663:ダークパレス-1
「え、もうフルメンバーで集まってるの……」
「掲示板にキビャックモドキを邪眼術強化の為に作成、仕上げに入るから、強化の成否に関わらず臭いは消えるって書いたのはタルじゃない」
「それはまあ、そうなんだけど、こっちの時間だと、書き込みからまだ一時間も経ってないじゃない。連絡も入れてないし、試練に呼ばれたライトリはともかくザリアたちが居るのは予想外よ」
『虹霓鏡宮の呪界』、『暗闇の邪眼・3』の色である鉄紺色に変化した鏡の扉の前には、既に私が『虹霓鏡宮の呪界』に入る許可を出した5人と、5人に連れられてきた45人のプレイヤーが揃っていた。
見た感じでは、だいたいの状況に対応できるようにメンバーを取り揃えているようだ。
「タルさん。さっきのワイアームとの戦闘の動画は流してもいいですか?」
「それは問題なし。むしろ流しておいて。ライトリ視点だと色々と違うかもだから。あ、『暗闇の邪眼・3』の基本的な仕様についてはこっちを見て頂戴」
とりあえずライトリには先程の試練の動画を流してもらう。
なお、ライトリ視点であるためか、あるいは視聴者に配慮してか、観客席は濃い呪詛の霧に覆われていて一切見えない。
まあ、その方が視聴者にとっても安全か。
それと此処に来る前に垂れ肉華シダの蔓に向かって撃った時の画像も、他のプレイヤーに見せておく。
「えーと、人数からして誰も中には入っていないのよね」
「当然でしょ。以前のライトリたちのようにタルから許可を貰って先行するなら別だけど、ここでタルを無視して中に入るのはただの不義理よ」
「と言うかだ。もしも此処でタルを無視して先行する奴がいたら、俺ならそいつの進入許可は取り消すぞ」
「マントデアに同意」
「当然の判断ですね」
「うんうん」
「ああうん、皆が協力的な事に感謝するわ」
さて、折角ザリアたちが仮称暗闇の眼宮への突入を控え、私の事を待っていてくれたのだ。
この後の探索は出来るだけ問題なく進めたいところである。
ところであるが……
「うわっ、なんだこれ、真っ暗になったぞ……」
「えっ、てか、暗闇の中から急に敵が……」
「この吹き飛ばし。すげー嫌な予感がするんだけど」
「……。暗闇がなければ通常の攻撃手段は無効か。手札の整理が必要だな」
「なんかもう、既に嫌な予感しかしないな。この先」
「「「……」」」
「あ、全員お察しの通り、仮称暗闇の眼宮はたぶん相当にヤバいから、覚悟は決めておいて」
ライトリの撮った動画に映るワイアームだけでも、既に色々とお察しの様である。
ザリアたちは既に沈黙している。
「さて、シロホワのバフを貰ったら、とりあえず私が動画を生配信しながら中に突っ込むわ。で、その映像を確認して、最低限の状況を確認してから他の皆も突入して頂戴」
「灯りはどうするんだ?」
「さっきの戦闘で使わなかった熱拍の樹呪のボーラが幾つかあるから……こんな感じに体に巻き付けて照明にするわ。で、直ぐにジャンプして、周囲を照らし出すようにするの」
私は熱拍の樹呪のボーラを取り出すと、体に巻き付け、打撃部であると同時に照明部分でもある両端が腰の辺りに来るようにして、簡易のランタンにする。
私の火炎属性耐性ならばダメージは受けないし、灯りの範囲もそれなりに広くなるだろう。
「準備はいいかしら?」
私の言葉にほとんどのメンバーが頷く。
そしてシロホワのバフが私にかかり、一度だけ状態異常が無効化されるようになった。
動画の生配信も既に開始済み。
「じゃ、後詰は頼むわよ」
では突入。
私は鉄紺色の鏡の扉を通り、暗闇の眼宮へと入る。
私の目に映った暗闇の眼宮の光景は……。
「やっぱり、消灯空間よね。此処のギミックは」
私の周囲、熱拍の樹呪のボーラによって照らし出された僅かな範囲に土の地面が見えるだけで、後は何処までも漆黒の空間が続く領域だった。
その事を確認したところで、私は事前の予定通りに跳躍。
私の体を炙っていた漆黒の炎から逃れつつ、より広い範囲に光が届くようにする。
「風……途切れた足場……うん、非常に嫌な予感しかしないわね」
他のプレイヤーたちが入ってきて……異形度補正のせいか、思っていた以上に被ダメージ自体が大きかったらしく、何人かは転がって漆黒の炎から逃れると、HPを回復するための呪術を受けている。
そんな姿を見つつも私は周囲の状況の詳細を確認。
どうやら鏡の扉を通った直後は直径50メートル程度はありそうな円形の広場の様で、広場の外は……両側が底が見えない崖になった、幅5メートルちょっとの蛇行した道が一本だけ伸びているようだ。
進む道が一本だけ、底の見えない崖、空を飛べる上に吹き飛ばし能力を持つステルス系のカース……うん、未経験なのだけれど、何が起きるのかはとても簡単に想像できてしまった。
「ボロォ!」
「ぐっ!?」
「「「!?」」」
と、どうやらワイアームがやって来たらしい。
上から急襲、私に噛みつこうとしてきたのを、間一髪で錫杖形態にしたネツミテで防ぎ、地面への叩きつけで終わらせる事に成功した。
「敵が来たぞ!」
「全員構えろ!」
「敵の数は……推定3!」
「鑑定出来ました! 敵の名称は暗梟の竜呪! レベルは40です!」
気が付けば私たちはワイアーム……暗梟の竜呪に囲まれていた。
そして、灯りに乏しい中、戦闘が始まる事になった。