661:タルウィダーク・3-4
本日は五話更新になります。
こちらは四話目です。
「ボオオォォロオオォォッオッオッオォォォ!」
「「!?」」
ワイアームの口から漆黒の炎が放たれる。
そして、そのままの状態でワイアームは時に素早く飛び回り、時にホバリングしつつ回転し、時には梟の柔軟性で以って首だけを回して漆黒の炎を撒き散らす。
「また暗くなりました」
「まあ、あれだけ炎をばら撒かれれば、当然ではあるわね」
炎は地表に当たって残るだけでなく、空中に留まるものもあれば、ライトリの盾と接触した場所で留まり続けるものもある。
で、ある程度以上の規模になると漆黒の炎は範囲内にある呪詛から光源としての力を奪い取り、消灯空間が形成される。
「暫くはどういう攻撃が通るかの検証をしつつ、毒のスタック値維持で行きましょうか」
「分かりました」
さて、このワイアームとの戦闘は未だに分かっていない事が多い。
体が半分液体の様であったり、その割には翼で攻撃された時には固い物にぶつかった感触がしっかりあったり、『呪法・感染蔓』などの呪法を乗せて直撃させた『暗闇の邪眼・2』の暗闇が1分もしない内に解除されたりと、本当に色々と分かっていない。
試練の突破に全ての謎を解き明かす必要はないかもしれないが、倒すためには幾らかは調べる必要があるだろう。
「ボロォ!」
「せいっ! はい、明らかに挙動が違う!」
「対抗手段の一つはカウンターですか」
と言う訳で、暗闇の中から嘴を開けつつ現れたワイアームに向けて『灼熱の邪眼・3』を動作キーで撃ち込む。
ワイアームにはダメージと灼熱の状態異常が入るが、ワイアームはそんな掠り傷などどうでもいいとライトリに攻撃を仕掛け、ライトリはこれを防御。
で、ライトリに攻撃を防がれたので消灯空間の中に去っていこうとしたワイアームに再度『灼熱の邪眼・3』を撃ち込んだのだが、これはワイアームの体の一部を吹き飛ばしたように見せつつも、ダメージそのものはないようだった。
たぶん、戦闘開始直後に私が仕掛けた攻撃のように、何かしらの方法で防がれている。
「ボロォ!」
「氷結効果なし、電撃効果なし、浄化……多少は効果あるけど、微妙」
「物理、火炎、呪詛も特定の状況でないと効果がなかったという事は、普通の攻撃は全滅ね」
その後も暗闇の中から奇襲を仕掛けて来るワイアームの攻撃を凌ぎつつ、私たちは有効な攻撃を探っていく。
結果、ライトリの持ち込んでいた使い捨ての属性攻撃アイテムによって、特定の状況でなければ、普通の攻撃は浄化属性を除いて無効化され、浄化属性も決して有効とは言えない事が確定。
「うん、暗闇の使い方が重要になりそうね」
「一気に攻めるならそうなる」
それと私の邪眼術によって、ワイアームはこれまでの対非実体の鉄板であった石化を完全に無効化出来る事、どんなに弱いものでも暗闇状態にすることは出来るが、効果時間が極端に短い事も判明。
だが、効果時間が短くても暗闇状態にする事の意味は大きい。
ワイアームが暗闇状態である場合、姿を消すことが出来なくなり、普通の攻撃が通用するようになるからだ。
「ボッロオォ!」
「「!?」」
ワイアームが地面に衝突し、周囲に衝撃波が放たれる。
この攻撃はダメージは控えめなのだが、吹き飛ばし性能が強いので、私もライトリも吹き飛ばされ、体勢を崩す事になる。
「ふんっ!」
「『毒の邪眼・3』!」
「!?」
しかし、消灯空間が消える事、ワイアームが数秒程度ホバリングし続ける状態になるので、攻撃のチャンスでもある。
だから私は『毒の邪眼・3』を放ち、ライトリも毒の投槍を放つ。
