655:ホワイトトラップ-1
「さて今日はどうするでチュか?」
曜日が変わって金曜日。
「ゴキバキっと。んー、どうしようかしらね? 恐羊の竜呪の肉はもう何日かは放置しておいた方がいい感じなのよね。暗幕の梟呪の方も幾つかの素材を追加したい感じだし……」
「あ、昨日の浮沈の宿借呪、まだ残ってたんでチュね」
「ゴリゴリ。そりゃあ、十匹以上狩ったんだから、一匹くらいは残ってるわよ」
私は茹でた浮沈の宿借呪を食べつつ、いつもの確認をしていく。
そして、いつもの確認から外れたところだと、恐羊の竜呪の肉についてはまだ放置で。
暗幕の梟呪については、炎視の目玉呪の毒腺と恐羊の竜呪の墨袋を暗幕の梟呪の死体の中に投入して再封印。
何となくだが暗幕の梟呪の死体がキビャックと呼ばれるイヌイットの発酵料理に近い何かになってしまいそうな気もしてきたが……まあ、気にしないでおこう。
私ならたぶん何とかなる。
「で、話を戻すけど、本当にどうしようかしら? ザリアたちの準備を考えると、収奪の苔竜呪に挑むのは来週の月曜日とかになりそうな気はするのよねぇ……」
「そんなに必要でチュか? 明日辺り挑めてもおかしくはないと思うんでチュが」
「ま、何にせよ今日は私の準備も整ってないし、自己強化に勤しみ……いえ、折角だから、他の呪限無に行きましょうか。えーと、アイムさんに連絡してっと」
「そっちからでチュか」
さて、それでは今日はまずI'mBoxさんの呪限無である『白覆尽罠の呪界』に向かうとしよう。
だが、ただ向かうのでは時間もかかるし、面白くもない。
と言う訳で『理法揺凝の呪海』経由で、直接乗り込むことで、呪限無に何かしらの影響が出るかどうかを確かめつつだ。
「さ、行くわよ。ザリチュ」
「分かったでチュ」
そんな流れで私たちは『ダマーヴァンド』から『理法揺凝の呪海』経由で『白覆尽罠の呪界』に突入した。
『ーーーーーーー!!』
「けたたましいと言う表現に相応しい感じのアラームね……」
「でチュねぇ。で、これは呪限無が外敵に反応したのか、アラームトラップの類を踏んだのか、どっちだと思うでチュ?」
そして、突入した私たちを出迎えたのは大音量のアラームによる合唱だった。
「どっちもあり得るのが此処の呪限無だと思うのよね……」
『白覆尽罠の呪界』。
以前に聞いた話の通り、見た目は床、壁、天井が白一色の迷路だ。
検証班が地図を作ってくれた上に配布もしているのだが、私たちは正規のルートで突入したわけではないので、何処に居るかは分からない。
で、事前に聞いた話だと此処から大量の罠とモンスターが襲い掛かってくるわけだが……。
「「「ーーーーー!!」」」
「何か来たでチュね」
「アンドロイドって感じね」
曲がり角の向こうから、両手に武器を持ったアンドロイドが何体も姿を現わし、私たちの方へと向かってくる。
その動きは機敏でありつつ、統制の取れたものであり、初めて挑む呪限無が此処であるプレイヤーにとってはかなりの脅威だろう。
「じゃ、相手してくるでっチュよー!」
「「「!?」」」
が、今の化身ゴーレムにとっては大した相手ではない。
と言う事で、アンドロイドの群れに突っ込んだ化身ゴーレムは一方的に敵を葬っていく。
どうやら数が多い分だけ、一体一体の能力が低めであるらしく、アンドロイドたちはまともに切り結ぶことも出来ていない。
「そう言えばたるうぃ。新しい呪限無に来たのはいいんでチュけど、此処で何を入手するつもりなんでチュ? ざりちゅ単体でこんな簡単に狩れるなら、こいつらの素材を回収しても使い道は殆どないでチュよ?」
「まあそうね。金属素材……特に鉄や鋼については残念ながら期待できないわ。下手な金属より竜呪たちの骨のが有用だったりするし」
私は呪限無の鑑定やアンドロイドの鑑定をしていく。
レベル的には『熱樹渇泥の呪界』と大差なし。
後に作られた分だけ、こちらの方が少しだけレベルが高いくらいか。
ただ、この分だと超大型ボスの素材をわざわざ回収しに行く必要はないだろう。
「でも、金属以外にもガラスとかもあるらしいのよね。呪限無産の呪いを大量に含んだガラスがあれば、一部の設備のアップグレードも出来るでしょうし、呪いを含んだ強力な酸性や塩基性の液体の回収も出来ると思うのよ」
「あー、この後はクカタチの呪限無にも行く気なんでチュね。たるうぃ」
「そういう事」
おっと、感圧式以外の罠があったらしい。
私に向かって無数の矢が飛んでくる。
が、この程度ならばネツミテを錫杖形態にすれば問題ない。
と言う訳で、呪詛の紐を操り、自在に動く打撃部と錫杖部分によって全ての矢を叩き落す。
それから数本鑑定してみたが……普通の鉄の矢だった、残念。
「タルさん。お久しぶりです」
「あらアイムさん。久しぶり。お邪魔してるわ」
「はい、検証へのお誘いありがとうございます。おかげでいいデータが取れました」
移動すること暫く。
火炎放射を無視し、電撃に痺れ、冷水鉄砲を全力で回避し、面倒くさくなったので単純な矢やカッターによる攻撃は受けても無視して移動してきた私たちの前にアイムさんが姿を現わす。
どうやっているのかは分からないが、箱が地面の上をスライドして移動しているようだ。
周囲には検証班と思しきプレイヤーたちが居て、お互いに一礼する。
「タルさん。目的のアイテムがあるなら案内しましょうか?」
「あらそう? じゃあ、ガラスが取れる場所に案内してもらっていいかしら?」
「分かりました。こっちです」
その後、アイムさんの案内で目的であるガラス……呪いによって強度関係が強化されたガラスはあっさり手に入った。
なお、道中で一部を除いて罠が直撃しても平然としている私たちを見たアイムさんたちは絶句していたが……レベル39のステータス、『劣竜式呪詛構造体』、それに防具の性能が組み合わさればこんな物であるので、気にしないでいただきたい。
そうして私たちは『白覆尽罠の呪界』を後にし、必要なアイテムを作ってから、クカタチの呪限無である『死沸焼徳の呪界』へと向かった。
他所呪限無は来るのが遅すぎたため、あっさり進行で行きます。