674:スティールモスドラゴン-3
「やったか!?」
「フラグを立てるな。定期」
「ブラクロだから仕方がない」
「ブラクロ含めて全員が追撃をする気満々の構えを取っているし、ブラクロの残念さとこの状況なら、逆フラグになるかもしれないけど?」
「ザリア!? 俺の扱い酷くね!?」
収奪の苔竜呪の姿は私たちの攻撃によって巻き上げられた煙で見えない。
誰か……いや、ブラクロが収奪の苔竜呪の生存フラグを立てるような発言をわざとしたようだが、さてどうなっただろうか?
「今の内に鑑定結果を報告します。竜骨塔の構成部品は竜の遺骨。恨みつらみが骨の髄まで染み込んだ骨であり、恐怖の眼宮の仕掛けである即時ゾンビ化は竜骨塔を崩す事によって、解除されるそうです。それと……」
あ、はい。
生存……と言っていいのかは分からないが、この時点で戦闘の継続は確定した。
まあ、これについては事前の予想通りなので問題はない。
竜骨塔の骨が竜呪……竜型カースの骨ではなく、本物の竜の骨である事は驚きだったが、やる事が大きく変わるわけではないだろう。
「「「ジアジダバァ!!」」」
「「「!?」」」
「竜骨塔の内側に苔の塊のような物が見え、収奪の苔竜呪の体はそこから伸びているようでした」
そして、ストラスさんの報告が続く中で状況が動いた。
煙が内側からの咆哮によって吹き飛ばされたのだ。
で、煙の中から姿を現わしたのは、花を萎びさせ、頭部を黒く、蔓や葉を茶色くし、枯れてしまったかのような収奪の苔竜呪が一体。
それと、これまでに見て来たものと変わらぬ姿を持った収奪の苔竜呪が七体。
いずれも竜骨塔の内側から体を伸ばすように現れた。
「いきなり八体ってマジか!?」
「落ち着け! こちらの人数は51人! 頭一つにつき五人で当たっても、まだ人員に余裕が出る人数だ!」
「この程度は想定内のはずだ! 事前の話し合い通りに動け!」
「あっ、さっきの咆哮で検証班が一人死んだので、今は50人です!」
「「「!?」」」
まあ、此処までは事前の想定の範囲内だ。
恐怖の眼宮の仕掛け上、倒された収奪の苔竜呪がゾンビ化するのは当然の事。
恐羊の竜呪の特性を得ている収奪の苔竜呪なら、首が八本になるぐらいは別に何もおかしくはない。
咆哮で誰かが落ちるのも……まあ、確定防御ではないのだから仕方がない。
むしろ一人だけで済んで良かったと思っておくべきだ。
それを分かっているからこそ、ブラクロにしろ、スクナにしろ、マントデアにしろ、僅かに動揺はしつつも、自分の相手を見定めて既に動き出している。
『此処からどうするでチュか? たるうぃ』
「とりあえず相手の連携を潰しておきましょうか。evarb『恐怖の邪眼・3』!」
「「「!?」」」
私も動き出す。
ネツミテを一回しして、自分の周囲に呪詛の槍を八本作り出す。
そして、目の前の相手に襲い掛かりつつも、蔓の体やシダの葉をうねらせる事で、他のプレイヤーの動きを妨害し、仲間の援護をする収奪の苔竜呪たちの頭を狙って射出。
八本の槍は狙い違わず収奪の苔竜呪の頭を貫き、耐性を撃ち抜く邪眼術がそれぞれの頭に射出される。
「「「ーーーーー!?」」」
「流石タル」
「一気に動きが鈍ったな」
「……。このまま抑え込むぞ」
10秒経って収奪の苔竜呪たちの連携が明らかに鈍り出す。
UI消失状態の効果が出てきたようだ。
だがここで収奪の苔竜呪を倒す方向には動けない。
収奪の苔竜呪の咆哮が絶え間なく鳴り響き、何時即死するか分からない状況であってもだ。
