670:5thイベントカタログ-1
「ログインっと」
「あれ? 今日は収奪の苔竜呪に挑むから、もう少し遅くにログインすると思っていたんでチュけど、早いでチュね。たるうぃ」
本日は日曜日。
ザリチュの言う通り、今日は収奪の苔竜呪に挑む予定がある。
「その前に確認事項があるのよ。次回イベントで入手可能なアイテムの名称と外見が載せられた目録と言う確認事項がね」
「あ、そう言えば今日でちょうど一週間だったでチュね」
が、その前に第五回公式イベント『盗賊恐れる宝物庫の悪夢』関係の話がある。
と言う訳で、いつもの確認事項を確かめた私は、私と同じ目的で集まっているであろうザリアやライトリたちが集まっている『虹霓鏡宮の呪界』に繋がる広場に移動する。
「12時!」
「更新が来たぞい!」
「さあどれだけ来る……」
「総員、構えてください!」
正午、公式サイトが更新され、目録が配布される。
それを受けて、ストラスさんを含む検証班が一斉に目録を開く。
結果。
「は?」
「うわ」
「でっか」
「知ってた」
「ですよねー」
「まあ、こうなるわよね」
「百万点以上のアイテムがあるって言っていたものね」
「当然の結果ではありますが、威圧感がすごいですね」
「この中から目的のアイテムを探し出すのは大変そう」
物体として出現させるならば、十数冊の百科事典が出現して、人の姿が埋もれた。
非物体として出現させるならば、スクロールバーがもはや認識不可能な細さとなっているウィンドウが現れた。
ちなみに百科事典は武器や壁としては使えない仕様である。
「検索機能は……あったぁ!」
「よかった……運営には人の心があったんだ」
「無かったら本当にどうしようかと」
「その時はお気持ちメールが山のように送られるだけでしょ」
「まあ、流石にそういう案件ですよね。妥当なクレームですし」
さて、目録だが、量が量なので当然ながら検索、ソート、フィルタリングなどの各種機能が存在している。
具体的には、アイテムの名称、適正レベル、耐久度、干渉力、浸蝕率、異形度などの情報を利用するだけに留まらず、作成に関わったプレイヤーの名称、何時作成されたのか、武器や防具などの種別も利用して、見たいアイテムの数を抑えることが出来る。
「ふうん……」
なお、アイテムが持つ能力での検索は不可能だが……一部のプレイヤーを除き、だいたいのプレイヤーはアイテムの名称は『CNP』の自動設定、つまりは能力に応じた名称に任せている。
なので、ある程度慣れたプレイヤーならば、特に凝った一部のアイテム以外は名称を見るだけで、だいたいの能力は予想可能だろう。
「タル、何かいい物はあった?」
「そうね……芸術部門に面白い物があったわよ」
「面白い物?」
「私のフィギュア」
「「「ぶっ」」」
さて、私が検索してとりあえず見てみるのは芸術部門で登録されているアイテムたちだ。
他の部門については私には必要がない物や使えない物が多数占めているだろうが、この部門については何か掘り出し物があるかもしれないと言う事で、先に見てみたのである。
結果として見つけたのが、1/16スケールと1/1スケールで作られた私のフィギュアである。
なお、作成者は別々の模様。
出来は……見た目についてはだいたい同じぐらいかな?
「タルフィギュアって、それ、一種の邪神像なん……ガバァ!?」
「兄ぇ……」
「まあ、今のはブラクロが悪いな」
「言っていい事と悪い事がある」
「ブラクロも吠えなければ撃たれまいて……」
とりあえずブラクロには『毒の邪眼・3』を動作キーで撃ち込んでおいた。
「と言うかプレイヤーや住民のフィギュア、結構色々あるわよ。私、ザリチュ……ああ、化身ゴーレムの方ね。それに聖女ハルワに聖女アムル、ザリア、クカタチ、ライトローズさん、ライトリ、ゼンゼ……覚えのないプレイヤーや住民も多いけど、かなりの数があるわね。あ、マントデアも居た」
「え、私とクカタチも居るの……」
「本当ですね。いったい誰が……」
「これ、いいんですかね……」
芸術品の分野、見ていると案外楽しいかも。
私たちのフィギュアもそうだが、第一回イベントでの私とスクナ、スクナとブラクロの戦いなどのような印象的な場面を描いたと思しき絵画もある。
他にもBGM機能で聞こえてくる各場面での音楽を楽譜に起こしたもの。
単純に造形美に優れた置物、指輪。
珍しいと思しきところでは、家屋や船、漫画のような物まで含まれていた。
「あ、メッセージが来たでチュよ。たるうぃ」
「内容は?」
「えーと、件のフィギュアなど、たるうぃの姿が用いられている芸術品についてでチュね。運営に異議申し立てを送れば、無かったことに出来るそうでチュ。あ、判断材料として、該当アイテムの名称、詳細な外見、詳しい能力まで添付されているでチュ。たぶんでチュけど、他のプレイヤーのところにも丁度送られ始めたんじゃないでチュか?」
「そうね。私の方にも来たわ」
ふむ、異議申し立てか……あまりにも出来が悪いもの、私に対する攻撃的な意図が見られる物ならばなかったことにするのもありだが……。
見た感じ、そういう物はなさそうか。
「異議申し立てはなしで。変なのはないみたいだから別にいいわ」
「分かったでチュ」
と言う訳で、私についてはこの件は終わりでいい。
それにしても私の1/1スケールフィギュア、幾つかあるのだが、その内の一つはどうやって視認者に対して恐怖や魅了(畏怖)の能力を付けたのだろうか?
私モチーフだからそういう能力を持たせるのは分かるが、方法が謎だ。
上手く製作者に会えたら、ちょっと話を聞いてみたいものである。