652:バブルホール-4
「ふうん。暗幕の梟呪と言う名前なのね」
「流石に暗闇の外ならはっきりと見えるでチュね」
私は化身ゴーレムが持ってきた梟型のカースを手に取ると鑑定。
それからいつもの要領で解体していき、パーツの一つ一つも鑑定していく。
なお、この間にも周囲の密林から他のカースが襲い掛かってくると思っていたのだが……どうしてか襲い掛かってくることはなかった。
この辺りに居るカースは狩り尽くしてしまったと言う事だろうか?
「羽根のこっち側ならね、逆だと暗闇の外でも一瞬迷うと思うわよ」
「あ、本当でチュね。そこに居るとはっきり分かっているなら認識できるでチュが、何処に居るか分からない状態で認識しろと言われたら、結構迷いそうでチュ」
さて、肝心の暗幕の梟呪だが……中々に良質な素材のようだ。
解体して得られたアイテムの一つである羽の鑑定結果はこうなっている。
△△△△△
暗幕の梟呪の羽
レベル:28
耐久度:100/100
干渉力:120
浸食率:100/100
異形度:17
暗幕の梟呪と言うカースに生えている羽。
隠密性に優れた羽であり、周囲の風景、音、力に溶け込むことで、敵対者に認識される事を防ぐ。
その性質上、呪詛を貯め込む事に適した内部構造も有している。
▽▽▽▽▽
「ちなみに今私はこうして二本の指で挟み込むように持ちつつ呪詛支配を試みているんだけど、呪詛を操る感覚的には、目を離したらそのままあるかどうかが分からなくなるわね」
「うわっ、相当でチュね……」
レベル的には今の私には物足りない素材のようにも思える。
だが、その能力については、私を超えている面もあると言えるだろう。
とにかく隠密性が高い。
「他の素材についてはどうなんでチュか? 特にあの暗闇を作り出していた部位は気になるんでチュけど」
「暗闇環境を作り出していたのは嘴ね。羽を繕う時についでに呪いを込めておいて、必要な時に空中に設置する事で開放。消灯空間と言う暗闇環境を作り出していたみたい」
「なるほどでチュ」
羽の他に得た素材は嘴、爪、目玉、肉、骨の五つ。
この内、私にとって特筆するべき事項があったのは嘴だ。
△△△△△
暗幕の梟呪の嘴
レベル:28
耐久度:100/100
干渉力:120
浸食率:100/100
異形度:17
暗幕の梟呪と言うカースの鋭い嘴。
消灯空間と言う呪詛の霧が放つ光が消え去る空間を作り出すことが出来る力を持つ。
暗幕の梟呪は羽を繕う時に羽に呪いを込める事で、狩りの準備をする。
▽▽▽▽▽
「使い道、あるんでチュね」
「ええ、あるわ。たぶんだけど、『暗闇の邪眼・2』の強化に使えると思う」
呪詛の霧が放つ光を消す空間。
少々の工夫は必要になるだろうが、たぶん私が使っても面白い使い方があるだろう。
とりあえず、暗幕の梟呪の死体をほぼ丸ごと使った上で、他に幾つかの素材を組み合わせれば、『暗闇の邪眼・2』の強化は出来そうな気がする。
「さて、奥に進みましょうか。『泡沫の大穴』って中断用のセーフティーエリアがあるって話だったわよね」
「でチュね。掲示板情報になるでチュが、それなりに奥まで進めば、結界扉が用意されているそうでチュ」
では、解体と鑑定が終わったところで移動を再開。
出現する敵を薙ぎ払いつつ、私たちは奥へと進んでいく。
「ところでたるうぃ? 暗幕の梟呪を『暗闇の邪眼・2』の強化に使うのはいいんでチュけど、試練を超えるのはどうするんでチュ? 暗幕の梟呪を素材に使ったらほぼ確実に相手の隠密性は跳ね上がるし消灯空間は使って来るでチュよ」
「ああその事」
「おまけにこの前の『灼熱の邪眼・3』で戦った牛陽の竜呪は対策をしていなかったせいで酷い苦戦をしたと聞いたでチュし」
「確かに酷い苦戦はしたわねぇ」
その中で話題に上がるのは、暗幕の梟呪を使うのはいいが、試練はどうするのかと言う話だ。
『灼熱の邪眼・3』の時に『悪創の偽神呪』にもう少しちゃんと対策をしろとも言われたし、確かに対策は考えておくべきだろう。
「ま、その辺は対策を講じる前に幾らか検証する必要があるわね」
「検証でチュか?」
おっと消灯空間。
私と化身ゴーレムの周囲が暗闇に閉ざされ、周囲の風景は何も見えなくなった。
つまり暗幕の梟呪が近くに来ている。
「『熱波の呪い』それと適当に『灼熱の邪眼・3』」
「!?」
私は全方位に向けて呪詛の鎖を射出。
暗幕の梟呪の能力上、見えないし、当たったという感覚もないが、たぶん当たってはいるだろう。
そして適当に空中へ向けて『灼熱の邪眼・3』を目一つ分で発動。
一瞬だが空中に炎が生じて、消灯空間内が明るく照らし出される。
結果、消灯空間に紛れ込んでいた暗幕の梟呪の姿が僅かだが浮かび上がる。
「ふんっ!」
「ホボォ!?」
姿が浮かび上がった暗幕の梟呪に向けて動作キーで発動した『灼熱の邪眼・3』発動。
全身が燃え上がる。
こうなれば、ザリチュだって見逃さない訳で……。
「チュラッハァ!」
「!?」
化身ゴーレムが剣を一振り。
暗幕の梟呪の体が地面に落ちる。
「はい一先ずの検証完了。この感じなら、手持ち出来るサイズの光源を複数用意しておけば、ある程度は対処出来ると思うわ」
「みたいでチュねぇ」
私たちは暗幕の梟呪の死体を回収。
それからしばらく進むと結界扉が見えたので、そこで切り上げることにした。
きっと『泡沫の大穴』をもっと奥に進めば、呪限無中層並みのカースも出て来るのかもしれないが……何となくだが数日がかりの探索になる気がするので、また別の機会にするとしよう。