650:バブルホール-2
「ヂュアアアァァァッ!」
「ふむ」
「ネズミが基本みたいでチュね」
『泡沫の大穴』を進む私たちの前に現れたのは、目や足、尻尾などを増やした上で巨大化させる事で異形度を増したネズミ型のモンスター。
何となくだが、今や懐かしの毒噛みネズミにも似ている気はする。
「せいっ!」
「ヂュゴォ!?」
とりあえずネツミテを錫杖形態にしてから、打撃部に呪詛を集めつつ振り下ろし、打撃部をネズミに当てる。
すると改良されたネツミテが効果を発揮。
打撃部が当たった場所を中心として、ネズミの体が燃え上がる。
どうやら『灼熱の邪眼・3』が発動したようだ。
「よっ、ほっ、とうっ、なかなか、いい感じ……ね!」
「ヂュボォ……」
そして大きな火炎ダメージによってネズミが怯んだので、追撃。
『毒の邪眼・3』が発動すれば、毒と熱病のような症状が出て動きが遅くなる。
『灼熱の邪眼・3』が発動すれば、最初に見せたように火炎属性の追撃が入って、大ダメージになる。
『深淵の邪眼・3』が発動すれば、目に見えて相手の動きが鈍る。
『気絶の邪眼・3』が発動すれば、一瞬の気絶に加えて、強制移動による転倒や行動不能による拘束が狙える。
総評、思っていた以上に改良されたネツミテは強い。
これならば、明らかな格下ならば、邪眼術なしでも時間をかけずに処理が出来るだろう。
「ヂュウゥ……」
「ネツミテが実にエグイでチュねぇ。特に『気絶の邪眼・3』がざりちゅが思っていた以上に凶悪でチュね」
「そうね。かなり強いわ。特に『気絶の邪眼・3』が出た時が強い」
と言う訳で、ネツミテの試運転完了、ネズミは処理された。
だいたいの感想はザリチュが言った通りだが、そこに少しだけ補足をしておくならばだ。
「まさかネツミテの打撃部と敵の体が接触した部分から引っ張り上げるように移動させるとは思っていなかったわ」
「おかげで振り下ろしなら1メートルちょっとの強制ジャンプ。横振りなら良くて真横へのスライドでチュが、場合によっては自分の腕が顔に向かって飛んでくるとか、後ろに向かって飛んで引きずり上げられるとか、0.1秒どころじゃない時間の強制拘束や予想できないクリーンヒットが入るようになっているでチュからねぇ」
「相手の体の正面から当ててしまうと、私の方に引き寄せることになるけど、ネツミテはフレイルだから、突くと言う動作とはほぼ無縁なのよね」
「本当にエグイでチュねぇ」
とまあ、伏呪の効果である引き寄せがとにかくエグイ。
戦闘場所によっては落下による即死とかも狙えるのではないだろうか?
「それでたるうぃ。『泡沫の大穴』についてはどうでチュか?」
「そうねぇ……」
さて、そんな感じに改良されたネツミテの凶悪さについての認識を共有している間にも私とザリチュは『泡沫の大穴』の奥へと進んでいく。
モンスターは容赦なく襲い掛かってくるが、カースですらないモンスターなど、一部例外を除けば私とザリチュの敵ではなく、雑談しながらでも処理できる範疇。
虎や牛が襲い掛かって来ても、苦戦する事なく処理して、私たちは奥に進んでいく。
足元が不安定な砂浜でありながら、周囲には密林系の木々が茂っていると言う環境についても、空を飛ぶ私と、砂の塊である化身ゴーレムにとっては警戒する価値もないレベル。
「普通のダンジョン、自前の呪限無、泡沫の世界を足して3.1で割ったぐらいな感じかしらね。現状は」
そんなわけで、現状の評価としてはこうなる。
「3で割らないんでチュか」
「だって、その三つの平均値よりちょっと悪いぐらいな感じだもの。まあ、当然の話でもあるんだけどね」
「まあ、自前の呪限無と誰でも入れるこんな場所で同レベルの素材が手に入ったら、そっちの方が問題でチュか」
「そういう事ね。もうちょっと奥に進めば変わるんでしょうけど。ちょっとずつ呪詛濃度が上がっている気配はあるし」
何と言うか、汎用の素材が欲しいなら、普通のダンジョンに行きましょう。
単純に高スペックな素材が欲しいなら、自前の呪限無に行きましょう。
他にはない特殊な物品が欲しいなら、泡沫の世界に行きましょう。
と言う感じで、現状ではわざわざ潜る意味を見出せない感じもあるのが『泡沫の大穴』と言うダンジョンである。
「んー……階層のスキップとか出来ないかしら?」
「出来ないと思うでチュよ。ダンジョンの外の不安定さを思い出して欲しいでチュ」
だが、こうして出現した以上は、何かしらのメリットがあるのではないかと思う。
例えば、深い階層に辿り着けば、呪限無の中層……『虹霓鏡宮の呪界』並みの素材が手に入るようになるとか。
それならば、自前の呪限無を持たず、泡沫の世界の存在も知らずなプレイヤーが潜って、自己強化をするという目的で、『泡沫の大穴』は使われる気がする。
「まあ、試すだけ……うわっと」
「水晶が出てきたでチュねぇ。と言うか、やっぱり無理だったでチュか」
「みたいね。残念だけど、地道に奥へと進むしかなさそうね」
とりあえず私の方法ではショートカットは出来ないようだ。
『理法揺凝の呪海』に繋がる穴を開けようとしたら、形容しがたい色合いの水晶が出て来てしまった。
「せめて邪眼術の強化に繋がるような新規素材の一つくらいは欲しいところね」
「確かにそれぐらいは欲しいでチュねぇ……」
私とザリチュは『泡沫の大穴』の奥に向かって進んでいく。
周囲の木々は毒々しい色合いに変化し、砂は黒く尖った物へと変化しつつあった。




