677:スティールモスドラゴン-6
「収奪の苔竜呪の討伐お疲れ様でした!」
「「「お疲れさまでしたー!」」」
「「「乙乙!!」」」
恐怖の眼宮の外に移動した私たちは、そのまま『虹霓鏡宮の呪界』の外にも移動。
死に戻ったプレイヤーと合流すると共に、完全な安全圏に移動したところで、とりあえず牛陽の竜呪の肉による焼肉パーティーを始め、反省会兼慰労会とした。
と言う訳で、程よく焼けた牛陽の竜呪の肉を一口。
うん、呪詛抜きをしている分だけ質が落ちている感覚もあるが、十分に美味い。
「モグモグ。さて、幾つか確認事項があるわね」
「そうですね。タル様」
「うん。確認するべき」
「そうね。確認しましょうか」
「分かったでチュよ」
では、食事をしつつ話も進めるとしよう。
話し合いのメンバーは私、ストラスさん、ライトリ、ザリア、ザリチュの五人である。
「まず回収した素材の解体と鑑定は、反省会がある程度終わってからでいいわよね」
「問題ありません。最初の解体と鑑定はタル様にお願いしたいですし、収奪の苔竜呪との戦闘についての報告をまずは上げないといけませんので」
その一、素材関係については後回しで。
分配自体は現地で既に終わっているし、時限式の罠の類が無い事も確認済みなので、急ぐ案件ではないのだ。
「じゃあ次。トンネルの先についてね。皆は解放条件をどう見る?」
「一番あり得そうなのは、タルの強化に合わせての解放よね。具体的には邪眼術の強化」
「私もザリアと同意見」
「そうですね。アイテムを使用するような場所はありませんでしたし、ヒントもなかった。となれば、関係者であるタル様の強化が進むことによって自然と解放されると見るのが、一番あり得ると思います」
「まあ、そうでチュよね」
その二、トンネルを抜けた先に現れた恐怖の眼宮の第二エリアとでも言うべき場所に入る方法について。
まあ、これについては私もザリアと同意見だ。
細かい理屈はストラスさんが言った通りで、私の邪眼術が強化されれば自然と開くと思う。
「タルさん。タルさんは他のプレイヤーが持ってきた素材で邪眼術を強化するつもりはありますか?」
となると必然的に出て来るのが、ライトリが今出した話だ。
私が強化されれば『虹霓鏡宮の呪界』で行ける場所が増える。
『虹霓鏡宮の呪界』が広がれば、自分たちの強化も促進される。
ならば、私の強化を積極的に手伝う事で、その流れを加速させようと考えるのは、至極当然の話なのだから。
「申し訳ないけれど、最低でも自分の目でどういう相手なのかを確認して、自分の手で獲得はするべきだと思っているわね。でないと……後が怖いわ」
「納得。そういう事なら、『光華団』は情報提供に留める」
まあ、ライトリは私の答えが分かった上で、敢えてこの話題を出しているのだろう。
この時点で既に頷いているし、私にとって理想的な答えも出してくれている。
だが、きちんと理屈も話しておこう。
「ありがとう。ま、理屈としては自分の目できちんと確認して獲得しないと、習得する邪眼術が良くて弱体化。場合によっては習得する際に出てくる相手が手に負えない程に凶悪化して、そもそも習得出来ない状況になるのが考えられるから。周りにどう思われようが、言われようが、此処は変えられないわ」
「分かったわ。そういう話なら、私たちも協力までに留める事にするわ」
「検証班も同様です」
「ありがたい話でチュねぇ」
とまあ、理屈についてはこんな感じだ。
ぶっちゃけ、習得する邪眼術が不本意な形で弱体化する可能性が高い時点で、拒否するのは当然とも言える。
だから、今この場に集まっているようなプレイヤーなら、全員私の判断に理解は示してくれるだろう。
そんなわけで、この話題については此処までにするとしよう。
「では、次の話題。ザリア、クカタチの使った呪術はどんな物だったの? 話せる範囲でお願い」
「分かったわ」
その三、クカタチの使った禁忌呪術について。
これについてはザリアがクカタチ本人から色々と聞いているはずなので、ザリアに話してもらうとしよう。
「アレの名称は『禁忌・一時定義-妖刀盟神探湯』と言うらしいわ」
で、ザリアの説明によればだ。
『禁忌・一時定義-妖刀盟神探湯』はクカタチが刀に変形し、他の誰かに自分を使わせて攻撃する呪術であるらしい。
ユニークな点としては、刀状態のクカタチを持っている誰かの強化具合や、刀の切れ味と言った部分の性能がクカタチとの仲の良さで決まる事が挙げられる。
で、クカタチとマナブの仲の良さは見ての通りであり、マナブ自身が刀の扱いについてスクナたちから習い、手慣れている事もあって、私の視覚でも捉えられないスピードで居合を繰り出し、収奪の苔竜呪たちを一刀両断出来るだけの威力になったようだ。
「事前の詠唱も呼吸も合わせる必要があるようですし、使い手になるプレイヤーの腕も必要ですか……」
「実質クカタチとマナブのペア専用」
「そうね。一応スクナとかザリアでも使えそうだけど、マナブとのペアに比べたらかなり威力が落ちるんじゃないかしら」
「そうなるわね。あの二人、いつの間にかリアルでも親交があるようだし……」
「現在進行形で空気が甘い感じもあるでチュねぇ……」
なお、肝心の当人たちはスクナとの反省会が終わったのか、二人で仲良く肉を食べている。
そして茶化しに行こうとしたブラクロが偶然移動しようとしたマントデアに蹴飛ばされて、焼肉の為の火に突っ込み転げ回っている。
まあ、馬に蹴られたような物か。
マントデアは謝っているが、別に悪くないだろう。
「さて、そろそろ解体行っておきましょうか」
「そうですね。そうしましょうか」
「手伝う」
「私もです」
「じゃあ、色々と準備するでチュよー」
閑話休題。
それではこの慰労会のある意味ではメインディッシュとも言えるものに移るとしよう。
09/27誤字訂正