665:ダークパレス-3
「いやー、キッツいわ。なんだあれ……」
「これまでの四つの眼宮とは難易度が違いすぎるだろ……」
「これまでほぼなかった完全な暗闇、その暗闇で地面すら無視して飛び回るワイアームの群れか……」
「そのワイアームは条件を満たさないとほぼ攻撃が通らないと言う鬼畜仕様だしな。地獄か」
脱出した私たちはとりあえずその場で座り込み、一戦終えた感想をお互いに言い始める。
「奥に進む場合には今回以上に苦戦しそうですね。ザリア様」
「そうね。私のように進行に寄与しない異形持ちなら、最低でも周囲数メートルの視界は確保できる照明と暗梟の竜呪対策が必須。可能なら崖からの転落対策もかしら。でも奥にはきっと収奪の苔竜呪も居るでしょうから……本当にキツイわね」
「いっそのこと、攻略時には暗梟の竜呪を無視して奥まで駆けるか?」
「兄ぇ……それ、絶対途中で追いつかれるかして、大惨事になる奴じゃない」
いや、感想と言うよりも愚痴と言った方が正しいかもしれない。
けれど愚痴の一つも吐きたくはなるだろう。
暗闇の眼宮の難易度は明らかに他の眼宮よりも高いのだし。
「そう言えば奥に進む道の幅はどれぐらいだった? 落ちたら即死な以上、俺はその辺も気にしておかないと拙いんだが」
「マントデア様。その件については私たちの方で調べてあります」
「流石はストラスさんね」
ストラスさんたち検証班曰く。
暗闇の眼宮の最初の広場から先……奥に向かって伸びる道だが、左右に蛇行、時にはヘアピンカーブのように進行方向を180度変えつつも奥に進んでいるとの事。
道幅は狭いところで5メートルちょっと、広い場所で20メートル程度はあるそうだ。
私たちの中で最も巨大なマントデアの肩幅は……5メートルあるかないかぐらいだろうか?
とりあえずマントデアでも奥には進めるらしい。
しかし、狭いところで5メートルか……。
「道幅5メートルで暗梟の竜呪との戦闘とか絶対にやりたくないな……」
「あのダイブ攻撃が確定即死攻撃になるもんな……」
「虎絶の竜呪対策も兼ねて、強制移動耐性を本格的に考えるべきなのかもな」
「あるいはタルみたいに自由に空を飛べるようにするかだよな」
うん、全員気付いているが、幅5メートルの空間で暗梟の竜呪との戦闘はちょっとどころでなく危険だ。
と言うか、あの吹き飛ばしを伴うダイブ攻撃と暗闇の眼宮と言う環境の相性が良すぎる。
今後、どのようにするにしても、あの攻撃への対処だけは不可欠だろう。
「ま、その辺は追々考えましょう。今はそれよりも優先するべき事があるわ」
「優先するべき事?」
「暗梟の竜呪の解体よ。回収は……」
「私、ストラスさん、後誰かやったわよね」
「……。俺がしておいた」
では、ザリアが話題にも出したので、そろそろ次の話題に移るとしよう。
暗梟の竜呪の解体だ。
どうやら三体目はレライエがしておいてくれたようなので、パパっとやってしまおう。
「あ、タル様。出来ればで構いませんから、『ダマーヴァンド』で暗梟の竜呪の解体風景は見せていただいてもよろしいですか?」
「いいけど……ああ、特殊性が強そうだからね」
「はい。これまでの竜呪よりもさらに特殊そうなので、未見の状態から一番情報を集められそうなタル様にまずはお願いしたいのです」
「分かったわ」
と言う訳で、暗梟の竜呪の解体はまず私がやる事になった。
なお、一体目の解体に失敗したら、ストラスさんとレライエが持っているのを渡してもらう事になっており、解体成功後については私が欲しい素材を幾つか貰った後に他のメンバーが必要な部位を相談して取っていくことになるそうだ。
うん、こういう取り決めを事前にやっておくのは大切な事だと思う。
「じゃ、まずは大きな容器を用意しておきましょうか」
「おおっ、何か祭壇とか舞台みたい!」
「早速、一般人には真似しがたい物が出現したんだが……」
「いやでもこれ、ダンジョン内設備と言うより地形の一種だから、今後は俺たちも使わせてもらえるだろ」
さて、『ダマーヴァンド』に戻った私は、とりあえず噴水のある広場よりも外……作業場として用意した方の広場の一角に、適度な斜度と溝を付ける事で周囲に液体を流し、溜め、栓を抜く事で流れ出た液体を回収できる台を作成する。
なお、台のサイズは暗梟の竜呪よりもさらに大きいカースを想定して、直径20メートルほどある。
クカタチの言う通り、祭壇のが近いかもしれない。
「じゃあ、出すわよ」
「はい」
「しっかり見ておくわ」
「……記録は任せておけ」
ちなみに祭壇の周囲には20人ほどのプレイヤーが集まっているし、眼球ゴーレムも適度に置いてある。
これは暗梟の竜呪の特殊性が高そうなので、僅かな変化も見逃さないためだ。
「とうっ」
暗梟の竜呪の死体がドゴストの外に出て、祭壇の上に乗る。
梟のものに近い、黒い羽毛に覆われた、一本角を持つ頭。
羽毛に覆われると共に、羽が生え揃った翼。
蛇のように細長く、漆黒の鱗に覆われた胴体。
そして、黒い液体のような物に覆われた尾が出て来る。
うん、大きい。
解体のし甲斐がありそうだ。
「じゃあまずは尾の液体の回収を……ん?」
だが死体に刃を入れるよりも先にまずは自然と流れ出てしまう物の回収をするべき。
そう判断した私は暗梟の竜呪の死体のゾンビ化を呪詛支配で防ぎつつ、尾を覆う黒い液体のような物に触れようとした。
「へぇ……そう来るの」
「うわぁ……」
「は?」
「え……」
「早速ですか……」
「……。厄介なものが出て来たか」
だが暗梟の竜呪の尾を覆う黒い液体は触る事が出来ず、それどころか祭壇すらすり抜けて、何処かへ消え去っていく。
どうやらストラスさんの予想が当たってしまったようだった。
09/16 誤字訂正