681:アップグレード-1
「ログインっと」
「来たでチュか」
『CNP』にログインした。
と言う訳で、まずはいつものや漬け込んだ肉の確認などをしておく。
まあ、どれも問題はなしだ。
「今日は何をするでチュ?」
「まずはジタツニの強化からね」
私は『ダマーヴァンド』の毒液を用意すると、そこへいつもの香草、私の血、それから収奪の苔竜呪の葉をよく刻んで磨り潰したものを投入して混ぜ合わせる。
これで暫くすれば、混ぜ合わせたものが溶けて液体だけになるだろう。
「ジタツニの強化と言いつつ、ジタツニは脱がないんでチュね」
「強化の前段階でやる事が沢山あるもの」
では次。
収奪の苔竜呪の苔皮、牛陽の竜呪の皮、虎絶の竜呪の毛皮、鼠毒の竜呪の毛皮を細長く切ると、これらを編んで長い一本の縄にする。
そうして出来た縄は平べったいので、丸めて形を整える。
で、形が整ったところで、先ほど作った液体に漬け、よく染み込ませる。
「で、これに脂を塗ってと」
「堅い堅い縄になりそうでチュねぇ……」
皮を編んだ縄を液体から上げると、蘇芳色の縄になっている。
これに暗梟の竜呪の油塊を塗り付け、染み込ませ、形を完全に固定する。
この状態で一度呪怨台に乗せ、竜呪の革紐と言うとにかく頑丈なアイテムとして存在を確立させた。
「さて削るわよ」
「削るって……革紐に使う言葉じゃないでチュよ」
「でもそう言う他ないのよね。これ」
そうして出来た竜呪の革紐を腕ゴーレムを使って均等に削っていき、『蠱毒-活性』を利用する事で削りカスも竜呪の革紐の一部として取り込ませ、糸と言うには少々太いかもしれないが、それでもギリギリ糸の範疇に収まる太さにしていく。
やがて出来上がったのは、素材となったアイテムの性質を受け継いでいる蘇芳色の細い糸である。
「この糸に、恐羊の竜呪の毛皮から取った糸に、収奪の苔竜呪の骨繊維を合わせてっと」
出来上がった糸、恐羊の竜呪の毛皮から取った糸、収奪の苔竜呪の骨繊維を撚って一本の糸にする。
そうして出来上がった糸は最初に着けた毒液に再度漬け、乾燥させ、呪怨台で呪う事によって蘇芳色を基本としつつも虹色の輝きも持つ糸を制作する。
「じゃ、此処からはひたすら縫っていく感じね」
此処から先の作業については私個人が地道にやるしかない。
と言う訳で、鼠毒の竜呪の前歯などで作った針を用意すると、私は久しぶりにジタツニを脱ぐ。
そしてジタツニを脱ぐと、初期装備でもある壊れないボロ布装備が出現……ん?
「純粋なボロ布じゃなくなってる……」
「なんか鱗みたいなものが付いているでチュね……」
胸と股間を隠すためのボロ布装備は出現した。
だが、昔に見たデザインとは異なっており、ボロ布の表面には蜥蜴あるいは竜の鱗のような物が出現しており、下着と言い張るのも難しくない感じになっている。
一言で言えば、微妙に立派になっている。
「……。一応、鑑定しましょうか」
「でチュね」
竜の鱗部分は完全固定になっているらしく、少しも動かない。
なのでちょっと鑑定しづらかったが、それでも鑑定は出来た。
△△△△△
壊れない竜鱗布の上着
レベル:1
耐久度:∞/∞
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
呪人の胸部を隠す布。
隠すものが無くなると何処からともなく現れ、隠すものを手にすると何処かへと消える。
決して壊れないが、攻撃によって生じるはずの損傷は身に付けている者へと伝わっていく。
極めて高度な呪いがかかっている事に間違いはないのだが、誰もこれ以上詳しく知る事は出来ない。
深く気にしすぎない方がいい。
着用者の影響を受けて、竜の鱗が生じたようだ。
▽▽▽▽▽
「『劣竜式呪詛構造体』の影響、でいいのかしらね?」
「それ以外に当てはまるものが無いでチュよ」
下着も鑑定結果はほぼ同様。
どうやら『劣竜式呪詛構造体』を得たことによって、実質的に体の一部でもある壊れないボロ布装備にも変化が生じていたらしい。
とは言え、性能に変化はないので、見た目と動き方に差が生じたぐらいか。
「まあ、問題がある訳じゃないから、これ以上は気にしないでおきましょうか」
「でチュね」
では本題に戻ろう。
作り上げた糸を使って、ジタツニ全体に刺繍を施していく。
「前回は炎を刺繍したんでチュよね」
「ええそうよ。正確には『呪法・方違詠唱』の法則に従って文字を入れた上で、それを隠すように炎を入れたの」
今回も『呪法・方違詠唱』に従って文字の刺繍を全体に施していく。
その上で、文字を隠すように……うん、今回は竜呪の素材らしく、鱗模様にしておこうか。
今のジタツニと被ってしまうが、よりはっきりとした鱗になるのも、それはそれでありだろう。
「で、これを液体に漬けて……上げて……乾燥させて……また漬けて……」
「いつものでチュねぇ……」
刺繍完了。
では最初の液体にジタツニを漬け、染み込ませ、引き上げ、乾燥させ、また漬ける。
これを数度繰り返して、芯まで液体を染み込ませる。
さて後は呪怨台で呪うだけである。
「どう呪うでチュ?」
「そうねぇ……」
私はジタツニを呪怨台に乗せる。
呪詛への干渉はいつも通り。
込める念としては……カース化は止めない、呪術を得る事も止めない、ただ方向性については、状態異常防御に対する能力を高めるような方向で狙う。
そうして出来上がったのは……
「なにこれ?」
「透き通っているでチュねぇ……これ、大丈夫なんでチュか?」
形は変わらずで上半分が包帯服で、下半分が前開きのスカートになったもの。
刺繍は鱗を模したものだが、鱗の下を炎が行き交っている。
色は蘇芳色を主体にしつつ、虹色を帯びたもの。
そして、包帯服部分は天女の羽衣のように半透明のものだった。
うん、ザリチュの言う通り、倫理規定的にセーフなのだろうか?
