675:スティールモスドラゴン-4
「~~~~~!!」
「「「ジアジダバァ!!」」」
「また一人吹っ飛んだぞ!」
「くそっ、スケルトンになった奴だけ馬鹿みたいに強い!」
「まあ、ギミック的にも骨にさせないのが正解だったんだろう、なっ!」
繊維だけになると言う形でスケルトン化した収奪の苔竜呪が現れてから、戦局は一気に悪化した。
と言うのも、スケルトン収奪の苔竜呪の恐怖付与の音は、スケルトン化していない個体の咆哮よりも成功率も威力も上であったし、他の攻撃の鋭さや回避能力、防御能力も向上していたからだ。
誰かが言った通り、スケルトン化させないのがギミック的にも正解だったのだろう。
だが、させてしまった以上は仕方がないし、あの状況ならどうせ誰かがスケルトン化させていた。
だから責任追及などと言う馬鹿な真似をしている暇があるなら、ダメージや状態異常のスタック値を増やした方がいい。
「プマ……」
「~~~~~!」
「っう!?」
「タル! 狙われているんだから無理をしない!」
『ヘイトを稼いでいるなんてレベルじゃないでチュねぇ』
と言う訳で、私も攻撃したいのだが、『呪法・方違詠唱』を使おうとするだけで、スケルトン収奪の苔竜呪から針のように鋭く、糸のように細い、けれど触れれば容易く骨まで断ち切ってくるような攻撃が幾つも飛んでくるし、他の収奪の苔竜呪からもナイフのような鋭さを持つシダの葉が山ほど飛んでくるので、回避に専念する他なくなる。
折角立てた噴毒の華塔呪も既に破壊されている。
一応動作キーで発動して、攻撃そのものは出来ているが……稼ぎはそんなに良くないだろう。
どうやら苔玉への攻撃が、それほどまでに気に食わなかったらしい。
「くそっ、あいつら状態異常のせいで連携が取れないはずなのに、揃ってガン守りの態勢に入りやがって!」
「残り骨一つが遠い……!」
「誰か基点指定型の呪術の使い手は居ないの!?」
「さっき恐怖して死にました!」
しかし、私にヘイトが向くからこそ、その間に他のプレイヤーが攻撃をしてくれていた。
それによって本体へのダメージはともかく、竜骨塔の排除は順調に進んでいたようだ。
だが、最後の竜の遺骨は収奪の苔竜呪がお互いの蔓を絡ませ合い、ドーム状にすることで隠されてしまい、排除できなくなってしまった。
収奪の苔竜呪たちにとって、竜骨塔が重要な物だと分かっているからこそ、UI消失状態のせいで連携が取れなくても考える事は変わらないと言う事か。
「タル! 何か手段は!?」
「ザリア、私はヘイトを稼ぎ過ぎて無理よ!」
「くそっ、俺の攻撃でも無理か」
「……。矢一本分の隙間さえあれば通してみせるが……」
この状況を脱する方法は?
