660:タルウィダーク・3-3
本日は五話更新になります。
こちらは三話目です。
「さて、どうした物かしらね……」
「梟顔、暗闇の状態異常に漆黒の体と言う時点で隠密能力に優れているのは想像済みでしたけど……これは実体も消えてますね」
ワイアームがその場から消え去ったのを見て、私は直ぐにライトリの直上に移動。
全方位に視線を向けつつも、体の向きだけはライトリと一致させておく。
で、ワイアームだが……たぶん、私たちの周囲を飛び回っている。
その証拠として、空中に時折だが黒い空間が出現して、視線を遮っている。
だが、現在のワイアームには実体はないらしく、ライトリが相手の軌道を予想して放った毒の投槍は確実に命中する軌道であったのにすり抜けたし、私の『灼熱の邪眼・3』も命中した感覚はなかった。
「タルさん。使う状態異常は選んでください」
「分かってるわ。恐怖は使わないでおく」
ワイアームの移動は続いている。
その間にも時間は流れている。
となると、毒のように時間が経つ方が都合がいい状態異常を積極的に使うべきか。
逆に恐怖のように引き籠りと言うか、時間を稼げば問題がなくなってしまう状態異常は止めておくべきだろう。
「ライトリ」
「タルさんがそこに居る意図は理解していますので、大丈夫です」
やがてワイアームの残す黒い空間が途絶えた。
移動するのを止めたか、地面に潜ったかの二択だろう。
私とライトリの緊張が高まっていく。
「ボロンボオオォォ!」
「6時上! ブレス!」
「っ!」
ワイアームが私たちの背後、斜め上に現れる。
開かれた口から漏れ出ているのは微かな光も通さない漆黒の炎。
ライトリは私の言葉を受けて即座に反転、盾を構える。
「etoditna『毒の邪眼・3』!」
私は『毒の邪眼・3』を撃ち込みつつ、ライトリの陰に移動。
同時にワイアームの口から漆黒の炎が放たれた。
「ボボボオオォォ!!」
「ぐっ……!?」
漆黒の炎がライトリの盾に直撃する。
盾に当たり、私たちの横を通って、漆黒の炎が背後に伸びていく。
そして、背後に伸びていった漆黒の炎が繋がった瞬間、呪詛の霧が放つ光が途絶え、熱拍の樹呪のボーラとライトリの頭以外の光源が消失し、私たち自身の姿以外が見えなくなる。
「暗闇がかなり重いですね。まったく見えません」
「はい、回復アイテム。代わりに灼熱が付くけど」
「暗闇が治っても、周りが見えませんね」
「消灯空間よ。呪詛の霧が光源にならなくなるみたい」
「なるほど」
「ボロォ……ボロォ……」
ワイアームの鳴き声がゆっくりと横に移動しつつ聞こえる。
どうやら移動をしているようだ。
熱拍の樹呪のボーラは光源としてきちんと効果を発揮している。
だが、漆黒の炎は普通の光源からの光も遮るようで、最初にワイアームに向かって投げた熱拍の樹呪のボーラは見えない。
「ダメージ的に火炎属性と呪詛属性の複合。呪詛属性のが僅かに多めな感じでしょうか。暗闇以外の状態異常は確認できません」
「私の『暗闇の邪眼・2』そのままって感じね。こっちは毒を入れる事には成功したはずよ。スタック値の確認は出来てないけど」
ワイアームの鳴き声が途絶える。
毒も受けているはずだし、仕掛けて来るだろうか?
「宣言する。貴方が仕掛けて来る瞬間こそが私にとっての攻撃の機会。貴方の闇を私の闇が絡め取り、喰らいついてあげるわ」
だったら準備をしておくとしよう。
これまでの試練からして、撃つ意味はあるはずだ。
「ボロォ!」
「ふんっ!」
「pmal『暗闇の邪眼・2』!」
嘴を開き、中に生え揃った牙を見せつけつつ、ワイアームの顔が暗闇の向こうから現れる。
ライトリはそれに素早く反応、盾で防御し、受け流すと共に毒のスタック値を僅かにだが伸ばす。
私は熱拍の樹呪のボーラを投げつつ、ワイアームに向けて各種呪法を乗せた『暗闇の邪眼・2』を撃ち込む。
結果は?
「ボロォ……ボロォ……」
「ダメージ的には微妙なようだけど、意味はあったようね」
「そうみたいです」
ワイアームは再び暗闇の中に姿を隠そうとした。
だが、体に絡まった熱拍の樹呪のボーラの輝きは暗闇の中で煌々と輝いている。
そして、多少は暗闇が入ったらしく、ワイアームの飛行軌道は不規則な物……上下左右へ蛇行するようになっている。
「じゃ、後はあの輝きに向かって攻撃を……」
「いえ、そう上手くはいかないようです」
これは攻撃のチャンス。
そう思ったのだが……そう上手くはいかないらしい。
ワイアームは急に地面に向かって移動すると、ワイアーム本体は地面の中に潜り、熱拍の樹呪のボーラは地表に残されてしまった。
「……。あのワイアーム、体が半分液体だったりするのかしら?」
「それはあるかもしれません」
熱拍の樹呪のボーラはしっかりとワイアームに絡みついていたはず。
少なくとも、ちょっと羽ばたいたり、地面にこすりつけたりした程度では取れないはずだ。
それがあっさり取れたとなると……うん、半分冗談で言ったのだが、本当に体が半分液体だったりするのかもしれない。
「とりあえず周囲の警戒を……」
なんにせよ、また相手が出て来るまで待つしかない状況だ。
そう判断した私は再びライトリの直上に移動。
周囲に視線を向けようとした。
「ボロォ!」
「ぶべえっ!?」
「タルさん!?」
だが注意を向けるよりも早く、と言うか文字通りの目の前にワイアームの翼が出現。
私は吹き飛ばされた。
「ボロォ!」
「あぐうっ!?」
続けてライトリの足元からワイアームが出現。
私と同じように翼で撃たれ、1メートルほど打ち上げられてから地面に落ちる。
「ボロォ!」
「くっ!?」
私はこの時点でワイアームのこの攻撃は、連続突進の類だと判断。
ネツミテを錫杖形態にして構えつつ、勘で横に跳ぶ。
回避成功。
目の前をワイアームの翼が通り抜けていく。
「ボロォ!」
「舐めないで欲しいです!」
ワイアームが再びライトリに襲い掛かる。
対するライトリは自分を覆うように毒液のカプセルを出現させて迎撃。
カプセルは破壊され、ライトリは吹き飛ばされたが、吹き飛ばされる時の姿からして防御に成功すると共に、ワイアームに更なる毒を与える事にも成功したようだ。
「ボッロオォッ!」
「「!?」」
地面に何かが衝突したような音と共に、衝撃波がやってきて、私もライトリも、それに消灯空間も吹き飛ばされる。
「なるほどね……消灯空間の解除と引き換えにダメージ、体勢崩し、吹き飛ばしと。地味に厄介な事をしてくれるじゃない」
「その前の転移からの突進含めて、面倒ですね」
「ボロォボロォ……」
だが私もライトリも直ぐに体勢を立て直し、ホバリングをしつつこちらを睨みつけるワイアームに向けて構えを取った。