このままだと胸の見えてはいけない部分が見えてしまう気がするのだが……大丈夫だと信じるしかないか。
「えーと、とりあえず鑑定しましょうか」
「でチュね」
何はともあれ、まずは鑑定である。
△△△△△
『地憑きの羽衣呪』ジタツニ
レベル:装備者のレベルと同じ
耐久度:100/100
干渉力:装備者の干渉力と同じ
浸食率:100/100
異形度:22
様々な素材を組み合わせて作られた、天女の羽衣のようにも見える衣服。
この世ならざる者に通じる気配を漂わせており、正当な所有者以外が着用すれば、恐ろしい呪いに襲われる事だろう。
着用者の習得している邪眼術によって与えられる状態異常を無効化(着用者のレベル)。
着用者の習得している邪眼術によって与えられる状態異常に対して、周囲の呪詛濃度が高い程強力な耐性を有する。
着用者の習得している邪眼術によって与えられる状態異常に対して、周囲の気温が高く、湿度が低いほど強力な抵抗性を有する。
戦闘不能付与に対する高い耐性を有する。
火炎属性攻撃無効化(小)、火炎属性攻撃に対する高い耐性を有する。
呪詛属性攻撃無効化(小)、呪詛属性攻撃に対する高い耐性を有する。
電撃属性攻撃無効化(微小)。
着用者のレベル以下のものから受けるダメージの無効化(小)。
周囲の呪詛を操作し、着用者が生存するのに適した呪詛濃度に近づける効果を持っており、呪詛濃度を最大15まで増減させられる。
周囲の環境から与えられるダメージ無効化(大)、周囲の環境から与えられるダメージに対して極めて高い耐性を有する。
呪術全般に対する抵抗性を有し、抵抗に成功した際には呪術を放った相手に向けて低威力の光球を放つ。
周囲の呪詛濃度に応じて強度が向上する。
周囲の呪詛、エネルギーの一部を吸収する事で耐久度が回復する。
耐久度が0になっても、一定時間経過後に復活する。
身に着けているものの全身にこれらの効果の一部が発揮される。
自己意思こそないが、呪いの塊であるその身は幾つかの呪術を習得しており、装備者がトリガーを引くことで使用が可能。
『砂漠の呪い』『抗体の呪い』
注意:この衣服をタル以外が着用した場合、1分ごとに着用者の最大HPと同値の恐怖、UI消失状態が付与される。
注意:着用中、氷結属性への耐性が低下する(極大)。
注意:着用中、物理攻撃への耐性が低下する(中)。
注意:着用者の異形度が19以下の場合、1分ごとに着用者の習得している邪眼術によって与えられる状態異常が耐性を無視して着用者に付与される。
注意:着用者のレベルが34以下の場合、HP、満腹度、干渉力が徐々に減っていく。
注意:称号『竜狩りの呪人』を持たないものが装備している間、耐性を無視して、1秒ごとに中確率で戦闘不能状態になるかの判定が行われる。
注意:この衣服の周囲の呪詛濃度が19以下の場合、着用者の受けるダメージが増える(極大)。
注意:この衣服を低異形度のものが見ると嫌悪感を抱く(極大)。
▽▽▽▽▽
「長い!」
「長いでチュ!」
私とザリチュの言葉に、一瞬ジタツニがショックを受けたかのように震えた気がした。
いやでも、これほど付与されている効果についての文章が長いと、流石にこれくらいの事は言いたくなる。
えーと、効果をまとめると……ほぼ純粋強化か。
即死攻撃への耐性が付いたり、格下からのダメージを抑えたり、状態異常の抵抗率が周囲の乾燥でも上昇するようになっている。
「所有呪術は……森とウィルスの反対ね」
使える呪術については、この後のドゴストの強化中か強化が終わった後にまとめてやればいいか。
とりあえず身に着けよう。
「あれ? 暴れないんでチュね」
「素直なのはいい事ね」
どうやらネツミテやドゴストと違って反抗的な姿勢を見せる気はないらしい。
身に着け終わっても何も起きない。
ドロシヒもそうだったことを考えると、防御的な能力のカース装備の方が、性格的にも落ち着いているのだろうか?
「で、身に着けたけど……」
「大事な部分については常に色が濃くなっているでチュが、他の部分は半透明でチュねぇ」
なお、身に着けた結果として、遠目には私の上半身は乳房部分にしか布地がないように見えるだろう。
よく見れば、天女の羽衣のように半透明の布が体に巻き付いていたり、宙を漂っているのが見えたりするのだが、遠くからだと光の加減や色が濃くなる瞬間でなければ見えないに違いない。
うん、これは俗に言うところの痴女装備とやらになるのかもしれない。
「まあ、性能は優秀だからいいか」
「いいんでチュかぁ……そうなんでチュかぁ……」
まあ、大事な部分はきちんと隠れているので問題ない。
と言う訳で、私は軽く体を動かして身動きに問題がない事を確かめると、次の作業……ドゴストの強化に移る事にした。