『抗体の呪い』だ。
詳細はこんな感じ。
△△△△△
『砂漠の呪い』
レベル:35
干渉力:135
CT:30s-0.5s
トリガー:[発動キー]
効果:発動地点から、半径1,000m以内の地面を、厚さ10mmの細かく、滑りやすい砂で覆う。効果時間は一時間。
跪け、大地を踏まねば歩めぬ者たちよ。
汝らが前に聳えるは、大地を纏ってなお大地と交わらぬものぞ。
注意:使用する度に最大満腹度の20%分だけ満腹度が減少する。
注意:発動すると、1時間、発動地点から100m以上離れる事が出来なくなる。
注意:発動中に移動制限範囲外へ何かしらの方法で出た場合、効果時間が終わるまで、一切の身動きが取れなくなる。
▽▽▽▽▽
△△△△△
『抗体の呪い』
レベル:35
干渉力:135
CT:1s-5s
トリガー:[詠唱キー]
効果:30分間、術者の過去1時間以内に発生した状態異常に対する抵抗性を(術者のレベル+異形度)上昇させる。
大地は記憶して、備えている。
故に大地を纏うものが、短き間に二度、同じ呪いを受けるのを許すつもりはない。
注意:1時間以内に状態異常を受けていなくても発動し、コストは消費されます。
注意:使用する度に使用者のHPを100消費する。
注意:効果時間中に再度使用した場合、前の『抗体の呪い』の効果は破棄されます。
▽▽▽▽▽
「んー……『砂漠の呪い』はネツミテの『太陽の呪い』の地形版と言う感じね」
「でチュね。『抗体の呪い』は一度受けた状態異常に罹りづらくなる感じでチュか」
「上げるのが抵抗性だから、検証は難しいわね」
『抗体の呪い』の検証は別の機会の方がいいかもしれない。
効果内容的に検証が難しいし、本気で有効に使う場合には、私の耐性を抜いた上で、軽微な状態異常を受ける薬の類を準備した方が効果的なはずだ。
と言う訳で、この場ではまず『砂漠の呪い』を使ってみる。
「『砂漠の呪い』」
「おおっ、ざりちゅ的にはいい感じでチュね」
地面に手を付け、呪術の名前を言う。
すると触れた場所を中心に一気に砂塵が広がっていき、周囲一帯の地表が細かい砂で覆われた。
効果範囲に入っていた恐羊の竜呪は驚きつつも、原因である私に向かって移動を始める。
「んー、折角だから試しましょうか。『太陽の呪い』」
「でチュねー」
続けて『太陽の呪い』を発動。
人工の太陽が照り付け、陰鬱な気配の漂う墓場だった周囲一帯が、真昼の砂漠としか言いようがないよな環境に変貌する。
「メギャアッ!?」
「あ、こうなるのね」
「地味にシナジーがあるみたいでチュねぇ」
この環境は恐羊の竜呪にとってツラいものなのだろう、苦痛を訴えるような声を上げている。
そして、ツラいからこそ、私への攻撃を諦め、逃げ出そうとしているのだが、『砂漠の呪い』によって張られた砂が、『太陽の呪い』の持つ低質量物体の除外によって外へ外へと押し出され、動き続けているためか、上手く動けないようだ。
ちなみに押し出されて失われた砂は『砂漠の呪い』の効果によって補給されているため、砂が尽きる事はなく、二つの環境変化の呪いの内外を分ける境界では小さな砂丘のような物が出来つつある。
「ザリチュ。この砂で渇砂操作術は使える?」
「使えるでチュよ。準備完了でチュ」
「では、『噴毒の華塔呪』」
『砂漠の呪い』にはザリチュの使う渇砂操作術とのシナジーもあるらしい。
と言う訳で、『噴毒の華塔呪』を発動して、噴毒の華塔呪を私たちの目の前に出現させる。
出現した噴毒の華塔呪は目に見えるスピードで成長しているので、どうやら本当に相性がいいようだ。
「「「メエエェェゲニャアアァァ!!」」」
と、ここで恐羊の竜呪が悪あがきのように咆哮。
私に恐怖の状態異常が入った。
「一応『抗体の呪い』」
「これで恐怖の状態異常に対する抵抗性が高くなったわけでチュね」
うん、折角だから使うだけ使っておこう。
検証できるかは知らない。
「そうなるわね。ただ、見た目とかが変化するわけじゃないから、効果時間切れには注意が必要かも」
「抵抗したい状態異常を何時受けたのかも覚えておく必要があるでチュね」
「ああ、前に受けたのが一時間と一分前でした。だったら笑うしかない物ね」
使用した感想としては、エフェクトはほぼ無しで、視界の隅に『抗体の呪い』と言うバフの文字があるだけなので、うっかりしていると使い忘れや、抗体の付け損ねもありそうだ。
