644:スコドパレス-2
本日二話目です。
明日からは一話更新に戻ります。
「おいーっす。死んで来た」
「あ、戻ってきた」
「案外耐久出来たわね」
『ダマーヴァンド』第五階層に戻り、手に入れた牛陽の竜呪の素材の鑑定と交換会をしていた私たちの前に、セーフティーエリアからブラクロが現れる。
どうやら死に戻ってきたようだ。
「で、収奪の苔竜呪はどんな感じだったの?」
「恐怖の眼宮に居たのとは全くの別物って感じだったな」
「……。詳しくお願いします。ブラクロ様」
と言う訳で、ストラスさんが質問をする形で、ブラクロには収奪の苔竜呪との戦闘について語ってもらう。
なお、その間に私は牛陽の竜呪の肉を焼いている。
それと牛陽の竜呪の素材の鑑定結果だが、状態異常が灼熱に、属性が火炎属性寄りになった以外は鼠毒の竜呪、恐羊の竜呪とほぼ変わりなし。
部位としては角、牙、肉、皮、首の枝葉、尾の甲殻、骨、根付きの蹄、血、このぐらいか。
「とまあ、こんな感じだな」
で、ブラクロの話をまとめるとだ。
まず開幕は竜の頭からの超高速かつ遠距離まで届く、岩を溶かすほどに高温な火炎ブレス。
だが、恐怖の眼宮の収奪の苔竜呪の全方位に響く咆哮と違って、横に移動する事で直撃の回避は可能だった。
なので、ブレスの回避を終えたブラクロは攻撃を仕掛けた訳だが……茎にしろ葉にしろ切っても切っても即座に再生してしまい、まるでダメージを与えられなかったとの事。
その内に最初のブレスが当たっていたのか、周囲から牛陽の竜呪が集まってきてしまい、数と範囲の暴力で圧殺されたようだ。
ちなみにメッセージに添付されていた牛陽の竜呪の素材は無事だったが、代わりだと言わんばかりにレベル低下だけでなく最大HP低下のデスペナが付与されたらしい。
「モグモグ、幾つか気になる点があるわね」
「極上の霜降り肉と言う感じね……あ、そうね。タルの言う通り、気になる点があるわね」
「ゴクン。この肉の為だけに狩るのもありだな。牛陽の竜呪」
「……。美味い」
「兄の話も重要ですが、ちょっと肉に集中したいです」
「いや、そこはちゃんと聞いてあげませんか? シロホワ様」
「あれー? 俺、結構頑張ったと思うんだけど……」
「心配しなくても、ブラクロの分の肉は此処に大量に用意してあるでチュよ」
「よし、話は後回しでいいな」
≪呪い『劣竜式呪詛構造体』がアップデートされました≫
牛陽の竜呪の肉の効果は無事に現れたようだ。
なお、私が食べたのは呪詛抜きをしていない肉だが、ザリアたちが食べているのは私がしっかりと呪詛を抜き、安全化した肉である。
で、話を戻してだ。
「モグモグ。収奪の苔竜呪についてだけど、とりあえず開幕の行動が違った点からして、眼宮ごとに能力が違うのは確定でいいわよね」
「はぁー……美味しい……。え、そうね。その点については確定でいいと思うわ」
「でもお姉ちゃん、そうなると問題があるね」
「そうですね。兄の攻撃力は自身へのバフもあって、決して無視できない程度にはあるはず。その攻撃能力を無為に帰すような回復能力が収奪の苔竜呪共通なのか、灼熱の眼宮のみなのか、これは重要な問題だと思います」
「とりあえず灼熱の眼宮のを俺がソロでってのは無理だな。あの回復力は対策がないと手に負えない」
収奪の苔竜呪のブレスの詳細が眼宮ごとに異なるのは確定。
問題は眼宮ごとに他の能力が変わるか否か。
私個人としては変わる可能性の方が高いかなとは思う。
牛陽の竜呪の回復能力を収奪の苔竜呪が模倣と言うか、奪って自分のものにしているのではないかなと思う。
それならば、ブレスについても同様の理屈で変化するのにも納得がいく。
で、収奪の苔竜呪自身の能力については、伏呪として特定の状態異常のスタック値が貯まり過ぎると即死させて来るぐらいではないかとも思う。
「とりあえず数でごり押すのは止めた方がいい感じかしら?」
「止めた方が無難だと思います、タル様。今、灼熱の眼宮に残っていたメンバーが戻ってきたので話を聞いたのですが、収奪の苔竜呪のブレスは入り口付近にまで十分な火勢を保ったまま届くと共に、収奪の苔竜呪の動きに合わせてしっかりと振られていたそうですから」
「数でごり押すのを止めるだけじゃなくて、討伐の際には事前通達もしておいた方が良さそうね。同じ眼宮に居たら、嫌でも戦闘に巻き込まれるようだし」
「そうね」
ストラスさんとザリアの話からして、やはり数でのゴリ押しは止めた方が無難そうだ。
岩を溶かすようなブレスを完全に防ぐ手段があれば話も変わってくるのだろうが……今この場に居る盾役と言うと、ロックオ、マントデア、ライトリの三人がトップ層になるが、その三人の誰もが止められないようだから、現状では無理だろう。
「それにしてもこうなってくると『虹霓鏡宮の呪界』は完全にレイドダンジョンの類ね。ソロでの探索は明らかに非推奨だし、何処も対策は必須。おまけに対策の内容は個別に考えておく必要があるようだから」
「モグモグ。そうね。だからこそ私はザリアたちを招くことに決めた訳だし」
収奪の苔竜呪についての話が一段落したところで食事を再開。
幸いにしてと言うか、あの図体ならば当然と見るべきか、牛陽の竜呪の肉は討伐に参加したプレイヤーが持っているものを掻き集めれば1トンは確実にあるので、呪詛抜きさえしておけば後は焼き肉パーティとして、好きなように焼けばいい。
と言う訳で、私は特製の香草と液体を利用したづけ焼きを開始する、ふふふ、どんな味になるかが楽しみで仕方がない。
「なんにせよ収奪の苔竜呪に挑むのは暫く後ね。まずは討伐に参加するメンバーの装備をアップグレードしたり、対策になるようなアイテムの開発をしないとどうしようもないと思うわ」
「そうね。私も同意するわ」
「と言う訳で、今は肉を焼きましょう。ふふふっ、美味しいわぁ……」
うん、中々美味しい。
元が高級和牛のような肉なので、特別な味付けが無くてもとても美味しいのだが、これはこれでいいものだ。
もっと上を目指せそうでもあるが……それはまた別の機会にするとしよう。




