664:ダークパレス-2
「「「ボロォ!」」」
「抑え込む……アバァ!?」
「すり抜けるって言っただろうがぁ!」
「まずは暗闇の付与からだ!」
「扉から離れすぎるなよ! 底なしの崖がある!」
さて、暗梟の竜呪の一体が私を地面に叩きつける形で始まった戦闘だが、どうなるだろうか?
とりあえず何人か暗梟の竜呪を取り押さえようとしたらすり抜けられて、背中を翼で強打されたようだが。
「黒バクチク投擲ぃ!」
「当たってない」
「むしろ巻き込まれたんだが……」
「くそっ、何処に行った……」
「誰か暗闇の回復頼むぅ」
うん、やはり苦戦気味の様だ。
暗闇状態にすれば普通の攻撃も通るようになるので、『ダマーヴァンド』に生えている黒バクチクの実を投げつける事で暗闇状態にしようとしているが、暗梟の竜呪の動きが速すぎて当たっていない。
「カウンターなら通用するぞ! 狙っていけ!」
「いや無理だから! この暗闇でカウンターは無理だから!」
「臭いが碌にねえんだよなぁ。コイツら」
「……。音もほぼ無音だ。俺の耳でもギリギリ聞こえるかどうかだな」
「ステルス性能が高いなんてものじゃねえな。流石は梟」
暗闇状態にする以外にもカウンターでなら攻撃を通すことは出来る。
が、こちらの手段も芳しくはないか。
暗梟の竜呪のステルス性能が高すぎるせいで、何時攻撃が来るかがほぼ読めない。
ブラクロ曰く臭いが、レライエ曰く音が殆どないようだし、私の呪詛支配にも殆ど引っかからないので、当然の結果とも言えるが。
「『毒の邪眼・3』」
「ふんっ!」
「低温フィールド構築します」
「「「ボギョッ!?」」」
「毒と環境ダメージが入るのは本当に救いだな」
とりあえず私は私のやるべき事をと言う事で、『毒の邪眼・3』を撃ち込んでおく。
ライトリも毒の投槍を投擲して、毒を与える。
えーと、『ガルフピッゲン』の誰かだろうか、地面に霜が現れ、宙が輝き出すような低温フィールドを展開しているプレイヤーが居て、そこに侵入した暗梟の竜呪はダメージを受けると共に、明らかに動きが鈍っている。
なるほど、そういう攻撃手段も通用するのか。
「改めて黒バクチクぅ!」
「ボロォ!?」
「チャンスよ! 攻め立てなさい!」
「ぶっ潰す!」
「ヒャッハー!」
そして、低温フィールドによって動きが遅くなった暗梟の竜呪へと暗闇が付与され、他のプレイヤーによる攻撃が殺到する。
んー、今の状況での最適解は毒よりもこっちかな?
相手の動きが鈍ると言うのが、この人数だと特に大きい。
「ボロォ!」
「おっと……」
と、ここで暗闇から現れた暗梟の竜呪が私に向かって突進を仕掛けてくる。
私は難なく攻撃を避けたが、その動作にこの後の危険を察知する。
「吹き飛ばし来るわよ! 全員注意!!」
「「「!?」」」
だって、この攻撃の締めは地面に向かってダイブして、消灯空間の解除と引き換えに周囲に衝撃波を撒き散らす物なのだから。
広場の外は奥に通じる道以外は全て崖であるこの場で、無防備な状態のプレイヤーに対してそんな物を使われたら、どうなるかなど考えるまでもない。
「ボロォ!」
「ギャアアアァァァッ……」
「アアアアァァァァッ……」
「落ちるううぅぅぅっ……」
「崖下に落ちたメンバーの死亡を確認! 全員崖との距離には注意してください!」
衝撃波が撒き散らされた。
ダイブ地点の周囲50メートルほどの消灯空間が解除され、奥に繋がる道と底なしの崖が一瞬見えた。
そして私の懸念通りに、位置取りから考えれば運悪く、三人ほどのプレイヤーが崖の方に向かって勢いよく吹き飛ばされ、落ちて行った。
途中で姿が見えなくなったので結末は分からないが、ストラスさんの言葉通りなら死に戻りになったようだ。
「ボロォ!」
「アバァー!?」
「これ、とにかくまずは数を減らさないとヤバい奴だ!」
「ボオオォォロオオォォッオッオッオォォォ!」
「ブレスが来たぞおおおぉぉ!」
場が一気に混沌とし始めてきた。
最初にダイブした暗梟の竜呪は動きを止めているが、別の暗梟の竜呪がダイブの前の突進を始め、もう一体が周囲にブレスを吐き始めている。
空中への羽射出も控えているし……うん、誰かが言っていたが、数を減らさないとヤバそうだ。
「今回はまだ事前対策や情報が足りてないわね。etoditna『毒の邪眼・3』」
「!?」
とりあえず『呪法・感染蔓』付きの『毒の邪眼・3』をブレスを吐いていた暗梟の竜呪に叩きこみ、放置しておいても大丈夫なようにする。
「せいっ!」
「はぁっ!」
「むんっ!」
「ボギョォ!?」
その間に低温フィールドからの攻撃集中もあって、一番ダメージを受けていた暗梟の竜呪に再度攻撃が殺到。
こちらは完全に落とされた。
回収は……ストラスさんが素早くやったか。
「ボオオォォロオオォォンダアアァァ!」
「「「!?」」」
「事前予測線が見えないんですけど!?」
「逃げても逃げても線が……」
「うーん、やっぱり対策不足ね。これ」
「ボツモオオオォォォ!」
と、ここで漆黒の羽根が射出され、異形度補正もあってか、何人かが即死した。
うーん、足りない物が本当に多い。
消灯空間への対処、暗梟の竜呪に安定的に攻撃を通す手段の確保、吹き飛ばし攻撃への対策、大技であるこれへの対処をどうするか。
あまりにも対策が足りていなかった。
「攻撃が終わった今がチャンスよ!」
「アオオオオォォン!」
「デスロオオォォル!」
「ロォ!?」
とは言え、その後、私たちは何とか三体の暗梟の竜呪を討伐し、死体の回収に成功。
これ以上の戦闘と探索は不可能と判断して、暗闇の眼宮の鑑定を終えると、脱出したのだった。
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虹霓鏡宮の呪界・暗闇の眼宮
限り無き呪いの世界の一角に築かれた虹霓に輝く城。
離宮の一つ、暗闇の眼宮、そこは深き闇に満ちた世界であり、その闇が晴れる事は決してない世界でもある。
ひしめくは鳥と暗闇の力に満ちた竜の呪いであり、彼らは暗闇の中から人間を好んで啄む。
呪詛濃度:26 呪限無-中層
[座標コード]
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09/14誤字訂正