「じゃあ次。ドゴストね」
「でチュね」
では次はドゴストが持つ呪術について。
詳細はこんな感じだ。
△△△△△
『竜息の呪い』
レベル:40
干渉力:150
CT:1s-不定
トリガー:[詠唱キー]「動作キー」
効果:『竜憑きの袋呪』ドゴスト内に存在するアイテムを選択して射出。射出方法は三種類の中から選択可能。射出方法によって、射出物の状態と使用後CTが変化する。
射出方法1-『竜憑きの袋呪』ドゴストからの射出。
『竜憑きの袋呪』ドゴストの口から、選択物を高速かつ直線的に射出する。
射出物は呪詛によって保護されており、射出後に最初に接触した物体との衝突で壊れる事はない。
使用後CTは射出物の異形度×1秒。
射出方法2-『陽憑きの錫杖呪』ネツミテからの射出。
『陽憑きの錫杖呪』ネツミテの錫杖形態時に使用可能、錫杖の先端から、錫杖の動きと速さに応じて選択物を射出する。
使用後CTは射出物の異形度×0.1秒。
射出方法3-術者の口前からの射出。
術者の口前に選択物を出現させ、選択物を術者の操る呪詛に応じる形で、高速かつ拡散しつつ射出する。
射出物は出現時に能力を保ったまま粉砕されており、出現後に術者が操作する呪詛に触れる事で、能力を呪詛に移す事も可能。
使用後CTは射出物の異形度×5秒。
撃て、撃て! 撃て!! 我らが敵を! 我らに仇為すものを!
我等の口から放たれる竜の威によって討ち果たすのだ!!
注意:『竜憑きの袋呪』ドゴスト内にアイテムが存在しない場合には使用できません。
注意:使用する度に使用者のHPを射出物の異形度と同じだけ消費する。
注意:「動作キー」での射出には、事前に射出方法と射出物の設定をしておく必要があります。
注意:射出方法2は『陽憑きの錫杖呪』ネツミテに所有者と認められているものにしか使えません。
▽▽▽▽▽
△△△△△
『竜活の呪い』
レベル:術者のレベルと同じ
干渉力:100
CT:10s-10s
トリガー:[発動キー]
効果:『竜憑きの袋呪』ドゴスト内に存在するアイテムを選択して発動。選択したアイテムの(レベル+異形度+干渉力)%だけ、最大HP、最大満腹度、干渉力を上昇させる。
この際、最大HPと最大満腹度が上昇した分だけ、HPと満腹度を回復する。
効果は術者のレベル×30秒経過するか、HPが0になる事で終了する。
効果中は術者の見た目と異形度が変化する可能性がある。
負けぬ、負けぬ! 負けぬ!! 我らが敵に! 我らに仇為すものに!
我等は決して敗北せぬ! 竜の全力と言うものを今この場に示そうぞ!!
注意:『竜憑きの袋呪』ドゴスト内にアイテムが存在しない場合には使用できません。
注意:発動時に選択したアイテムは消滅します。
注意:効果中に術者が戦闘不能になった場合、恒常的にレベルが1低下し、ステータスの再計算が行われる。
注意:効果終了後に術者の耐性を無視して、干渉力低下(術者のレベル)、恐怖(術者のレベル×3)、呪詛操作不可(術者のレベル×2)を付与する。この効果によって付与された状態異常は付与から1時間スタック値が減少しない。
注意:一度使用するとリアル時間で8時間経過するまで『竜活の呪い』は再使用できません。
▽▽▽▽▽
「長い……」
「ジタツニの呪術が如何にシンプルで分かり易い物だったのかが、長さだけで分かるでチュねぇ……」
うん、長い。
ただ、簡単にまとめてしまうならば、『竜息の呪い』がドゴスト、ネツミテ、私のいずれかから選択物を飛ばす呪術。
『竜活の呪い』が使ったアイテムの性能に応じる形で私自身を大きく強化する呪術のようだが……多大なデメリットを伴うようだ。
「とりあえず、そこの恐羊の竜呪相手に『竜息の呪い』を試してみましょうか」
「でチュね。『竜活の呪い』についてはどうするでチュ?」
「そっちはセーフティーエリアに戻ってからやってみましょう。問題児の臭いがするわ」
「分かったでチュ」
「「「メエエェェゲニャアアァァッ!」」」
あ、恐羊の竜呪がまた咆哮を上げた。
上げたが……抵抗に成功したらしく、欠片もかかっていない。
なるほど、これなら『抗体の呪い』には意味がありそうだ。
では、『竜息の呪い』から試してみるとしよう。
ドゴストの中には色々と入れて来てあるから、それを使えばいい。