643:スコドパレス-1
本日一話目です
「raelc『淀縛の邪眼・2』」
「ブミャウ!?」
灼熱の眼宮に突入した私たちを待ち構えていたのは、目一つ分の『灼熱の邪眼・3』と言う回避不可能な火炎属性ダメージと、見上げるほどに大きい牛陽の竜呪だった……。
と言う訳で戦闘開始。
とりあえず『呪法・感染蔓』を含む各種呪法を乗せた上で、牛陽の竜呪の全身ではなく部位ごとにかけるイメージで伏呪付きの『淀縛の邪眼・2』を発動した。
かなり軽減はされただろうが、これで伏呪の効果もあって、私が目的を達するまでぐらいは牛陽の竜呪は自由に動くことは出来なくなった。
「かかれぇ!」
「うおっしゃああぁぁ!」
「アオオオォォォン!」
「まさか俺が真上を向くとはな……!」
「ブムウウゥゥドオオォォカアアァァ!!」
そこへスクナたちが殺到。
大半のプレイヤーは牛陽の竜呪の足に攻撃を仕掛け、一部は足をよじ登って胴体へ攻撃を仕掛ける。
「回復スピードがヤベえぇんだけど!?」
「殴った傍から回復していく!?」
「ちょま、こんなの倒せるのか」
「いいから斬れ」
「etoditna『毒の邪眼・3』」
私は続けて毒を付与。
これで牛陽の竜呪の自然回復は防いだ。
「さて……全員一度退いて! ekawa『気絶の邪眼・3』」
「「「!?」」」
「ブモッ!?」
では仕掛けよう。
牛陽の竜呪の四本の足目掛けて呪詛の槍を飛ばし、伏呪付きの『気絶の邪眼・3』を足一本につき目三つで発動。
『気絶の邪眼・3』の効果で牛陽の竜呪の足から力が抜け、伏呪の効果によって3メートル私の方へと移動させる。
そう、牛陽の竜呪の四本の足、それも地面に接している辺りが、空中に居る私の方へと、3メートルも、強制的に、移動させられたのだ。
それは牛陽の竜呪にしてみれば強烈な足払いを仕掛けられたに等しく、桁違いの大きさを持つ体を以ってしても耐えられるような物ではない。
「ブモオオオオォォォォッ!?」
「たーおーれーるーぞおおおぉぉ!?」
「ネタをやってる場合かぁ!?」
「もうちょっと早く知らせが欲しかったんだがぁ!?」
「転倒、よし」
牛陽の竜呪の巨体が横倒しになっていく。
巨大な頭部が重力に引かれ、為す術もなく地面に近づいていく。
そして、とても都合が良い事に、牛陽の竜呪の頭が倒れ込む先には、尖塔のように尖った岩があった。
凹凸の激しい荒れ地である灼熱の眼宮にはよくある場所だが、実に都合がいい。
「ーーー!?」
「うわえぐ」
「最強武器地面さんか……」
と言う訳で、凄まじい音と衝撃を撒き散らしながら、頭が半分欠け、首がヤバい方向に折れ曲がった牛陽の竜呪はその場に倒れた。
「タルさん、どうして試練の時にこれをやらなかったんです?」
「あの時は単純に思いつかなかったのよ。それまでの試練の内容から、『灼熱の邪眼・2』を使わないとと思ってたし」
あ、クカタチが来たか。
まあ、スクナたちが居る時点で、やってきているとは思っていたが。
「かかれ! 今がチャンスだ!!」
「うおっしゃああぁぁっ!」
「首をよこせええぇぇ!!」
なお、頭が半分欠け、首がヤバい方向に折れ曲がった程度で死んだとは誰も思っていないらしく、倒れた牛陽の竜呪に向かってプレイヤーが襲い掛かっていく。
スクナの剣技は相変わらずだし、マントデアは恐羊の竜呪の角を加工して刃にしたらしき斧を振るい、ブラクロは何処かでアイテムを入手してきたのか、一瞬だけ巨大化して蹴りを放つ。
クカタチも変身して噛みついているし、化身ゴーレムもズワムロンソの効果を活用して伸びた刃で切り刻む。
他のプレイヤーたちもこれ幸いと言わんばかりにやりたい放題していく。
「ーーー……」
「うおっ!?」
「消えた!?」
「これで終わり……か?」
やがて牛陽の竜呪の体が突如として消え去り、同時にメッセージの方に何かしらの着信があったことを告げる表記が出現する。
「ふうん、牛陽の竜呪は自動解体、自動分配みたいね」
「超大型ボスと同じか」
「まあ、超大型ボスよりも大きいからな」
「これで分類上は雑魚らしいですから、とんでもない話ですよねー」
どうやら牛陽の竜呪のアイテム入手は超大型ボスと同じ仕様であるらしい。
まあ、下手な高層ビルよりも大きいかもしれない相手を解体しろと言われても困るので、この方が都合はいい。
なお、私が入手したのは、牛陽の竜呪の牙、肉、皮、血だ。
これでとりあえずの目的は達したと思っていいだろう。
「じゃあ、一度脱出を……っ!?」
「なんだ!?」
「あっつう!?」
「これが此処の特殊ルールか……」
全員で得たアイテムの確認をしていたところに熱波が到来し、私のHPが僅かにだが削られた。
周囲に牛陽の竜呪の姿はない。
足場の最下層には溶岩が見えるが、距離はかなり離れている。
となると……遠くの方に見える灼熱の眼宮の竜骨塔が仕事をしたと見ていいだろう。
ダメージと灼熱の状態異常をバラまく仕掛けとは、またシンプルに厄介なものを持ってきたものである。
「あ、タル。俺は竜骨塔の方に姿を隠しながら行って、此処の収奪の苔竜呪に挑んでみる」
「いいの? ブラクロ」
「色々と確かめないといけない事があるって話だしな。じゃ、行ってくるわ」
ブラクロが竜骨塔の方へ向かって行く。
私たちは二名の検証班を残して、灼熱の眼宮の外に出ていく。
さてどうなるだろうか?
08/29誤字訂正