656:ボイルケイヴ-1
「混濁! コロイド! 泥水! ざりちゅの体は速やかに四散、溶解して、コーヒーの如くなっていく! 分かっちゃいたでチュが、やっぱり無理でっチュ、チュ、チュアッバアアァァァ!」
『死沸焼徳の呪界』に入った化身ゴーレムはリズムよく言葉を残しつつ、砂の体を湿気によって固め、崩れさせ、足元に広がっていた熱湯の中へと溶け込んでいった。
「ネタが色々と混ざっていて理解しづらい上に取っ散らかっているから、評価外でいいかしら?」
『でっチュよねー。ざりちゅもやっていて、これは駄目だと思ったでチュ。どう足掻いても駄目な状態だったでチュから、せめて一発ネタの類でも残そうと思ったんでチュが』
と言う訳で化身ゴーレムは力尽きた。
周囲の湿度と立ち上る蒸気からして、再作成するのは無駄。
既にその体を構築していた飢渇の毒砂は『死沸焼徳の呪界』全体に広がる熱水に溶け込んでしまっているし、そちらの回収をする事も不可能だろう。
「ま、化身ゴーレム……と言うよりザリチュが此処ではほぼ戦力外になるのは予想済みだったから問題はないわね」
『でチュね。ざりちゅも此処で何か出来るとは思ってないでチュ。此処はざりちゅにとっては天敵かつ地獄みたいなものでチュよ』
では改めて周囲を確認。
クカタチの所有する呪限無『死沸焼徳の呪界』は簡単に言えば熱湯の溜まった地底湖である。
詳しく言うのであれば、複数の熱湯の地底湖が大小様々かつ複雑に入り組んだ通路で繋がれた呪限無であり、呪限無の各所からは高温の液体が湧き出し続けている。
なお、通路は完全に水没したもの、水路と陸路が分けられたもの、私たちが今居る場所のように膝下ぐらいまで熱湯が溜まっている場所などが入り混じっている。
それと、湧き出す高温の液体は加熱された水とは限らず、強酸性のもの、強塩基性のもの、何かしらの鉱物が溶け込んだものなど、色々と混ざっている。
なので完全攻略には熱湯中で活動する手段を整えるだけでは足りず、他にも色々と必要な訳だが……今回はそこまで深く探索する気はないので、問題はないだろう。
『で、戦闘は大丈夫なんでチュか?』
「『白覆尽罠の呪界』が大丈夫だったから、こっちも何とかはなると思うわ」
そんな『死沸焼徳の呪界』に出てくる敵は?
「「「ガギグバァ!」」」
「ネツミテ!」
大きく分けて二種類だ。
一つは今私に襲い掛かり、ネツミテで迎撃されている連中のように、熱湯を固めて何かしらの生物……小型魚類、鮫、亀、人間などの姿を取ったカース、擬態の熱水呪。
もう一つは掲示板情報だが、擬態の熱水呪たちの基になった生物たちを骨だけにして動かしているような、残存の骨呪。
他にも特定のポイントだったり、レアだったりで居るようだが、基本はこの二種類だ。
うん、どう考えても、クカタチが習得した呪術の影響を受けている。
「ふんっ! せいっ! とうっ!」
「「「ベギャアァァ!?」」」
『やっぱり余裕でチュねぇ』
なお、強さ的には『白覆尽罠の呪界』に出現したアンドロイドと大差なし。
よって化身ゴーレムが居なくても、今の私とネツミテだったら適当に殴って邪眼術を撃ち込めば終わる。
「はい終わりっと。じゃ、とっとと目標のアイテムを回収して帰りましょうか」
『クカタチへの挨拶はいいんでチュか?』
「向こうも向こうで忙しいでしょうし、メッセージは飛ばしてあるから大丈夫よ。ちなみに呪限無侵入の許可も事前に貰っているわ」
『でチュか』
戦闘を終えた私は移動を始める。
余談だが、現状でプレイヤーが気軽に行ける浅層の呪限無は私の『熱樹渇泥の呪界』、アイムさんの『白覆尽罠の呪界』、クカタチの『死沸焼徳の呪界』があるのだが、プレイヤーに一番人気が無いのは『死沸焼徳の呪界』であるらしい。
やはり高熱と水没、両方の対策が必要であるという点が、敷居を上げてしまっているようだ。
それでも水中で活動可能になる呪いを持ったプレイヤーを中心に探索は進めているようだが、この呪限無のボス……クカタチ曰く『陪審の鮫呪』リツロバン・シャウコウを他のプレイヤーが狩れるようになるのは、当分先になるだろう。
「えーと、此処がそうね」
『強酸性の方でチュね』
閑話休題。
移動を続けていた私は熱水が噴き出す場所を見つけた。
どうやら強酸性の液体の様で、ただの熱水なら触れても大丈夫な私にダメージが入っているし、皮膚と肉が軽く焼けている。
いや、それだけではないか。
蒸気と言う形で気化した強酸が呼吸器に入り込んで、ダメージを与えている感覚もある。
こんな場所が幾つもあるのなら……ぶっちゃけ、『白覆尽罠の呪界』よりもよほど罠に溢れているのではないだろうか?
「回収には成功っと」
『これ、たるうぃか、くかたち以外に回収できる存在は居るんでチュかね?』
「さあ? とりあえず自然回復とHPで耐えるなら、劣竜式呪詛構造体と同クラスのものが欲しいところでしょうね」
私は『白覆尽罠の呪界』で回収したガラスで作った瓶に強酸を入れて、回収。
なお、強酸とはpHが0に近い液体の事であり、特定の物体を指す言葉ではない。
なので一口に強酸と言っても正体は様々であり、硫酸、硝酸、塩酸等々存在する。
中にはフッ化水素酸のようにガラスを腐食する性質を持つ物もあるのだが……とりあえず目の前の液体は大丈夫なようだ。
と言うか運営はそこらへんについては何処まで拘っているのだろうか?
後で検証班に聞いてみてもいいかもしれない。
「さて、後は強塩基の方ね」
『強酸と強塩基を合わせて中和し、塩を生成するんでチュよね。変なのが出来ないといいでチュね』
「変なのが出来たらその時はその時よ」
その後私は難なく強塩基の方も回収に成功。
『死沸焼徳の呪界』を後にしたのだった。
09/10誤字訂正