私はヘイトを稼ぎ過ぎて無理。
ザリアは私に声を掛けてきている辺り、たぶんない。
マントデアが斧をフルスイングしても竜骨塔への攻撃が通らない時点で、他メンバーの並の攻撃でも無理。
レライエなら本当に矢一本分の隙間があれば竜骨塔にトドメを刺せるだろうが、その隙間がない。
「うん、此処が切り所かな。マナブ!」
「分かったよクカタチ!」
攻めあぐねる私たちを尻目に動いたのはクカタチとマナブだった。
私は二人の動きと、スクナたちが時間稼ぎに専念し始めた点から、未知なる何かを二人がする気だと理解した。
「我は刃。罪科を問い、皆命喰らい、裁断する妖しき刀」
「我は担い手。咎定まるのを見て、渾身注ぎ、罪を雪ぐ処刑人」
マナブの左手に向かってクカタチが飛び込み、棒状に……いや、刀の形に変形する。
そして、刀の形をとったクカタチをマナブは腰の位置にやり、左手で鞘を、右手で柄を掴み、腰を落とす。
「「『禁忌・一時定義-妖刀盟神探湯』」」
二人の声が重なり、不思議な響きを伴って広がる。
合わせて二人の周囲の呪詛が不自然なほどに静まっていく。
「「我等が神よ。我等が前にあるものの罪咎を裁定せよ。我等が前にあるものの贖罪を裁定せよ。我等の業を裁定せよ」」
ああ間違いない。
これは仮称裁定の偽神呪がクカタチに授けた禁忌呪術だ。
であれば、その威力がどれほどのものになるかは考えるまでもない。
「~~~~~!」
「「「ジアジダバァ!!」」」
「させるか!」
「行かせませんよ!」
「通さない!」
「姉として後で詳しく教えて貰うわよ! クカタチ!」
だから収奪の苔竜呪たちは他のプレイヤーの事を忘れたように動き出し、クカタチの排除へと一斉に動き出す。
だが、その行動が実る事はない。
スクナの刀がスケルトン収奪の苔竜呪の攻撃を弾き、他の収奪の苔竜呪たちの攻撃もライトリやザリアが弾き、防ぎ、反撃によって収奪の苔竜呪自身を怯ませる。
「矢一本分。感謝する」
「「「!?」」」
「ギミック解除成功です!」
そして、収奪の苔竜呪が動いた事で、ほんの僅かにだが隙間が出来た。
その隙間でレライエには十分だった。
レライエの放った矢は竜骨塔を構成する竜の遺骨、その最後の一本を貫き砕いた。
生じた変化は劇的なもので、明らかに周囲一帯の空気が変わった。
「ははっ、みんな凄いね。僕らが隙を作る予定だったのに。こうなったら、そっちを狙うべきだよね。クカタチ」
「ある意味予定通りじゃない? でもマナブの言う通り、そっちを狙おうか」
状況が変われば狙いも変わる。
刀になっているクカタチの変化は読み取れなかったが、マナブの狙いは明らかに変わったようだった。
「「『スリヤエグゼキュション』」」
「「「ーーー……」」」
「へぇ……」
その次の動きは、見逃さないようにと幾らか飛び上がって、戦場全体を俯瞰していた私の目では始点と終点しか捉えられなかった。
つまり、クカタチを手にしたマナブが居合の姿勢を取っていた状態と、その姿が消え去り、収奪の苔竜呪を挟んで反対側に現れたマナブとクカタチが、消え去る前と同じ姿勢である事しか見えなかった。
だが結果は劇的なものであり……
「「「!?」」」
紫色の直線状の閃光と共に収奪の苔竜呪たちの体が一刀両断され、本体である苔玉も切り裂かれた。
「ふぅ、これで……」
「うん、倒したね」
クカタチが元の姿に戻り、二人とも脱力する。
うん、確かに収奪の苔竜呪たちも、苔玉も倒した。
「詰めが甘いわね。二人とも」
しかし、まだ終わっていない。
全体を俯瞰し、周囲の呪詛を支配する私にはそれがよく分かった。
だから私は虹色に輝く呪詛の火球を作り出すと、それを一度天高く打ち上げてから、全速力で降らせる。
「~~~~~!」
「えっ、スケルトンのが……!?」
「危ないっ! 千華!」
「『inumutiiuy a eno、yks nihuse、sokoni taolf、nevaeh esir。higanhe og ton od……』」
そう終わっていないのだ。
スケルトン化した恐羊の竜呪が全身の骨を粉々に砕かれるまで動き続けたように、スケルトン化した収奪の苔竜呪もまだ動いていた。
繊維だけの体を束ね、これまでで一番竜らしい頭部を模すと、クカタチとクカタチを庇うように前に出たマナブに向かって大きく口を広げながら襲い掛かろうとしていた。
「『禁忌・虹色の狂眼』」
「「「!?」」」
だがその直前で虹色の火球が直撃し……
「これで本当に終わりよ。収奪の苔竜呪」
「~~~~~!?」
虹色の火柱が立ち上り、スケルトン収奪の苔竜呪だった繊維は絶叫しつつ意志の全てを無くし、その場に音もなく転がった。




