659:タルウィダーク・3-2
本日は五話更新になります。
こちらは二話目です。
「さて、場所はいつも通りね」
闇の中を沈んだ先はいつも通りの闘技場だった。
「くくく、観客は少々違うぞ」
「観客が違う?」
『悪創の偽神呪』は人間に似た姿で観客席に居る。
どうやら、今回のパートナーはトカゲ姿の『悪創の偽神呪』を知らない人物のようだ。
そして、『悪創の偽神呪』の言葉に従って観客席を見てみれば……確かに普段と少々違う。
「ふうん、千客万来。と言うところかしら?」
「まあ、そんなところだ。気にすることはないぞ。私が何もさせないからな」
『悪創の偽神呪』と同格だろうなと思う人型が三人。
それと偽神呪クラスではない様だが、イベントでのゲストアバターに似た人形が七人分。
で、それよりも更に格が落ちる気がするマネキン人形のような物が多数。
上から順に偽神呪、『七つの大呪』、深層あるいは中層に居るカースだろうか?
となると、人型の一人……紫髪のが恐らくは仮称裁定の偽神呪になるだろう。
まあ、『悪創の偽神呪』の言う通り、気にする必要はないだろう。
「そしてゲストの到着だ」
「随分と人が多い……。ううん、人じゃないか」
「あら、ライトリじゃない」
どうやら今回のゲストはライトリのようだ。
何度か頭を振って周囲の状況を確認してから、私の方へと近づいてくる。
「どう言う繋がりで選ばれた?」
「今回の相手は光源を奪えるはずだから、そっちへの対策で呼ばれたかも」
「ああ、久しぶりに光る花が活用できる相手なんですね。分かりました」
ライトリ……ライトリカブトの異形は頭に生やした光るトリカブトの花、戦闘スタイルは毒タンクで遠距離攻撃もそれなりに可能なタイプ。
毒の眼宮などで戦っている姿を見た限りだと、以前に組んだ時と同じ方向で順調に育っているようだし、プロだけあってプレイヤースキルも問題なし。
今回の相手との相性も悪くないはずなので、安心して戦えそうだ。
「では、『竜狩りの呪人』ライトリカブトも来たところで、今回の試練の相手の登場とさせてもらおう」
「私が前衛。タルさんが後衛のオーソドックスな隊形でまずは行きましょう」
「そうね。そうしましょうか」
『悪創の偽神呪』が呪詛を集め出すと共に、ライトリが前に出て、私は一歩引く。
そして、ライトリは盾と槍を構えて敵に備え、私は熱拍の樹呪のボーラを何時でも投じられるように構えておく。
「ライトリ、暗闇対策は大丈夫?」
「それなりにはしてあります。致命的状態異常の一つなので」
呪詛の霧の内側から、梟のそれに似た、けれど天に向かって伸びる一本角を持った顔が音もなく現れる。
梟の顔は黒い羽毛に覆われていて、光沢も何もない。
だが、関節がとても柔軟であるらしく、一回転半ぐらいは難なく首を回せるようだった。
「生放送は……自動で録画モードに切り替わってますね」
「それは当然でしょうね」
顔に続いて現れたのは、漆黒の鱗に覆われた、蛇のように細長い胴体。
次に羽毛に覆われた巨大な翼。
「敵はやっぱりワイバーン……」
「ではないみたいです」
そして再び蛇のように細長い胴体が現れ、現れ続ける胴体はやがてすぼんでいき、尾になって、途切れた。
「足の無い飛竜。ワイアームですね」
「そっちだったかぁ……」
つまり、現れたのは全身が漆黒の羽毛あるいは鱗に覆われた梟頭のワイアームだった。
で、ワイアームと言うのは……簡単に言えば脚の無いワイバーンであり、翼の生えた蛇である。
作品によってはドラゴンの成り損ないであるワイバーンだが、そのワイバーンの更なる成り損ないとして扱われることもある存在だ。
だが、ワイバーンやドラゴンの原型として、もっと古い存在、強大な存在として扱われることもある。
このワイアームはさて、どっちだろうか?
「で、試練はもう開始でいいの?」
「いいや、もう少し待て」
現れたワイアームは呪詛の霧から現れた勢いそのままに、ゆっくりと闘技場の観客席の上を飛んでいく。
サイズは胴体の長さが10メートルちょっと、太さが1メートルあるかないかと言うところだから、割と小さめに感じる。
飛行スピードは私とほぼ同等だが、ワイアームの飛行軌道に沿う形で、黒い空間が空中に途切れ途切れ残されているのが気になるところではある。
「では……」
やがてワイアームは私たちから水平距離で20メートルほど離れ、地上から3メートルほど離れた場所でホバリングを始める。
どうやら向こうの準備運動……いや、準備は終わったようだ。
「試練開始だ」
「ボーロボーロオオォォ」
「……」
「来い」
そして『悪創の偽神呪』の言葉と共に戦闘開始。
ワイアームは一度鳴いて……その場から動かない?
これまでの連中が試練開始と同時に積極的に攻めてきたのを見ると不安になる挙動だが、私がやる事に変わりはないか。
「ふんっ! それと……evarb『深淵の邪眼・3』!」
私は熱拍の樹呪のボーラを全力で投げつけると同時に、『深淵の邪眼・3』をワイアームに向かって放った。
対するワイアームの挙動は……。
「ボロォ」
「っ!?」
「消えた……」
私の『深淵の邪眼・3』が命中するよりも早く黒い球体を生成、『深淵の邪眼・3』を防ぐ。
そして生成された黒い球体が熱拍の樹呪のボーラによって粉砕され、それが闘技場の地面に染み込むような姿を見せる間に、ワイアームはその場から消え去っていた。
09/12誤字訂正