私のは勿論のこと、ライトリの毒も鼠毒の竜呪の素材によって強化されているので、ワイアームには問題なく入る。
スタック値も……そろそろ1万は余裕で超えているだろう。
なので、相手の挙動が特に問題のない物ばかりであれば、このまま持久戦の態勢に移り、毒殺による撃破を狙うのも十分にありだろう。
「ボオオォォロオオォォンダアアァァ!」
「っ!?」
「これは……」
そう思っていたらワイアームの動きが変わった。
その場で激しく回転し、自分の翼から周囲の空間に向けて羽根を射出、空中に貼り付ける。
そして空中に貼り付けられた羽根は漆黒の炎を宿し、激しく燃え上がり……。
「事前予測線!?」
「大技が来るわよ!」
羽根から私たち二人の体に向けて、これからこの軌道に沿って飛びますよと言わんばかりに赤い曲線が描かれる。
その数、少なく見積もっても100以上。
「ボツモオオオォォォ!」
「ぐうっ!?」
「うぐっ!?」
羽根が射出される。
事前予測線通りに飛ぶ羽根はまるで硬度を保ったまま熱せられた鋭利なナイフの様で、私の左手がもげ、ライトリの頭の花に掠り、私の首に深い傷が付き、ライトリの盾を半ば貫通。
ほぼ全ての羽根を避け、当たったのは一部だけだったが、それでも私もライトリもHPが一気に削られて行き、私に至っては『死退灰帰』の効果も使用する事になった。
「ボロォ……ボロォ……」
「耐久している余裕はなし! 一気に決めましょうか!」
「異議なし」
もう一度、今の攻撃が来たら詰む。
そう判断した私とライトリは直ぐに動き出す。
「『暗闇の邪眼・2』からの『気絶の邪眼・3』!」
「ボギョッ!?」
私が放った邪眼術によって暗闇状態になり、実体を有するようになったワイアームが、『気絶の邪眼・3』の伏呪の効果によって私の目の前にまで引き摺られてくる。
そこに待ち構えるのはライトリ。
「ベノムアンプリフ。からの……」
「ロォッ!?」
ライトリの槍がワイアームの体に突き刺さり、毒のスタック値が勢い良く減る代わりに、ワイアームがこれまでにないような苦悶の表情を見せる。
だがライトリの攻撃はこれで終わりではないようだ。
「ふんっ! せっ! とうっ!」
「!?」
ライトリの盾がワイアームの体に叩きつけられ、深く刺さっていた槍が引き抜かれると共に、ワイアームの体が不自然に硬直する。
ライトリが盾から手を放し、盾を持っていた方の手に生成した毒の投槍を逆手で振るい、ワイアームの体に突き刺し、毒のスタック値を一気に伸ばす。
槍を横に振り、ワイアームの怯みを延長すると同時に、反動を利用して少しだけ距離を取る。
「ベノムアンプリフ・2!」
「ーーー!?」
そして、先ほど逆手で突き刺した毒の投槍に向けて槍を突き出し、毒の投槍を体内の奥深くにまで進めると同時に、槍による攻撃も行う。
ワイアームは絶叫。
毒のスタック値の減りは最初の一撃よりもはるかに多い。
ああなるほど。
どうやらライトリは、毒のスタック値と引き換えに強烈な一撃を放つ攻撃を連呪によって強化しつつ撃ち込んだらしい。
「おまけよ!」
「ッ!?」
そんなライトリの動きを見て、何があったのかを考えつつ、私も動いていた。
ネツミテの打撃部に呪詛を纏わせ、激しく横回転をしつつ、絶叫するワイアームの頭に叩きつけ、黙らせてやった。
「ーーー……」
「「……」」
私とライトリ、どちらの攻撃がトドメの一撃になったのかは分からない。
だがワイアームの全身から力が抜けていき、液状化する事も、地面に沈み込んでいく事もなく倒れていき、体を完全に横たえたところで、全身が一気に風化してワイアームの体は消失した。