671:5thイベントカタログ-2
「んー?」
「どうしたのマントデア?」
さて、そんなこんなで第五回イベントで出現するアイテムについて確認すること暫く。
マントデアが困ったような顔をして、首を傾げている。
「ああタルか。いやな、最終日に完成させた例のアレがどう探しても出てこなくてな」
「例の……ああ、私、ザリチュ、マントデア、ゼンゼの四人で作った奴ね。探し方が悪い可能性は?」
「これだけ探して出てこないのは流石に妙だと思うんだがなぁ……」
「じゃあ、どう探したのか言ってみて」
さて、マントデアが言う例のアレ……『幸福な造命呪』だが、本当に目録に載っていないのだろうか?
マントデアはアレの名称が『幸福な造命呪』である事を知らないし、アレの心臓が呪喰の心臓呪である事も知らないはずだ。
だから、その辺を知らないマントデアでは検索できない可能性も高いと思うのだが……。
「幾つか試したぞ」
「具体的には?」
「作成者を俺、タル、ゼンゼで弄るのはやったな。見やすくするために異形度でのフィルタリングもやってみたし、作成日時でも調べたな。名称やレベルについては一切指定してない」
「む……」
「だがそれっぽいのは出てこないし、例のアレに組み込んだ奴も出てこない。これは妙だろ」
「んー……」
どうやら私が思っていた以上にマントデアはきっちり調べていたらしい。
これは私もきちんと調べてみた方が良さそうか。
なので目録を私自身以外には不可視の状態にした上で、私は検索をかけてみる。
かけてみるが……『幸福な造命呪』、『呪喰の心臓呪』、いずれも反応なし。
異形度が高い順、作成者の指定なし、と言う条件で全てのアイテムを表示してみても、トップである異形度25に転移の指輪呪はあれど、『幸福な造命呪』に関わりがありそうなものは出てこない。
『幸福な造命呪』の想定スペックなら、異形度20は確実に超えているはずなのだが……。
「駄目ね。こっちでも出てこない。これ、ちょっと拙いかも」
「まあ、そうだよなぁ……」
「どうかしたの? タル、マントデア」
「漏れ聞こえてくる話を聞く限り、五日目に作った危険物が見つからないように聞こえましたが……」
と、ここでザリアとストラスさんが近づいてくる。
まあ、折角だから二人にも事情は話しておこうか。
こうなると、他にも目録に載っていないアイテムが存在しそうだし。
「……と言う訳よ」
「「……」」
と言う訳で、二人に概要を話をしたところ、二人は揃って俯き、天を仰ぎ、それから頭を軽く振った。
「これ、イベント開始直後に『サプライズ、『ユーマバッグ帝国』は滅んで、呪限無が出現します』と言われてもサプライズじゃないわね」
「絶対に拙い奴ですね。これは。ザリア様の言う通り、呪限無が出現してもおかしくはないでしょう」
「まあ、イベント全域呪限無はないと思うわよ。初心者が死滅する事になっちゃうし」
「そうだな。全域はないだろう。中心部は分からないが」
二人の懸念は最もだとは思う。
ただまあ、仮にそうなっても、運営がそれなりの調整はしてくれるだろう。
「しかし呪限無か……目録をざっと見渡した限り、カース化していそうなアイテムはそれなりに見られるな。これらが全部カースとして動き回るのは、確かになくはないか」
「あらそうなの?」
「タルが作った物と違って、持っただけで酷い呪われ方をしたり、含まれる呪いがまとまっていなかったりするみたいだけどね」
別の条件で検索してみる。
確かにカース化しているアイテムはそれなりにあるようだ。
だが、見た目からして……うん、ザリアの言う通り、あまり出来は良くなさそうだ。
呪いを適当に積み重ねた結果として、勝手にカースになってしまったような感じを受ける。
「それにしても、これで『幸福な造命呪』がこれらのカースを従えて、新しい王国を築いていたら笑うしかないわね。あはははは……は?」
「「「……」」」
で、カース化したアイテムを見て、私は冗談でそんな事を言ってみたわけだが……マントデアたちの表情は芳しくない。
こう、何と言うか、『フラグを立てたなコイツ』とか、『タルが言うと冗談じゃすまないのよね』とか、『うわっ、普通にありそうですね』とか、思ってそうな顔をしている。
口には出していないので、笑うのを止めるだけにするが。
「ま、イベントは一週間後。何が起きてもいいように、これから準備を整えて行けばいいと思うわ」
「それもそうか。まだ一週間もあるんだよな」
「そうね。それに敵が強大であっても、これからやり合う相手と比べたら、ねぇ?」
「そうですね。収奪の苔竜呪のが厄介な可能性は高いと思います」
ま、この件については、現状ではこの程度で終わらせていい。
今はそれよりも目の前に迫っている事がある。
「さて時間は……そろそろリアル時間で24時間経つところね」
「タルが作った薬を昨日飲んでしまったプレイヤーが居ても、再使用が可能になる時間ね」
「じゃ、最後の打ち合わせだな」
「そうですね。人を集めましょう」
さあ、『抗怖苦薬』を使って、収奪の苔竜呪を討伐する時間だ。