「おらぁ!」
「ふんっ!」
「「「!?」」」
「竜骨塔の破壊班は注意してください! ヘイトを大きく稼ぎます!」
「言われなく……おぶぅ!?」
そう、この状況で先ず破壊するべきは、即時ゾンビ化の原因である竜骨塔。
これを排除しなければ、収奪の苔竜呪は倒せない。
だから収奪の苔竜呪の首を抑え込みつつ、手の空いたものが時に竜骨塔を攻撃して崩し、時に忍び寄ってインベントリに回収したり、単純に遠くに吹き飛ばす事で、塔を削り取っていく。
竜骨塔の破壊はヘイトを大きく稼ぐため、攻撃後に襲われ、大きなダメージを受ける事もある。
今も一人のプレイヤーが収奪の苔竜呪の翼に打たれ、吹き飛ばされた。
「回復します!」
「援護するわ! pmal『暗闇の邪眼・3』」
「同じく」
「ジアダバァ!?」
「ぐ……助かった!」
だが、直ぐにシロホワが回復を始め、私が攻撃で、ライトリが壁役として支援する。
そして、復帰したプレイヤーは収奪の苔竜呪へと再び向かって行く。
「「「ジダバァアァ!」」」
「さて、このまま地道に攻めて行けば終わるものと思いたいけど……ysion『沈黙の邪眼・2』。駄目か」
私は咆哮を止める為に『沈黙の邪眼・2』を放ってみる。
が、耐性だけでなく単純に位階が足りないのだろう、弾かれてしまった。
「攻めろ攻めろ!」
「塔をぶち壊せ!」
「「「ダバジアダカァ!!」」」
「ふぐぅ……!?」
『たるうぃ』
「そうね。壁も兼ねて撃っておきましょうか」
塔の破壊は7割ほどか。
ストラスさんの見た苔玉らしきものも少しだけ見え始めている。
対する収奪の苔竜呪の攻撃は激しい。
連携が取れていないからこそ、味方の被害を構わずに収奪の苔竜呪たちは暴れ出し、当たるを幸いに頭を振り、シダの葉の翼と手を動かし、蔓の体をしならせている。
当然咆哮も止まず……今も一人倒れたか。
「『噴毒の華塔呪』」
「おっ」
「壁か! ありがたい!」
私はドゴストから大量の砂を出すと、『噴毒の華塔呪』を発動して、一本の塔を生み出す。
これで多少だが安全の確保はしやすくなるし、塔の破壊と収奪の苔竜呪の撃破も少しは楽になるだろう。
収奪の苔竜呪の攻撃力を考えると、そう長くは保たないだろうが。
「本体への攻撃も始めるわよ! ezeerf『灼熱の邪眼・3』!」
「……。分かった」
「そうですね。ヘイト稼ぎも兼ねてやりましょう」
だから私は一度、本体であろう苔玉に向けて、炎の槍を放った。
レライエとライトリも私に合わせて攻撃を仕掛ける。
「「「ーーーーー……!?」」」
「ジダバァ!」
「これは……」
「植物版のスケルトンってところか」
私の攻撃は邪眼術の性質もあって、苔玉に直撃。
生きている収奪の苔竜呪は全員痛みに悶え苦しむ。
だが残りの攻撃は動きが鈍らないゾンビ化した収奪の苔竜呪が受け、動きを止め……そのダメージによって限界を迎えたのか、妨害は出来ないが、変化は確認出来る程度の速さで全身を風化させ、一部の繊維だけが残った奇妙な姿を現わした。
「~~~~~!!」
「ガッ……」
「ぐうッ……」
「「「!?」」」
そして繊維だけになった収奪の苔竜呪はピンと張った体を震わせ、奇妙な響きを周囲に撒き散らし……それだけで恐怖状態になった二人が倒された。
これでこちらの残り人数は47人。
「全員急ぐわよ! あの繊維だけの首にはもう躊躇わずに攻撃していいわ!」
私の言葉を受けて、戦闘が再開される。
09/24誤字訂正