654:ハーミットクラブ-2
「「「ハミイイィィ!!」」」
「相変わらずの遠距離攻撃能力ね……」
「きょ、距離があるから大丈夫でチュが、結構な密度の弾幕でチュね……」
熱拍の樹呪の根に宿借呪が居るのはまあいい。
これまで姿が見えなかった宿借呪が潜んでいる場所としては、熱拍の樹呪の根は適切であると言えるのだから。
私たちへ攻撃を仕掛けてくるのもまあいい。
私たちが熱拍の樹呪を殺した以上、その根に潜んでいた宿借呪たちが私たちに敵対的な意識を持つのも当然と言えるのだから。
「ヂュブラガァ!?」
「この光線、石化に加えて重力増加もあるようね」
「流れ弾に当たった熱拍の幼樹呪と毒頭尾の蜻蛉呪がガンガン落とされていっているでチュからねぇ」
問題は宿借呪の放つ漆黒の光線が重力増加系の効果も有しており、喰らった私たち以外のカースが体の一部を石化させた上で飢渇の泥呪の海へと落ちて行く姿が幾つも見えている事か。
私はどちらにも耐性を持っているはずだが、イベントで見た宿借呪のスペックを考えると……やはり受けないに越したことはない。
「まあいいわ。幸いにして視界は良好。射線は通ってる。あっちがその気なら、この距離から攻撃を仕掛けて……」
「待つでチュよたるうぃ!」
ではどうやって反撃するか。
幸いにして私の邪眼術ならば、この距離からでも攻撃は可能。
素材として回収するのは最後の一体だけにすればいいと割り切れば、ここで漆黒の光線を避けつつ邪眼術を撃ち込んでいればいい。
そう判断した私が邪眼術のチャージをすると共に狙いを付けたタイミングだった。
ザリチュが声を上げると同時に近くの飢渇の泥呪の海から何かが姿を現わす。
「ハミィットォ!」
「デデチュアアァァッ!?」
「んなっ!?」
「ちょっ、ありでチュか!?」
姿を現わしたのは宿借呪。
それはまあいい。
飢渇の泥呪の海を泳いできて、どうやってか浮力を発生させて、浮上したのだろう。
問題は現れた宿借呪の貝殻……いや、熱拍の樹呪の根粒を基にしたであろう殻にくっついている喉枯れの縛蔓呪と、宿借呪の鋏で挟まれている乾電の鰻呪だ。
「ハミィ!」
「デデチュウウゥッゥ!」
「電撃手榴弾! はどうでもいいけど、そっちの蔓は勘弁よ!」
「あ、武器扱いなんでチュか。目くらましにしかなってないでチュが」
宿借呪が私に向かって乾電の鰻呪を投げつけ、乾電の鰻呪は勢い良く放電。
そして、その陰から喉枯れの縛蔓呪が蔓を伸ばして私を絡め取ろうとし、更には宿借呪自身の口から散弾あるいは泡のように漆黒の光線が放たれる。
勿論、遠距離からの支援砲撃は続いている。
攻撃の密度は極めて高く、避けようとすればどれかの被弾は免れないだろう。
「舐めるな。ezeerf『灼熱の邪眼・3』」
「ハガミャ!?」
だったら避けないだけである。
『熱波の呪い』は未解除なので、私が支配する呪詛には当たり判定がある。
だから目の前の宿借呪の散弾は呪詛の盾で迎撃し、喉枯れの縛蔓呪の蔓は化身ゴーレムに対処させ、乾電の鰻呪の放電は普通に回避。
そして、呪詛の剣を宿借呪に突き刺し、殻に付いている喉枯れの縛蔓呪ごと体の内側から焼き尽くしてやる。
「ハミャアァ……」
「ふん」
「まあ、出現場所の都合上、そうでチュよね」
『熱樹渇泥の呪界』に出現する以上、宿借呪のスペックはそこまで高くはない。
レベルに直せば、せいぜい25がいいところだろう。
で、肝心の正式な名前は……浮沈の宿借呪か。
重力の増減が出来ると見てよさそうだ。
「残るはあいつらの処分ね」
「ん? 殲滅するんでチュか?」
「此処まで明確に喧嘩を売られて、見逃してあげるほど私は優しくないわ」
私は浮沈の宿借呪の死体を盾代わりにして、残りの宿借呪が居る根の方の様子を確認。
相変わらずこちらに向けて漆黒の光線を放ってきている。
そして一部の宿借呪は大掛かりな攻撃を仕掛けるつもりであるらしく、根に隠れて何かの準備をしているようだ。
「行くわ……よぉ!?」
「チュアっとお!?」
その攻撃の正体は宿借呪たちに接近しようとした瞬間に分かった。
飢渇の泥呪の海から、そして宿借呪たちが居る方から、巨大な岩が幾つも私たちに向かって飛んできたのだ。
その勢いは、まるで空中で手を離したものが落ちるようであり、とてつもなく速く、岩同士が空中で衝突するだけで轟音と衝撃波が撒き散らされる。
理屈としては恐らく浮沈の宿借呪の能力である重力操作の活用。
漆黒の光線によって石化した熱拍の幼樹呪や毒頭尾の蜻蛉呪を私たちに向けて落としているのだろう。
「アンタらね……『熱樹渇泥の呪界』の資源はアンタらのものじゃなくて私のものなのよ! 全員カニ鍋……いえ、ヤドカリ鍋にしてあげるわ! ezeerf『灼熱の邪眼・3』!」
「「「!?」」」
これをこのまま放置すれば『熱樹渇泥の呪界』に及ぼす被害は決して無視できない規模になるだろう。
私は『呪法・感染蔓』込みの『灼熱の邪眼・3』を発動して攻撃。
更には紅色の蔓が暴れ狂う中で宿借呪たちに呪詛の剣を何十何百と射出して追撃。
接近に成功したら、匂いを頼りに一匹ずつネツミテでぶっ叩いて、殻ごと粉砕していく。
「『愚帝の暗き庭』で退いたのはこちらがやられるリスクがあったからだけど、それと同時にあの場の支配者が貴方たちであるのも理由の一つ。でもね。ここは『熱樹渇泥の呪界』。私の呪限無。此処の支配者は私、『虹霓竜瞳の不老不死呪』タルなの。理解したら……」
「ハミ……ハミィ……」
「後悔しながら死ね。血肉にはしてやるわ」
そして最後の一匹の口にネツミテを突き刺し、始末した。
「……。たるうぃ、人格が変わってないでチュか?」
「そうかしら? でもこれで正解だったと思うわよ。たぶんだけど宿借呪たちはきちんと格の差や立場を教えてあげないと、呪限無を乗っ取りに動くタイプだったでしょうし」
「でチュかぁ……」
「モグゴキッ、モグバキッ。んー、やっぱり時間をかけて茹でないと微妙ね。『灼熱の邪眼・3』だけじゃ熱が足りてない。生は論外だし。まあ、食うことは出来るけど」
「殻ごと食うのは流石にどうかと思うでチュよ。たるうぃ……」
≪呪い『空中浮遊』がアップデートされました≫
その後、私は数匹の浮沈の宿借呪をその場で見せつけるように殻ごと食し、残りの宿借呪は持ち帰って茹でヤドカリにしてから食べた。
きちんと茹でた方は美味しかったので、蟹っぽい味が食べたくなった時には回収する事を考えるとしよう。
なお、空中浮遊のアップデートについては、特に変化は感じられなかったので、こちらも『劣竜式呪詛構造体』と同じで、まだ情報が足りていないのだと思う。
別の空中浮遊持ちのカースをいずれ探すとしよう。
09/08誤字訂正